03.

 鏡に映った、自分の顔。


 にやけている。


 昨日の、彼との踊りが。ステップや伸びた手が。ひとつひとつ、思い出される。


「くそっ」


 両手で顔を張った。


 彼を。ぼこぼこにする。


 なぜ。


 なぜぼこぼこにするのか。


 わからない。


 わからなかった。


 それでも、ぼこぼこにする。


 フードを被って、サングラスは迷ったけど、かけずに外に出る。


 ダンスフロア。


 彼を、探す。


 もういちど。


 いない。


 閉店まで、粘って。それでも、来なかった。


 フロアを出る。


 この感情は。なんだ。


 恋か。一回ちょっとだけ踊って、それで惚れたのか。そんなことで。


「違う」


 ぜったいに。


「なにがですか?」


 声が、後ろから聞こえる。


 振り返りながら、肘を思いっきりぶつけた。


 当たった。手応え。


 彼が、崩れ落ちる。


「あっ」


 しまった。不意打ちになってしまった。これは、卑怯だ。


「ごめんなさい。つい」


「大丈夫です。くらったふりですから」


 彼。何事もなかったように、立ち上がる。


「曇った顔をしてたから、一発ぐらいはと思って」


「おまえは」


 なんだ。


 聞こうとして、やめた。


「僕ですか?」


「いや、いい。その」


「踊りますか?」


 フロアはもう閉まっている。


「そこの公園で。それとも、殴り合ったほうが?」


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