第三十一話 愛と憎悪と一つの決意-3
「ううっ、酷い目に遭いましたわ」
風呂から上がったラセンが疲れ切った様子で会議室の円卓に突っ伏す。
ハサミたちは地下に建造されていたCOMBの本拠地に辿り着いて身体を休めていた。
会議室の円卓は三つの空きが出来ており、ラセンとオルバークはそれぞれ自分の席に座って、ハサミはアフロスの席に腰掛けていた。
「じゃあ、状況も一旦落ち着いたことだし、姉さんから話を聞かせてもらうよ」
「そうだな。五年間、真実を知らなかったハサミには申し訳ないと思っている。だから、まずは紛れもない事実から話そう」
旋風が一呼吸をおいて意思を固める。
「実はエクステンドというものは宇宙人と戦うために生まれた存在なんだ」
「…………へ?」
ハサミは素っ頓狂な声を上げた。
「姉さん、場を和ませようとしたくなる気持ちはわかるけど、そのジョークは流石に……」
「信じられないかもしれないが、この話は本当だ。その宇宙人こそ全ての引き金になった元凶とも言える存在だ」
ハサミはラセンとオルバークを見るが、彼らは真剣な表情をしており、旋風の発言をおかしく思っているような様子はなかった。
「ディアデム。私たちがそう呼んでいる地球外生命体は今から五十年前に地球のルールを破壊するような侵略行為をしようとした」
「それってまさか……」
「現在では革神の日と呼ばれている大晦日。地球上の至るところにUFOが現れて何十万もの人間の命が奪われた。それ以前にもディアデムが地球に飛来したという事例はあったのだが、ここまでの被害を受けるとは誰も考えていなかったから私たち人間にはどうすることも出来なかったんだ」
「大事件じゃないか! たった五十年前のことなのにどうして誰も知らないんだ!」
「ディアデムを直接見た人間はほとんど残らず殺されているんだ。おまけに生き残った数少ない人間も当時のWIGに捕えられてしまった。だから、五十年前の事件は世界規模で秘匿されて、更に現れたエクステンドによる暴走のせいで多数の死傷者が出ていたから世間ではディアデムの事件がエクステンドの事件と混同されてしまったのだろう」
「ディアデムって一体何なんだ?」
「簡単に言えば、遠い銀河の彼方からやって来た寄生生物。知的生命体のいる星に現れて、その星の生き物の頭に寄生することで宿主が持つ養分や知識を奪う特性がある。そうして宿主の星が枯れて滅びたら、得た資源を母星に持ち帰って自分たちの文明を発展させるらしい。エクステンドはディアデムの襲撃を辛うじて生き延びた人間が急速に進化したもの。毒に対する抗体のようなものだな。ディアデムやエクステンドは脳からエクステリオスと呼ばれる特殊なエネルギーを発生させている。エクステンドはそのエクステリオスを個々の能力に変換させ、EXスタイルを発現させている。そして、EXスタイルは地球上でディアデムに対抗するための最も有効な武器なんだ」
「待ってくれ。だとしたら、このスカルプリズンに住んでいるエクステンドたちは……」
「五十年前の事件から生き延びてWIGに捕まった人間のことだ。WIGは大昔から密かにディアデムを研究していて、ディアデムの影響で進化したエクステンドを保護という建前でこの人工島に隔離した。スカルプリズンという頭皮という単語を含んではいるが、実際の意味は骸の牢獄。つまり、私たちは初めからWIGに実験の材料として利用されていたんだ。病院はサンプル採集場、学校は飼育施設、私たちの全てがDURAやヘッド・ギアの開発に使われていた。私も五年前まではWIGの研究室でそれらの開発を手伝っていたから私にも責任がない訳ではないのだが……」
「姉さんもWIGの研究に関わっていたのか?」
「私の場合は白衣を着てフラスコ弄る感じではなくて、どちらかと言えば自分の足で調査するタイプのお仕事だったがね。ハサミは知らないかもしれないが、私たちの一族は古くから存在していたエクステンドのプロトタイプのようなものだったんだ」
「はあ!? そんなの初耳だ!」
「さっき、ディアデムは革神の日以前にも地球を訪れていたって話しただろう? 右左原一族はディアデムについての記録を集めて、来るべきディアデムの襲来に備えていたんだ。五十年前の結果は失敗に終わったけど、それがきっかけでWIGと関わるようになった。私たちの髪から跳ねているメッシュのアホ毛は原初のエクステンドである一族特有のものなんだ」
「俺のアホ毛にそんな秘密が……」
「そして、右左原一族にはEXスタイルの他にディアデムに対抗するもう一つの武器があった。それが私の持つこの刀だ」
旋風が持っていた刀を円卓の上に置く。
「この刀の銘は『髪切』。外宇宙の神であるディアデムを斬るカミ殺しの妖刀だ」
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