第31話 肉食女子?


煌びやかなネオンが並ぶホテル街を、俺を乗せたタクシーが走る。

ドコを見てもラブホ、ラブホ、ラブホだ。


「ちょっと待て。この場所は違うだろ! 

     止まれ、とりあえず止まれ!」

ハンドルを握るおっさんにストップをかける。

繁華街と思っていた俺は焦った。辺りを見る限り、飲食店なぞ全くない


「ねーちゃんの方が年上なんだ」

「そうよ」

「俺もね、女房が年上でね。手取り足取り…そりゃいろいろ教えてもらったもんさ」

「あら、おじさん。奥さんで筆下ろし?」


"ガッシャーン"


「ば、ばっか! そ、そんな訳ないだろ…」

ハンドルを切り損ね 看板をはねた

…当て逃げだ。後ろをみると粉々になった看板が見える


「おじさん、突き当たりのホテルに突っ込んで!」

「あいよっ!」

「あいよっ、じゃねーよ!」


タクシーは玲子さんの指示通り、突き当たりのホテルに飛び込んだ。

ぶっ飛ばしてたのでゲートに飛び込んだ時、タクシーの車体が浮く。

ゲートから距離が短い為…目の前に建物が迫った


「ぶ、ぶつかる!」

「よっと…」


おっさんはハンドルを見事に捌き、タクシーはギャリギャリとスピンしながら玄関前で横付けになる。スタントマン並みの技術だ。

タクシードライバーのソレではない


「着いたよお客さん」

後部座席のドアが開く


「ありがと」

「ちょっとまとーや」

俺をよそに2人の会話が進む。いや、俺は乗ってから空気の扱いを受けていた


「はいこれ。おじさんお釣りはとっといて!」

「ねーちゃん悪いねー。この業界も厳しくてね…助かるよ。あ、そうだ! にいちゃん、コレお釣りの代わりにサービス」


やっと空気を卒業できた俺は、おっさんからペラい正方形の物体を受け取った


「ねーちゃんに恥をかかせんなよ? にいちゃん」

「いや、彼女とはそういう関係じゃないんだが」

「またまたー。ここまで来てヘタレになりなさんなって。にいちゃん、ソレで1発決めちゃいな」

ニヤニヤするおっさん。目つきがいやらしい


「ゴムだろこれ。あとマジ違うし!」

「ただのゴムじゃないよにいちゃん。穴あきゴムさ!」

「余計にいるかっ!」

"ペチッ"

「あいたっ!」

おっさんの顔にリリースした

……

「まいどありー」

おっさんはドアを閉めると、さっさとタクシーを走らせ消えていく。事故ってしまえ!


「はやく〜」

手招きする玲子。

「あのね。相談を聞くのにラブホっておかしくね?」

玲子さんに近付くとガシッと腕を掴まれる

振り解こうにも意外に力強い。この細い腕のどこにこんな力が…


「入るわよ」

「キャラ変わりすぎ」

聞いちゃいねーし。アキラさんといた時、そんながっつく感じなかったよな。

もしかしてアナタは肉食女子ですか?


引き摺られるように中に連れ込まれた



「あっ! この部屋ステキ…」

玲子がポチっと部屋をキープ。

「勝手に決めるな……なぬ?!」

に、2万5千だと?! 俺の手取りに換算すると3日分じゃねーか!


「この部屋、高すぎるだろ!」

「あ。私が払うから大丈夫よ」

「そうっすか…」

お金持ちなんですね…羨ましい。デリ嬢って凄く儲かるんか。


カップルのように腕を組んで、キープした部屋に向かった




「広い…」

思わず出た感想

「さあさあ!突っ立ってないで入って」

「あ、ああ…」

中に入り、俺はテーブルに先輩から貰った袋を置く。部屋の中は外よりも涼しかった


「ふんふ♪ふふ〜ん♪……♪」

鼻歌が背後から聞こえる。

「で、相談ってぶはっ?!」

振り返ってみると絶句。玲子は下着姿になっていた


「何やってんだ!」

「え?シャワーを浴びるのよ? 一緒に入る?」

「入るか!」

脱衣所があるだろ! そこで脱ぐんじゃねーよ


玲子はお構い無しにブラを取る

「パースっ」

「おっと?!」

「もういっちょパース!」

「ナイスパス……なんでやねん!」

下着のセットを受け取るが、俺にどーせいと?


「うー…寒っ!」

全裸で風呂場に直行する玲子。両手で腕を摩りながらチョコチョコ歩いていく

小刻みに歩くのでお尻が可愛く揺れる


「ったく。入り口で脱ぐからだろ…」

何のための脱衣所だ。フライングし過ぎだろ。

「…生温かい…な」

水色の下着をまじまじ眺める。うーむ、これは良い生地だ。

ほんのりと鼻をくすぐるいい香りが…

……

「ちがーう!そうじゃねーだろ」

下着セットをソファーに投げる。危なかった! あやうく嗅ぎそうに…


『きゃー冷たいっ。あ、修くーん…ヘアゴム取って〜』

風呂場から悲鳴と指示が出た

お湯が出る前にシャワーを体にかけたんか。


『はやく、はやく!』

「はいはい」

洗面台の横にあったヘアゴムを袋から出して持って行った




「じゃ、お願いします」

髪をお団子にしてバスタオル1枚の玲子さんが、風呂から上がるなり言った


「何を?」

お願いしますの意味が分からん


「えっ? あ…言ってなかったわね。マッサージよ、マッサージ!」

クイックイッとジェスチャーをするが、玲子さんがするといやらしく見える。てゆーか、その指の動きはおかしいだろ!

