第十六話 百戦錬磨の悪鬼が如く-6

「何を言ってるんだ。悪の秘密結社はお前たちだろ」

『…………』


 ハサミはセニングダガーを取り出していつでも戦闘が始められるように身構える。


「君もWIGが裏で行っている非道な実験の数々を知れば我々を邪魔する理由もなくなるでしょう」


 ローゲンが右手で指を鳴らす。

 すると、また一つ照明が点き、輪のような形状のモニュメントが照らされる。


「これは『ヘッド・ギア』。WIGが極秘に開発している月桂冠型エクステンド洗脳装置」

「洗脳装置……」


 ハサミは出てきた単語に思わず唾を飲む。


「――の模型です」

「模型なのか」


 ハサミは拍子抜けのような気分になる。


「ヘッド・ギアは特殊な電波を子機に発信して、受信した人間を狂暴化させてしまうのです」


 ローゲンは続いてホワイトボードに張り出した一枚の図面をハサミに見せる。


「そして、こちらは『DURA《ヅラ》』。人工的に生成された繊維を人間の頭に縫い付け、人為的にエクステンドを生み出す技術です」


 ローゲンが指した図面には人の頭部に髪を植え付けてエクステンドにする方法が描かれていた。


「人工繊維を一般人の頭皮にある毛細血管と結合して、移植された繊維は宿主の脳波を受け取ってエクステンドのEXスタイルを疑似的に再現出来るのです」

「それはただの薄毛治療と変わらないじゃないか? 移植方法が人道的ではないみたいな理由があるのか?」

「いえ、この植毛については手術が必要ですが、手術自体には後遺症などは特にありません」


 ローゲンは苦々しい表情で言葉を続ける。


「ですが、問題はDURAがヘッド・ギアに悪用されてしまうという点にあったのです」


 ハサミはヘッド・ギアの模型とDURAの図面を交互に見る。


「DURAに使われる繊維はヘッド・ギアの子機になる素材なのです。DURAの繊維は電波を送受信するアンテナのような役割を持っているため、ヘッド・ギアの洗脳電波が逆に人々の脳を侵食して操られるだけの殺戮兵器に仕立て上げられてしまうのです。WIGはDURAを世界中の人々に広め、ヘッド・ギアによる世界支配を企んでいます」

「……なるほど、お前の話はわかった。しかし、内容が飛躍していて少し頭が混乱している」

「これまでの生涯をWIGに捧げてきた君にはなかなか信じられない話かもしれません。もし、君が私たちの仲間になってくれるというのならば、より信憑性のある証拠をお見せしましょう。私たちは君を歓迎しますよ、右左原ハサミ」


 ローゲンがにこやかな表情で右手を差し伸べながらハサミに近づく。

 だが、ハサミはセニングダガーを構えてローゲンに敵対する意思を表した。

 警戒した下っ端たちはハサミに銃口を向けるが、ローゲンは涼しげな表情をしていた。


「お前の話は本当かもしれない。だけど、本当だと言い切るような確証もない。だから、俺は自分の手で真相を明らかにしたい」

「……賢い判断です。どちらにも傾かず、自分を信じているのですね」

「俺は傾奇者だ。斜に構えるのは基本の姿勢、愚かだと思うなら好きなだけ笑いやがれ」

「いいえ、私は君を笑いません。けれど、私は私の正義を否定されたくはありません」


 ローゲンの長い髪が彼の四肢に絡みつき、顔以外を埋め尽くしていく。


「これこそ私のEXスタイル【キューティクルメイル】! 髪を外付けの筋繊維に変換し、驚異的なマッスルボディを手に入れるッ!」

 ローゲンは髪をパワードスーツのように着込み、青い巨人のような姿に変貌した。

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