第十八話 百戦錬磨の悪鬼が如く-8

「アニキ、俺が帽子の上に乗ったら思い切り打ち上げてくれ」


 ハサミがティラノサウルスの頭に載っていた帽子に踏み込む。


「君はまさか、初めから私の顔を狙って――」


 ハサミが狙っていたのは髪で覆われていないローゲンの顔だった。


「お前の顔は明らかに弱点だ。だが、普通に狙っても俺の腕のリーチでは届かない。それに両腕を塞がないと防御される危険があった。だから、この時を待っていたんだ」


 傾狼の憑依が解け、ティラノサウルスの身体が崩れ始める。


「鉄拳制裁。【カブキナックル】」


 飛び上がったハサミの拳がローゲンの顔面に突き刺さる。


「ぼふああああああっ! 私のイケメンフェイスがあああああっ!」

 ローゲンのEXスタイルが解け、崩壊する骨格模型と共に落下する。

「……やったか?」


 ハサミは散らばった骨を掻き分けて倒されたローゲンを探す。


「まだまだマッスルゥ!」


 しかし、ローゲンはまだ戦闘不能に出来た訳ではなく、EXスタイルを再び纏って起き上がる。


「顔を一発殴られたくらいでは倒されませんよ! ここからが本番です!」

「しまった。もう打つ手がない……」

『ハサミ避けろ!』


 ハサミはローゲンの拳を躱そうとするが、骨格模型の残骸に足を取られて動けなかった。



「全隊員、一斉放射!」


 その直後、フモウの声が倉庫に響き渡り、ローゲンに霧のようなものが降り注ぐ。


「こ、これは、身体が動かない!?」


 ローゲンの身体は霧に触れると接着剤で固められたかのように硬直した。


「これは断髪式の対エクステンド鎮圧用ライオットガン、『スタイリング・エアロゾル』! 放射される霧状のスタイリング剤はエクステンドの髪を瞬時にその場で固定する!」


 スタイリング・エアロゾルを構えていた断髪式隊員の後ろに軍服姿のフモウがいた。


「隊員たちはローゲン・ストレートを護送車まで運べ! 私はハサミに話がある!」

「「イエッサー!」」


 断髪式隊員たちがローゲンを担いで倉庫から運び出す中、フモウがハサミに近づく。


「怪我はなかったか?」

「おかげ様で命拾いをしたよ。それよりもフモウはどうしてここにいるんだ? まだ入院しているはずだろ?」

「地下鉄のCOMB幹部が何者かによって倒されたと聞いて、貴様の仕業ではないかと思ったのだ。いてもたってもいられなくなり、病院を抜け出して残った部下とCOMB幹部の討伐に乗り出したのだが、もう貴様が弱らせていたとはな」

「わかりにくいフォローはいらないよ。俺は次のCOMB幹部と戦いに行く」

「待てハサミ」

「なんだよ」

「次の場所では俺も貴様の戦いに付き添う。今回の戦いで一人だけでは限界があることがわかっただろう。私もお前がいなければあのローゲンという男の隙はつけなかっただろう」


 フモウが骨格模型に埋まっていた傾狼を手に取り、ハサミに差し出す。


「これは姉の形見だろう。もう少し丁寧に扱え」

『ハサミ、ここはフモウと手を組むべきだと俺様は思うぜ!』

「……わかった。フモウ、俺たちでCOMBとカミキリを倒すぞ」


 ハサミは左手でフモウの手から傾狼を受け取り、帽子を被りながら右手でフモウと拳を合わせた。

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