第二十三話 裏切りは蜜の味がする-5

「ハサミ、フモウ、COMBの幹部を連れて降りてくるんだ」


 三人が地面に降り立つと、警官たちがブレイドを連行しようとする。

 しかし、ハサミはブレイドの腕を掴み、警官たちに引き渡そうとはしなかった。


「……ハサミ、どういうつもりかな?」

「こいつの身柄が欲しかったら聞かせてくれ。桂、お前は一体、俺たちに何を隠している」

「隠している? 君は僕が何か隠し事をしていると言うのかい?」

「しらばっくれるな。俺はCOMBからWIGが裏で行っている非道な実験や兵器の開発についての話を聞いて、その証拠をこの目で見たんだ」

「ああ、君は知ってしまったのだね。悪い子だ」

「涼しい顔をしてないで言い訳したらどうなんだ?」

「言い訳? 何故そのようなことをしなくてはならないのですか?」


 桂の言葉にハサミはわなわなと身体を震わせる。


「――言い訳しろよ! 潔白を示せよ! 今までが全て嘘だったのなら、俺はどうして、何のために、誰のために戦ってきたって言うんだよ!」


 ハサミが気持ちを爆発させ、ズカズカと歩いて桂に掴みかかる。

 桂はハサミに襟を掴まれても表情を変えることはなかった。


『止せ! 落ち着くんだハサミ!』

「アニキは黙ってろッ!」


 ハサミは傾狼を地面に投げ捨て、桂の頬を拳で殴る。


「副長官から手を放せ!」


 警官たちがハサミを拳銃で狙う。

 だが、突如としてハサミたちの足元に大穴が空き、ハサミは思わず桂の襟から手を放してフモウとブレイドと共に大穴の底に落下する。


「くっ、なんで地面に穴が……」

「オーホッホッホッホッ! 助太刀に来ましたわ右左原ハサミ!」


 地面に穴を開けたのは、地下鉄の件以降ずっと姿をくらましていたラセンだった。

 穴の先には地下鉄のトンネルが存在していた。


「ラセンちゃん、ベストタイミングよ! 警察が混乱している間にハサミちゃんを連れてここから逃げなさい!」


 ハサミを追ってくる警官たちの前にフモウとブレイドが立ち塞がる。


「ここを通りたかったら私を倒してみせろ!」

「アタシたちが時間を作るわ! 決して後ろを振り返らずに信じた道を駆け抜けなさい!」

「お前たちはどうする気だ?」

「戦うだけだ! 私たちに残された道は全員で抵抗して全滅するか、お前たち二人にあとを託すかの二つしかない!」

「この際、誰が敵とか誰が味方とか細かいことは考えるべきではないわ! ただ、あなたが本当に倒すべき相手はあの桂という二枚目悪役よ!」

「早く逃げますわよ!」


 ラセンに手を引かれてハサミは駆け出す。


「フモウ! ブレイド!」


 ハサミは叫んで手を伸ばしかけたが、溢れる気持ちを押し殺して彼らに背を向ける。

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