第二十八話 裏切りは蜜の味がする-10

「さあ、見たまえ。これが僕たちの研究の成果だ」


 桂がそう言ってフモウに見せたものは手術台に載せられた若い男性の姿だった。

 男性の顔を見たフモウは血相を変える。


「彼は……私の部下だ。何をしたのですか副長官!」


 男性は断髪式の隊員の一人であり、組織の規定で剃り上げられていた彼の頭からは真っ赤な長い髪が生えていた。


「実戦用DURAの移植手術だよ。断髪式の隊員は健全な肉体を持つ者ばかりだから、兵器に転用するにはうってつけなのさ。因みに、彼は二十人目の移植成功例だ。先日のショッピングモールの事件で負傷した隊員を治療すると偽って手術を施した」

「腐れ外道ですね……」


 フモウは心底軽蔑した態度で吐き捨てるように言う。


「DURAはただの人をエクステンドという次のステージに導く偉大な発明だよ。だけど、その素晴らしさは理解出来ないのだろうね、家族をエクステンドに殺された君には」

「よくご存じですね」

「君の過去は調べさせてもらったよ。君は幼い頃に両親と妹をエクステンドの強盗に殺されている。君がエクステンドを嫌っているのはそれが原因だろう?」

「……私はエクステンドの犯罪者を許せないという理由で断髪式に入隊しました。しかし、断髪式を擁するWIGこそが街の腐敗の元凶だった! もう止めだ東郷寺桂! 最早貴様は私の上司などではない! この枷を引き千切ってでも貴様らの企みを止めてやる!」


 フモウは両腕に力を籠め、手錠の鎖がメキメキと音を立てて真っ二つになる。


「まさか、本当に手錠を千切ったのかい!? 途轍もない膂力だ!」


 興奮した様子の桂にフモウが右腕を振りかぶる。


「でも、そんな速さでは僕に指一本も届かない」


 桂の頭上に天使の光輪が浮かび、光輪から太いレーザーが放たれる。


「ぬおおおおおおっ!」


 レーザーに上半身を焼かれたフモウが倒れる。


「お、おのれ……今のはEXスタイル……まさか貴様も……」

「そう! 僕もDURAでエクステンドになったのさ! ただし、僕の髪は特別製! 君の部下に植え付けたような量産品とは違ってヘッド・ギアの影響は受けないし、僕が手に入れたEXスタイル【エンゼルヘイロー】はそこらのエクステンドを凌ぐ強力な力を持つ! 誰も僕を止めることは出来ない!」

「誰も? ……まだカミキリは掴まていないぞ」

「…………カミキリも時間の問題だ。もう幹部を三人も失った。幾らエクステンドの天敵となる例の刀を持っていたとしても今の戦力では敵うはずがない」

「それでも、ハサミが必ず貴様を倒しに来るだろう……奴は私の自慢の部下だ」

「フフッ、それこそ笑わせてくれる冗談だよ。ハサミが一人増えたところで戦力が劇的に変わるわけではない。疲れて妄言を吐いているのなら、君もDURAを植え付けて頭を冷静にさせるべきだ」


 桂は右足でフモウの頭を踏みつけた。


「十二月三十一日、これから七日後に我々はスカルプリズンを爆撃によって海に沈める。君の仕事はそれまでにカミキリたちを足止めすることだ」


 高笑いする桂にフモウは怒りを抱きながら意識を失うのだった。

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