第四話 宿命が彼の名を呼んだなら-4

 桂という名の青年はハサミが来たことに気づき、爽やかな微笑みを浮かべる。


「やあハサミ、今回の作戦では大活躍だったようだね。僕は嬉しいよ」

「大活躍はいつものことだろ。それよりも桂はどうして俺をここに呼んだんだ?」


 桂は二十七歳の若さでWIGのナンバー2を務めている人物であり、ハサミを断髪式に配属させたのも彼だった。


「今日、君を呼んだのは他でもない、カミキリのことだよ」


 ハサミはその名を聞いて眉間にしわを寄せる。


「本題の前に少し話は変わるけど、ハサミは今からちょうと一か月後に何があるか知っているかな?」

「今日から一か月後は十二月三十一日、大みそか、それとエクステンドが生まれた日だな」

「五十年前の大みそか、日本列島で謎の光が観測され、その日を境にして頭髪に異能を宿らせたエクステンドなる異能力者が現れた。僕たち人類はその日を『革神かくしんの日』と名付けた」

『それまで漫画やアニメでしかいなかった地毛がピンク髪や青髪のような奴らが出てくるようになったのもその革神の日とやらが原因と言われてるらしいな』


 桂の台詞に傾狼が説明を付け加える。


「エクステンドが地球に現れてから五十年の月日が経ち、今年の大みそかにはこのスカルプリズンで記念式典が行われることになった。WIGの長官であり、僕の父でもある東郷寺白剛とうごうじびゃくごうも出席する一大イベントだよ」


「ああ。それは知っているよ。まだ一か月もあるっていうのに、街中ではちょっとしたお祭り騒ぎになっているな。それとカミキリになんの関係があるんだ?」


「……昨日、私宛に差出人不明のとあるビデオメッセージが送られてきたのさ」

 桂が腕時計状のデバイスを操作すると、展望室の窓ガラスが巨大なモニターに変わる。


「――この映像を見ているな、WIGの諸君。私はカミキリだ」


 モニターに映し出されたのは鬼面で顔を隠した鎧武者のような人物の映像だった。


「カミキリ!」


 ハサミは歯を食いしばり顔に怒りを表す。


『落ち着け! これはただの録画映像だ!』


 傾狼になだめられてハサミは呼吸を整える。


「このようなメッセージを送ったのは、我々のこれからの活動を君たちに教えるためだ」

「まさか、テロの予告だというのか!?」


 フモウが驚きのあまり声を出す。


「我々は明日の十二時頃にスカルプリズンで最も大きなショッピングモールを襲撃する。こちらからの要求はWIGの解体だ。約束出来なければ、何百人もの人間が血を流すことになるだろう。そうなれば次に我々が襲撃するのは革神の日の式典会場だ」


 カミキリがそれだけ言って映像は終わった。


「絶対止めてやる」

「ハサミ、君には明日、現場に向かってもらうよ」

「なっ、またこの男をテロリストと戦わせる気ですか!?」

「フモウ、君がエクステンドを憎んでいるのは知っているが、例えハサミは放っておいてもCOMBの件となれば首を突っ込むだろうね。だとしたら、初めからハサミを駒の一つとして利用した方が良いと思うよ」

『ガハハハハハッ! お前、相当な問題児扱いにされてるぞ!』

「俺たちは傾奇者だろ? 元から問題児扱いなんて上等だよ」

『違いねえ!』


 桂はハサミが傾狼と会話をしている様子をじっと見つめる。


「それにしても傾狼は本当に不思議な帽子だね。僕も初めて見た時は衝撃を受けたよ」

「俺がアニキと喋っている姿ってそんなにおかしく見えるか?」

「そんなことはないよ。ハサミは僕の大切な弟だ。決してそんな風に思ったことはない」

「……そうか。もし、姉さんが生きてたら、桂は俺の兄さんになっていたかもしれなかったんだよな」

「君の姉さん――右左原旋風うさはらつむじは僕の婚約者でもあった。そんな彼女が死の間際に遺したものがその学生帽だったね」

「傾狼は俺が五年前に姉さんからもらった誕生日プレゼントだったんだ」

『ハサミ……』

「カミキリは旋風の命を奪っただけでなく、僕の父の命も奪おうとしている。僕を家族だと思ってくれるなら、僕の家族を守るために協力して欲しい」

「当然だろ。義理とはいえ、兄の頼みは断れる訳がない。それに、カミキリは姉さんの仇だ。俺がこの手で罪を償わせる」


 ハサミは憎悪に染まった目を隠すように右手で摘まんだ帽子の鍔を深く下げた。

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