第三十話 愛と憎悪と一つの決意-2
「毛毛毛ッ! 毛―毛毛毛毛毛ッ!」
「いやあああああっ! 何よこのバケモノ!」
火の海と化した街で女性が泣き叫んで背後に迫りくる毛玉のような姿の怪物から逃げる。
「一点突破! 【メッシュブレード×トライスターカット】!」
怪物から伸びた黒い毛の触手が女性を捕えようとした時、ハサミの攻撃が怪物の触手を斬り刻んで態勢を崩させる。
「大丈夫か!? ここは危険だから俺たちがあいつの相手をしている間に逃げろ!」
「あ、ありがとう!」
女性が礼を言って走り去ると同時に起き上がる。
「上を仰ぎ! 髪をなびかせ! 神を斬る! 《髪切×一刀両断》!」
しかし、起き上がろうとした怪物は旋風の斬撃を喰らって触手の大部分を失う。
「カミキリ――いや、姉さん!」
「ハサミ、まだ油断は禁物だ」
怪物を覆っていた毛の中から人間が現れる。
「毛毛、毛毛毛毛ッ!」
「お前は断髪式の隊員!? 完全に理性をなくしているみたいだが、何があったんだ!?」
怪物が残った頭髪を蜘蛛の脚のように変形させて、その場を逃げ出した。
「きっとWIGが研究していた人工エクステンド兵ですわ! ヘッド・ギアの影響で我を失っているんですの!」
「……だが、一体どこからヘッド・ギアに電力が供給されているんだ? 発電所の設備は壊しておいたからヘッド・ギアは起動できないはずなのに」
「市民の皆さん、聞こえていますか? WIG長官の東郷寺白剛です」
突然、街頭のモニターがジャックされ、白剛の姿が映し出される。
「今回は皆さんに緊急のお知らせをしましょう。たった今、我々はテロリスト集団COMBからの攻撃を受けています。COMBは非道な方法で生み出した危険な生物兵器を街に解き放ち、我々を襲わせているのです。WIGはこの非常事態に対処するため、スカルプリズンを一時的に封鎖して生物兵器を街の外へと逃がさないようにしようと考えております」
白剛の放送を見ていた人々は彼の発言にブーイングを上げる。
「市民の皆さんには大変なご迷惑をおかけすることになるでしょう。ですが、これらは全てCOMBが仕組んだことなのです! 我々は一刻も早くCOMBを捕まえて事態の解決に努めますので、皆さんもご協力をしていただけないでしょうか?」
モニターの映像が切り替わり、ハサミたちの顔写真が映し出される。
「現在、スカルプリズンに潜伏しているCOMBの重要人物は幹部のラセン・スパイラルとオルバーク・ブラインド、WIGへのスパイ容疑がある右左原ハサミ、最後にCOMBを率いているカミキリの四名となっております。危険を顧みずに彼らを捕獲または殺害をしてくれた方にはWIGから報酬をご用意いたします」
放送が終わり、ハサミたちは白剛に対する憎悪を強める。
「あの男、全部の責任を俺たちに擦り付けて自分は正義の味方だって言うのか!?」
「それだけじゃない。白剛はハサミも私たちの仲間として処理するつもりだ。私たちは最初からあいつらの掌の上で踊らされていたんだ。WIGがスカルプリズンを封鎖したのは私たちやあのDURA兵士たちを閉じ込める意味もあるだろうが、本当は市民を使って実験をするつもりなのだろう」
「実験とはなんですの?」
「DURA兵士が実戦でどれだけ役に立つかテストしているんだ。実験に使う檻は密閉されていた方がより確実なデータを得られるだろう?」
「まともな人間の所業じゃない。右左原、これからどうする?」
「ひとまずDURA兵士を倒しながら体制を立て直そう。姉さんからもちゃんと今までについての話は聞きたい」
「いたぞ! 指名手配されている四人だ! 捕まえろ!」
市民の男性がハサミたちを見つけて仲間を呼ぶ。
「警察の次は街全体が俺たちの敵か! どこかに逃げ道は……」
マンホールの蓋がハサミの目に留まる。
「地下だ! 下水道に逃げよう!」
「しかし、マンホールの蓋は半分が瓦礫に埋まっていて動かせそうにない」
「ラセン! 地下鉄の時にやった地面を掘る技を今ここで出来るか?」
「えっ? ここでやるんですの? 下手したら汚水にドボンですのよ!?」
「いいからやってくれ!」
「わかりましたわ! やればいいんでしょう!」
ラセンがアスファルトの地面に穴を開け、ハサミたちはその中に飛び込んだ。
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