第三十二話 愛と憎悪と一つの決意-4

「髪と神を懸けたダジャレとか胡散臭いぞ」

「ディアデムとエクステンドの両成敗を目的として作られたこの刀には、ディアデムを葬り、EXスタイルを失わせる力がある。詳しく言えば、髪切の刃には次元を切り裂く特性があり、その特性を利用してエクステリオスの流れを次元レベルで断ち切っている。もう一度EXスタイルを取り戻すためには臨死体験などで精神が次元の狭間を行き来するようなことがなければ不可能だ。WIGはこの刀の持つ力を恐れていた。だから、白剛がエクステンドを兵器に利用するつもりだと知った私は日本で白剛より先に髪切を手に入れ、彼の計画を阻止するためにCOMBを設立した。それから、正体を隠すためにカミキリに殺されたという嘘をでっちあげた。これまで明かせなかったことは本当にすまないと思っている」

「カミキリが右左原旋風だということは誰が知っているんだ?」

「COMBの中でも私の正体を知っているのはラセンとオルバークくらいだ」

「フモウも知らなかったのか……」

「後は一人、人ではないが野球帽の彼は知っていたはずだ」

「アニキ!? 傾狼のアニキか!?」


 思わぬ事実にハサミが目を丸くする。


「今は傾狼と呼ばれているのか。彼は私が髪切を手に入れるため日本に訪れた際に出会い、私がいなくなった後のことを想定して、ハサミの傍にいてくれるように頼んでいたんだ。彼は大事にしてくれているか?」

「……悪い姉さん、アニキはもういないんだ。喧嘩別れしてしまった」

「…………そうか。残念だったな」

「けど、いつかまた、アニキに会いたい。今は探している余裕なんてないけど、まだスカルプリズンの中にいるはずだから、全てが終わったら、今度は失くした大事なものを取り戻すんだ。俺は取り戻すために戦うんだ。姉さん――いや、カミキリ、力を貸して欲しい」

「全く、私の弟はたくましいな。私は組織を滅ぼされて、もう足掻くことすら諦めていたというのに、ここまで追い詰められてまだ立ち上がるか。ならば、姉の私が挫けるわけにはいかないな!」


 旋風の力強い声にラセンとオルバークが士気を取り戻す。


「ハサミ、これは君のものだ」


 ハサミは旋風から髪切を渡された。


「君にカミキリの名と刃を継いでもらいたい」

「俺がカミキリになるのか?」

「ああ、二代目カミキリだ。本来、これを持つべき者は高潔な魂を宿す者であるべきなんだ。血で汚れた私よりも君に相応しい」


 旋風の言葉に頷いたハサミが髪切を受け取り、鞘から刀を抜き、虚空を斬るように横一文字に振るった。


「とんでもない誕生日プレゼントだ」


 ハサミは今日が自分の誕生日だと思い出し、そう呟いて微笑んだ。


「だが、これを抜くのはここぞという時だけにしておけ。髪切には次元を断つ特性があると言ったが、その影響は使用者も受ける。刀を鞘から抜くだけでも発生する次元の歪みが使用者の身体に強烈な負荷を与える」

「なんて物騒な刀なんだ……」

「ところで、これからのことだが何か作戦はあるのか?」

「取り敢えず、今のままでは戦力があまりにも足りないだろうな」

「それだったら、まずは捕まった幹部たちを助けに行こう」


 旋風の発言に三人は口を開けてぽかんとした表情になる。

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