第二話 宿命が彼の名を呼んだなら-2
「ご覧ください! 学校の屋上には大勢の人々が武装したテロリストに囲まれて一か所に集められています! 学校を占拠した凶悪テロ組織COMBは学校の生徒や教職員を人質にしているようです!」
学校屋上付近に滞空しているヘリからリポーターがカメラに向かって伝える。
「どうやら、テロリストは十名以上もいるようです! あの黒い髪の男がリーダーなのでしょうか!?」
リポーターが指しているのはテロリストの中で一人だけ帽子を被っていない猫背の男だった。
猫背の男は髪がボサボサで右目が前髪で隠れており、見えている顔の左半分は狂ったような笑みを常に浮かべて左目は充血していた。
猫背の男は上空のヘリに気づき、リポーターと目を合わせる。
「な、なんでしょうか? テロリストのリーダーがこちらを見て微笑んでいるような……」
次の瞬間、猫背の男の髪が触手のように蠢き、ヘリの脚に絡みついた。
「ククク、テロリストを取材する時は足元に気をつけろって教わらなかったのかい?」
猫背の男が微笑みながらそう言う。
「きゃあああああああっ!」
リポーターの悲鳴が響く。
猫背の男はヘリを引きずり込んで墜落させようとしていた。
しかし、触手のような髪はどこからか跳んできた白いすきバサミに断ち切られてしまう。
「……誰が私の邪魔をしたんだい?」
猫背の男がすきバサミの跳んできた方に振り向く。
『邪魔をしたのは俺様たちだ!』
テロリストたちの振り向いた先には屋上の扉を背に仁王立ちをするバンカラ少年の姿があった。
『いいかよく聞けお前たち! 俺様たち二人はこの世のカミに天誅を下す者! 人呼んで、
「…………舎弟の
「断髪式の副隊長だと!? こんな子供が!?」
「それよりも今の声はなんだ!? どこから話している!?」
「聞いたことがあるね。近頃、我々のテロ活動をたった一人で妨害する子供がいるという噂だ。噂によると、その子供は喋る学生帽を身に着け、奇妙な形のクナイを使う日本人らしい」
猫背の男は噂の子供の特徴を思い出して納得したような表情をする。
「そうかい。お前が噂の子供の正体だね?」
『まさしくその通り! 良かったじゃねえかハサミ! 宿敵に覚えてもらったんだぜ!』
「いや、良くないだろ。俺たちは恨まれているんだぞ」
豪快に笑う傾狼に冷静なツッコミを入れるハサミ。
「よ、よくわからないが、こいつが噂の子供なら、俺たちが倒して手柄にしてやる!」
テロリストたちはハサミに向かって発砲しようとするが、その前にハサミは腰から抜いた三本の白いすきバサミ状の短剣を投げつけ、銃を構えたテロリストたちの手足を貫いた。
「俺の愛用するクナイ、セニングダガーは特注品の『数寄鋏』。斬って良し、投げて良しの逸品だ。黒い方は一本しかないが、白い方は何本も持っている」
ハサミは両手に握ったセニングダガーを構えて桃色の瞳でテロリストたちを睨む。
「ククク、大した命中精度だね」
「ノンセット様、我々もEXスタイルを使用するべきでしょうか?」
「いいや、彼を仕留めるのは私一人で充分だよ」
ノンセットと呼ばれた猫背のリーダーは触手のような髪でハサミを掴もうとする。
『迎撃しろハサミ!』
ハサミは襲い来る髪の触手を黒いセニングダガーの溝ですくって切断する。
「なるほど、そっちのクナイは投擲用ではなく、ソードブレイカーのように扱うのかい」
一息を吐くハサミだったが、倒し損ねた触手が彼の左脚に絡みつき、逆さ吊りにされる。
逆さ吊りにされたことにより、ハサミの頭から傾狼が脱げて、ひらひらと落ちていく。
「このままお前をミンチにしてあげるよ」
ノンセットが触手で掴んだハサミを飛んでいたヘリのプロペラに叩きつけようとする。
「くっ、避けられない!」
ヘリのパイロットは必死に逃げようとするが、触手は既に目の前まで迫っていた。
「……アニキ」
ハサミがかすかな声で呼ぶ。
『応! 帽子の本領、見せてやるぜ!』
ハサミの呼び掛けに応えた傾狼は空中で旋廻しながら、頑丈な鍔でハサミの脚に絡まっていた触手を斬る。
『さあ俺様に乗れ!』
旋廻する傾狼の天に身体を載せたハサミは両手のセニングダガーを胸の前と背中の後ろに構える。
「あの子供、一体何をするつもりなんだ!?」
テロリストたちは警戒を強める。
『いいかよく見ろ! これが兄弟の連携必殺!』
傾狼から跳び上がったハサミは独楽のように回転しながらノンセット目掛けて飛来する。
「一点突破。【カブキスラッシュ】」
ハサミは迎え撃とうとする触手と激突して砂ぼこりを巻き上げる。
「――回転の勢いを利用して無数の斬撃を繰り出す技とは恐れ入ったよ」
砂ぼこりが止むと、屋上の床にはノンセットの黒い髪が散っており、髪をショートヘアにされたノンセットはその場に倒れた。
「断髪断罪――悪は斬られた」
ハサミがそう呟いて残りのテロリストたちに刃を向ける。
「次はどいつだ?」
「ひいいいいいっ!」
テロリストたちは青ざめた様子で倒れているリーダーを置き去りにして逃げようとする。
ハサミはそれを見て、左耳に装着していた通信機の電源を入れる。
「フモウ、リーダーは片付いた。後処理をよろしく頼む」
「言われるまでもない。もうとっくに捕縛部隊が学校の出入り口を封鎖している」
通信機からは堅そうな男の声で返事が聞こえて来た。
やがて、学校の一階から銃声とテロリストたちの悲鳴が聞こえてくる。
「テロリストたちは全員生きたまま捕縛して連れて帰る。貴様も戻って来い」
通信の向こうにいる男は事務的な口調でそう言って通信を切った。
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