第二十四話 裏切りは蜜の味がする-6
「ここまで来ればきっと警官たちもすぐに追ってこれないですわ」
ハサミとラセンはスカルプリズン北方にある発電所まで逃げ延びた。
時刻はまだ午前二時、空は星々が瞬く真っ暗闇だった。
「アニキ……」
ハサミは自らの頭に手を伸ばすが、そこに傾狼はいなかった。
「あの喋る学生帽は例のゴタゴタで置き去りにしてきてしまったようですわね」
「俺のせいだ……俺がカッとなって脱ぎ捨てたから……」
ハサミは弱音を吐いて背中を丸める。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですの? たかが帽子を失ったくらいでそこまで落ち込むことはないのではありませんの?」
「俺、アニキがいないとダメなんだ。アニキを被っていないと気持ちがコントロール出来なくなってしまうから……」
「とにかく、最後のCOMBがこの発電所にいるから、彼と会って話をしましょう」
「いや、俺は行けないよ。もう一歩も歩く気が起きないんだ」
ハサミはその場にへなへなと座り込み、ちっとも動こうとはしなかった。
「はあ……とんだ役立たずになりましたわね。けれど、この発電所にいる男はきっとあなたに変化をもたらしてくれる人ですわ」
ラセンはハサミの両腕を掴み、引きずるように発電所の中に連れ込む。
「オール! 右左原ハサミを連れてきましたわよ!」
見張りのCOMB幹部たちが野次馬のようにラセンとハサミの様子を眺めていた。
「…………」
発電所の奥で緑髪の少年は二人を待っていた。
最後の幹部はパーカーとジーパンを着て、首からヘッドフォンを掛けている見た目の若い男だが、両目が前髪で隠れており、無言で表情が読めない不気味な人物だった。
「……お前が最後の幹部か。初めましてだな」
「…………」
二人の会話は途切れた。
「あなたたち二人共挨拶くらいちゃんとしなさい! 仮にも敵対している間柄でしょう!」
沈黙に耐えかねたラセンが怒り始める。
「ハサミ、この男はオルバーク・ブラインド! COMB幹部の一人にして私の幼馴染! 大抵は暗くてオタク趣味で頼りない感じはするけど、実力は確かですわ! あなたの上司をWIGから助け出すには彼の助力が必要ですわ!」
ハサミはラセンに言われてオルバークに手を差し出す。
「えっと、よろしくな……」
「…………誰がアンタと手を組むなんて言った?」
突然、オルバークの髪から稲妻が発生し、彼の右腕を伝って、空気中に放出された稲妻はハサミの足元にぶつかってコンクリートの床を焦がした。
「なっ、何をするんですのオール!」
「俺は右左原ハサミを認めた訳じゃない。こんな足手まといを味方に引き入れることに俺は賛成出来ない」
オルバークが髪をかき上げると、髪は天に向かって逆立ち、一重で威圧的な彼の二つの眼がハサミを捉えた。
「――――この目を見ろ右左原ハサミ! 俺の瞳の奥ではWIGへの憎しみが雷のように火花を散らしている! 俺という男を屈服させたいなら、俺に倒されるという運命に逆らってみせろ!」
激情を露わにしたオルバークの髪から強烈な電撃が放たれる。
「俺のEXスタイル【オールバックスパーク】は髪から静電気を発生させる! 下敷きで髪が浮く現象と似たようなものだ! 俺のEXスタイルは一億ボルトの静電気を生み出すことも出来る! これは自然界最大の静電気――落雷に匹敵する! まともに喰らえばお前の命はねえ!」
オルバークは髪に溜め込んでいた電気をハサミの胸に向けて放つ。
「――――」
ハサミには放たれた雷に対して反撃どころか回避をする余裕もなく、一億ボルトの稲妻がハサミの心臓を貫いた。
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