第十四話 百戦錬磨の悪鬼が如く-4

「ぐうっ、ワタクシともあろうものがこんな不良崩れに縛られるなんて……」

「そもそも俺は不良じゃない。これはファッションだ」

「大体、カミキリ様抜きにしてもワタクシはあなたが気に入らないのですわ! 男のくせにスカした態度で言動にまるで熱が籠ってない! 見ているだけでムカつくんですの!」


 その時、再びトンネル内に地響きがする。


『まだ何か来るのか!?』


 ハサミはラセンを睨む。


「し、知らないですわ! ワタクシにも何が何だか」

「水の音がする。きっと、ラセンが穴を掘った影響でどこかの水道管が破裂したのかもしれない」

『はあ!? おいおい、こんなところに大量の水が流れ込んできたら――』


 ハサミの頭上から滝のような水が溢れる。

 溢れ出た水は激流となってハサミたちを攫っていく。


『ハサミ、俺様の上に乗れ!』


 傾狼は巨大な山高帽になり、逆さの状態で水に浮かぶ。


「山高帽激流下りか」

『防水処理は完璧だぜ!』


 ハサミは傾狼に乗り込んで、ボートのようにバランスを取りながら激流を下る。


「ガボッ、ゴボッ!」


 激流の中、手錠を掛けられたラセンの溺れかけている姿がハサミの目に留まる。


「アニキ、潜水ヘルメットになれないか?」

『お前、あのラセンという女を助けるつもりか?』

「放ってはおけない」


 ラセンが波に飲まれてハサミの視界から消えてしまう。


『しょうがねえな!』


 快諾した傾狼は潜水ヘルメットでハサミの首から上を覆う。


『小さめだが、酸素ボンベも付属出来たぞ! 数分程度は水中での活動が可能だ!』

「ラセンはどこだ?」


 ハサミが水底を見渡すと、ラセンは漂流物に引っかかっていた。


「ゴボッ!?」


 ラセンが自分を助けようとするハサミを見て目を見開く。

 ハサミはヘルメットを外し、ラセンの頭に被せる。


「な、何をしているんですの!」

『お前はどうする気だ!』


 ハサミは大丈夫と言うように頷き、ラセンを背中に担いで流れに身を任せて泳ぐ。

 やがて、駅のホームが見えたハサミは浸水していない階段に流れ着こうとするが、ハサミの呼吸器は限界を訴えた。


『おい! もう少しだ! 気をしっかり持て!』


 傾狼はハサミに呼びかけるが、ハサミの意識は暗転する。


「ゲホッ、ゲホッ…………なんて馬鹿な人なのかしら。ワタクシは凶悪なテロリストなのだからあのまま見殺しにしてしまっても良かったのに……」


 目を覚ましたラセンは倒れているハサミにそう言って、ヘルメットを投げ捨てる。


『お前! ハサミは命を懸けてお前を助けたんだぞ!』

「まだ死んではいないですわ。適切な処置をすれば息を吹き返すかもしれないですの」


 ラセンがハサミを仰向けにして心臓マッサージと人工呼吸をする。

 何度か繰り返す内にハサミの呼吸が戻り、ラセンは安堵の表情を浮かべる。


『ラセン……お前……』

「脈も呼吸も正常。これなら放置しておいても目覚めるはずですわ」

『良いやつだな!』

「勘違いするのではありませんわ! これは助けられた借りを返しただけですの!」


 ラセンは鼻を鳴らしてハサミの前から立ち去ってしまった。

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