第十七話 百戦錬磨の悪鬼が如く-7
「青いゴリラ……」
「ゴリラではありません! マッスルボディです!」
ローゲンはポーズを取り、筋肉と化した己の髪を見せつける。
「どちらでも良い。そんなずんぐりむっくりな着ぐるみ、俺のセニングダガーで切り裂いてやる」
ハサミはローゲンの六つに割れた腹筋にセニングダガーを突き立てようとする。
しかし、セニングダガーの刃はいくら力を入れても髪の鎧に傷をつけることは出来なかった。
「刃物程度では私の【キューティクルメイル】に傷一つ与えられません。君にはパワーが足りないのです」
ローゲンは仕返しとばかりに右手の拳でハサミを殴ろうとする。
ハサミはローゲンのパンチを躱すが、ハサミの背後にあった棚は一撃で破壊されてしまった。
「ぐああああああっ!」
ついでにハサミの背後にいた下っ端たちも巻き添えを喰らって吹き飛んでいく。
「これがパワーです! 私の筋肉は片手でダンプを捻り潰す攻撃力と銃弾の雨にも耐え抜く防御力を兼ね備えている!」
『ハサミ、セニングダガーではあの男に歯が立たない! 別の攻撃手段を考えるんだ!』
「こんな博物館の倉庫に銃弾よりも高い火力を出せる武器なんて……」
ローゲンが倉庫の展示物や部下たちをなぎ倒しながらハサミを追い詰める中、ハサミは布で半分隠されていたとある展示物から逆転の策を思いつく。
「アニキ、こいつに憑依してくれ」
『へっ、この大きさだと憑依出来るのはたった十数秒だろうが、結構いい考えだ!』
傾狼はハサミの頭から浮遊能力で飛び立つ。
「ここにいたのですか! さあ、君も私の筋肉の餌食になるのです!」
ローゲンが倉庫の隅で逃げ場をなくしたハサミに見つけ、拳を振り下ろそうとする。
『それはともかく、太古の王者がお出ましだッ!』
しかし、ローゲンは真横から割り込んできたとてつもなく大きな物体に撥ねられて盛大に吹っ飛ばされる。
ハサミの窮地を救ったのは倉庫で布を被っていたティラノサウルスの骨格模型だった。
『迎えに来たぜ、弟分!』
骨格模型は口をカタカタと動かすが、喉がないため傾狼はいつも通りのテレパシーで声を出す。
「……私はまだ膝をついてはいませんよ」
壁に叩きつけられたローゲンが起き上がり、ティラノサウルスと向き合う。
「アニキ、巨大ゴリラVSティラノサウルスの怪獣大決戦だ」
『これなら負ける気がしねえ!』
「太古の王者だろうが所詮は骨格模型! 私の百連打撃で木端微塵にしてくれます!」
ローゲンが恐るべき速度で連続パンチをティラノサウルスに叩き込む。
「骨のティラノサウルスが動いている!?」
「悪夢だ! ナイトメアミュージアムだ!」
「うわあああああっ!」
下っ端たちはあまりの出来事に泣き叫び、倉庫から逃げ出そうとするが、ローゲンと傾狼による戦闘の余波に巻き込まれて勝手に倒されていく。
『そんな弱っちいパンチは効かないぜ!』
ティラノサウルスが弄ぶようにローゲンを圧倒する。
「ぐっ、ですが、私のマッスルはここで終わりではありません!」
突然、ローゲンの髪筋肉が更に肥大化して、ティラノサウルスと同じサイズになる。
「【キューティクルメイル×オーバーワーク】! 絶賛筋肉増量中!」
『まだ巨大化するだと!?』
「そいつが暴れる前に押さえつけるんだ」
ハサミはティラノサウルスの背中に乗り、傾狼に指示を出す。
ローゲンはティラノサウルスの牙を両手で掴むが、ティラノサウルスはローゲンを壁に押しつけて動きを封じる。
「これで私を無力化したつもりですか!」
ローゲンに掴まれたティラノサウルスの牙から徐々にひび割れが広がっていく。
『ハサミ、このままでは頭を壊される! 憑依の時間制限も迫っているぞ!』
「そうなる前に俺が決着をつけてくる」
ハサミは骨格模型の不安定な足場を飛び移り、右手の拳を握りしめた。
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