第三十三話 愛と憎悪と一つの決意-5

「避難された方々はこちらに集まっていただけるようお願いいたします!」


 翌日の夜、スカルプリズン警察署には大勢の避難民が押し寄せていた。

 警官は避難民に炊き出しや場所の提供を行っており、人々は不安に怯えていた。

 エントランスホールで毛布などの配給をしていた男性警官の一人にボロボロのローブを羽織っている少年が近づいてくる。


「あの……すいません、毛布を一枚もらってもいいですか?」


 顔をフードで隠している少年を警官は怪訝に感じたが、微笑みを浮かべて毛布を手渡す。


「あっ……ありがとうございます!」


 そう言いながら、突然、少年のフードの奥から刃物のようなものが飛び出し、警官の首に当てられる。


「そこを動くな! 全員座って両手を挙げろ!」


 少年が警官を人質に取り、その場にいた人々に向かって叫ぶ。

 その時、風が吹いて少年のフードが脱げる。


「う、右左原ハサミ!? 何故、警察署に!? 指名手配を受けているはずだろう!?」


 人質となった警察官はハサミがいることに驚く。


「あまり喋るな。俺は人質とか慣れていないから手元が狂って首を斬ってしまうかもしれないぞ」

「なんて卑怯な真似を……」


 人々はハサミから言われた通りに両手を挙げて座り込む。


「良し。今だ! ラセンとオルバークは留置場からアフロスたちを解放しに行け!」

「「了解!」」


 ハサミと同じく避難民に紛れ込んでいたラセンとオルバークが姿を現して警察署の地下に駆けていく。


「仲間の解放が目的か!」

「俺だってこんなことは出来ればしたくないが、手段は選んではいられない。灯台下暗し的な作戦だったが、避難場所となっていることで大して警戒されずに侵入出来た」

「ハサミ、良心は傷つくだろうが、ここは心を鬼にしろ」


 そこにフードを外した旋風が現れる。


「いいかよく聞け君たち! 私は右左原旋風! 私がカミキリの正体だ!」


 旋風の告白に避難民たちはざわめく。


「君たちは我々がこの事態の元凶だと思い込んでいるようだが、一応言わせていただくとそれは間違いだ! 街で暴れているあの怪物はWIGが作り出したものだ!」

「ふざけんな! 誰がお前らの話なんて信じると思っているんだ!」


 避難民の中にいた一人の中年男性が野次を飛ばす。

 人質を取られている警官たちは顔を青くするが、男性の発言に触発されて、避難民たちが声を上げ始める。


「駄目だ。姉さん、この人たちを説得することは今の俺たちでは不可能らしい」

「……まあ、当然だろうな。私たちは狼少年だ」


 旋風が残念そうにそう呟いた直後、警察署の上空にWIGのヘリがやって来た。

 ヘリは貨物コンテナを吊しており、警察署の真上でホバリングする。


「WIGだ! きっと私たちを救助しに来てくれたのよ!」

「やった! これでテロリストも捕まって、俺たちも助かるぞ!」


 避難民や警察はWIGのヘリを見て、安堵の表情を浮かべる。

 ヘリがコンテナを機体から切り離した。


「おい! コンテナが落ちてくるぞ!? 避けろ!」


 誰かの声で身の危険を察した人々が避けると、コンテナは警察署の広場に落下する。

 砂埃が舞う中、落下の衝撃で形の歪んだコンテナから這い出す影がハサミの目に留まる。


「エクステンドオオオオオッ!」


 コンテナから現れたのは浅黒い肌の大男だった。

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