断じてマッサージの動きではない


「…相談ってマッサージですか?」

「マッサージというか、治療ね。楓ちゃんから聞いたの。修くん、凄いって」

フーコから? アイツもしかして、言いふらしてないか?


「凄いかどうかは分かりませんが、まあ…それなりには」

「でね。治療をお願いしたいわけよ」

「治療…ね。肩こりですか?腰痛ですか?」

おっぱいが大きいから肩こりか? デリ嬢の女性は腰痛持ちと聞いたことがあるから腰のマッサージか?

でもそれならシャワーを浴びる必要はない

なぜ全裸になるのかも分からんが。


「うー…。恥ずかしいけど、それっ!」

「な?!」

バスタオルをバサッと両手で開く


「黒っ!」

「…だよね」

色素沈着で乳首と乳輪が真っ黒だった


「もともと色は濃い方だったんだけど…デリで2年働いたら黒くなっちゃったのよね」

『まいっちゃうよねー』と玲子が言った


「いじり過ぎ?」

「いじられ過ぎ。これ、薄くしてもらいたいのよ。…できるわよね?」

できる・できないで言えば、できるだろう。フーコで経験済みだ


「たぶんできますけど…。色の指定までは難しいですよ?」

「黒じゃなきゃいい! 来月にはデリを辞めてね、で、いつかは彼氏を作ろうと思うのに黒かったら恥ずかしいじゃない?」

「まあ、女性的には…そうかもしれないですね」

「でっしょー? ピンクとまでは言わないけど? 期待してるわよ修くん」

ポスンとベッドに飛び込む玲子

『わーい。フカフカだー』と裸でベッドを泳ぐ


「ほらおいで」

「セリフおかしくね?」

それマッサージをお願いする時のセリフちゃうよね?


うつ伏せになって足をパタつかせている玲子さんに、ちょっと待ってと断りを入れ、フーコに電話する



「あ、フーコ。お前、玲子さんに…

『スミレさんに相談受けた?』


「おう。相談すっ飛ばしてマッサージ直前だよ」

俺の目の前で、全裸の玲子さんがうつ伏せになってお尻をフリフリしている


『シュウお願い! スミレさんを治療してあげて』

「簡単に言ってくれるな…」

『実際、シュウならチョロいっしょ?』

…お股からちょろっとはみ出した毛が、とても気になります


「チョロ毛…ごっほん! チョロいとまでは思わんが…まあ、そうだな」

玲子さんが足を閉じた。うん、俺の電話を聞いてんなー


『女はねー、いろいろ悩み事があるの。

スミレさんもすっごく悩んだのよ。でもシュウならその悩みが解決できる。私たちもシュウのおかげで変われたんだよ?

だからお願いします。女性の味方になってください、マッサージ師さん』


スマホの向こうからフーコの真剣な気持ちが伝わってくる

そうだ。これは俺にしかできない

この力を無駄にするのは馬鹿のすることだ。コンプレックスをもった女性を治療する…例えそれが俺の自己満足になったとしても、治って悩みがなくなれば、それでもいいじゃないか。

よし、それなら思いきって…


『あ。本番はダメだからね?』

「しねーよ!」


コイツ、人をヤリチンみたいに言いやがって!

ムカついたので通話を切った



「楓ちゃん、なんて?」

「玲子さんの治療をお願いします、だって」

「ふふん。でっしょー」

ゴロンと仰向けになる玲子


「玲子さん、目のやり場にこまるんだけど?」

「じゃ、電気消す?」

部屋の明かりを消す玲子

…真っ暗になった。かろうじてシルエットが見えるぐらいだ。


「…ねえ」

「なんでしょう?」

暗闇の中、玲子さんが話しかけてくる


「なんだかドキドキしない? …とってもイケナイ気分に

「はい。電気つけまーす」

パッと部屋が明るくなった


「あーん。雰囲気台無し!」

体を振って俺に抗議する玲子。おっぱいがプルンプルンと揺れている


「マッサージに雰囲気関係ないですよね?」

「もう!ケチっ!」

何をするつもりやアンタは!


「でも…目を逸らしてできるの?」

「くっ?!」

それは無理だ。しかしこの明るさだとおっぱいどころか、ふさふさなお股まで見ることになってしまう


ふとテーブルに置いた紙袋が目に入る


「あ! アキラさんの紙袋…」

さすが先輩。これを想定して俺にくれたんか。やっぱり天才は違うなあ。


紙袋から箱を取り出し、包装紙を破って箱を開ける


アキラさんからのメッセージカードがあった


"オサムへ。 困った時はこれを飲め"


瓶が2本入っている。手にしてラベルを見ると、

アルコール度93%…もはや酒ではない



「飲んだら死ぬんじゃないだろうか…」

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