第二十九話 愛と憎悪と一つの決意-1

「――これで、我々を邪魔する輩は全て片付いた」


 最後の一人となった警官を峰打ちで昏倒させ、カミキリは刀を下す。

 ハサミ、ラセン、オルバークを除く人間は全員、命までは取られなかったが、倒されたり逃げ帰ったりして一人も立っている者はいなかった。


「流石カミキリ様! 助太刀に来てくださるなんて感動いたしましたわ!」


 感極まったラセンが目を輝かせて声を上げる。


「ラセン、オルバーク、無事で何よりだ。捕まった他の三人は残念だが、君たちがいてくれるだけでも心強い」

「カミキリ、助けに来てくれたことはありがたいが、お前、それだけが目的じゃないだろ?」

「わかっている、右左原ハサミ。私は君と決着をつけに来た」


 ハサミとカミキリは互いに武器を構える。


「なっ、今戦う必要はないでしょう!?」

「止めるなラセン、右左原はどうしても今ここでカミキリ様と戦わなくてはいけない。これは恐らくあいつなりのけじめだ」


 背負われているオルバークはそう言ってラセンを止める。


「ラセン、お前だったら、自分の大切な人を殺した相手と手を組まなければならない状況を受け入れることが出来るか? 右左原はなんとか自分を曲げずにその状況を受け入れようとしているんだ」

「けど、復讐も何もハサミとカミキリ様は――」

「カミキリ様が仮面を外さないのは右左原との戦いを望んでいるからだろう。思えば、初めからカミキリ様は俺たちを使って右左原を成長させることが目的だったのかもしれない。カミキリ様は強くなった右左原に負けて自分の計画を阻止して欲しかったのではないか?」

「よく気づいたなオルバーク。私にとって重要だったのはハサミを倒すことでも味方に引き入れることでもなく、この瞬間のためだったのだ! ハサミ如きに計画が潰されるのならば我々の完全敗北だ! もう我々は背水の陣! ここでハサミに勝っても負けても結果は変わらない!」


 カミキリが刀でハサミに斬りかかる。

 ハサミはメッシュブレードで刀を受けるが、メッシュブレードは全く斬れることがなかった。


「覚醒したな! 君の刃は生え変わったことで前より強靭なものになった!」

「二度とお前には負けない! 俺は折れても強くなるんだ!」


 ハサミとカミキリが剣戟を繰り広げ、発電所の地面や外壁に斬撃の爪痕が刻まれる。


「そこまで吠えるとは、戦闘能力だけではなく、精神まで強くなったのか!」

「もう俺は怒りと憎しみで我を忘れていた頃の俺じゃない! 覚悟ッ!」


 メッシュブレードがカミキリの兜を上から叩き斬る。


「…………」


 両断された兜と仮面を地面に落とし、素顔が露わになったカミキリは黙って微笑んだ。


「……………………どうして」


 カミキリの素顔を見たハサミは驚愕して呟く。


「なんで……姉さんが……ここにいるんだ?」

「私は甲冑で体格を隠し、仮面に取り付けていたボイスチェンジャーであたかも別人であるかのように振舞って、自分の死を偽り、すっとカミキリとして生きていた」


 明らかになったカミキリの正体――それは、死んだはずのハサミの姉、右左原旋風だった。


「色々尋ねたいことはあるだろうが、それはあとにしよう。事態は私たちが考えているよりも意外と深刻だったようだ」


 旋風に言われてハサミは街の様子が何かおかしいことに気づく。


「スカルプリズンのあちこちで爆発が起こっている!?」

「WIGが本格的に『実験』を開始したみたいだ。ハサミ! ラセン! オルバーク! 私についてこい!」


 街に向かって走り出した旋風を三人は追いかける。

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