04.

 公園に入った。


 殴ればいいのか、踊ればいいのか。


 分からない。


 分からないまま、間合いをもって、対峙する。


「僕の、自己紹介から。本来は自己紹介しちゃだめな職業なんですけど」


 彼。手と足を、ほぐしている。


「厚労の末端をやってます」


「厚労?」


 彼が、ゆっくり近付いてくる。


「まあ、スパイみたいなもんです。内偵調査っていうんですけど。全国を回って、治安とか、内乱とか。そういうのを見て回るのが仕事で」


 間合い。入った。耐えきれず、足が出てしまう。


「ここにも、治安調査のために来ました」


 彼が、躱す。


 二発。右と左。飛んでくる。避けた。


「驚きました。あなたひとりで、街を護っているなんて」


 躱して、膝でかち上げる。


「わたしは、なにもしてない」


「いやいや」


 足をかけてくる。跳んで躱し、かかとを落とす。やはり躱された。


「あなたは、綺麗だ」


「やめろ。女だからって」


「違う」


 声を聞いて、動きが、止まってしまった。


 手。


「顔じゃない。生き方が」


 握られる。


「あなたは、こんなに闘う力を持っているのに、それに支配されない」


 もうひとつの手が、腰に回る。


「拳を振り下ろす先を、知っている」


 彼が、回った。


「警察も浄化されている。あなたがやったんですか?」


 足が。勝手に。動いていく。


「私は、ただ」


「ただ?」


 踊る。


 何を。


 何を言いたいんだろう。わたしは。


「わからない」


 ほんとうに。わからない。


「僕もです。仕事柄、何をしてるのかなって思うことが、よくあります」


 踊りのなかに、言葉が、融けていく。


「あなたと僕は、似てるのかもしれない」


 足が、止まってしまった。


 踊りが、止まる。


 もっと、踊っていたいのに。


 心が、止まった。


 はじめて見かけたときからの、感触。


「似てる」


 私と、彼。


「たぶん、似てるんだと、思う」


 彼の顔。こちらを、まっすぐ見ている。その、瞳の線さえも。


「最初に会ったときから。感じてた。私は」


「僕もです。なんか、見たことあるけど、思い出せないような感じで」


「私も」


「不思議ですね。会って3日目で。それも、二回踊っただけで」


 彼。切ない顔。


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