第30話 頼み事

「……

えー。昨日お伝えした通り、教育実習でこちらの先生方が来られました……」


理事長の挨拶から始まり、今から俺たちの紹介に入る


今俺たちは広ーい体育館の舞台上にいる。蜜葉が聖鈴女子も担当することとなり、目の前にはたくさんの男女の中学生と女子高生が。そう、中等部と高等部の合同集会だ

これだけの人からジロジロと視線を浴びるのは、照れ臭いとゆーよりも鬱陶しい。


「では先ず、理事長代理」

は?代理? 沙織はサポートじゃなかったのか?


呼ばれて沙織が一歩前に出た


「みなさんはじめまして。

理事長代理という大役をこの度拝命しました備前沙織です。みなさんとは直接関わる事が殆どないとは思いますが、校内で見かけたら声をかけてくださいね。よろしくお願いします」

沙織が挨拶を終えると拍手とともに、美人だのスタイルがいいだのと声が聞こえる。

当たり前だ。腰のくびれなんか半端ねーぞ。


「次に中等部、国語科担当」


フーコが一歩前に出た


「こんにちは〜。国語を教える木崎風子だよ。私と一緒に勉強を頑張ろうねー。じゃ、よろしく!」

少し照れが入ったのか、短い挨拶だった。

やはり拍手とともに かわいいだの美人だの、おっぱいが おっきいだのと声が聞こえる。


ブラを盛りやがったコイツ…


「次、中等部と高等部を掛け持ちされる先生です」


蜜葉が一歩前に出た


「三宗 葉子。私からは特にありません。以上」

生徒の拍手がまばらだ。先生方も困っている。

三宗葉子が蜜葉の本名か。長い付き合いだが、知らんかったな

つーか、捜査の本命がその挨拶じゃダメだろ。自分から壁を作ったら捜査に支障がでるだろーが


蜜葉の挨拶がアレだったので、理事長も戸惑って俺の番がこない

俺に振ってくるのを待っていると、生徒の私語で場が騒がしくなった。

せっかく自己紹介を考えて来たのに、綺麗さっぱり忘れたぞ…

騒がしかったせいで頭の中が真っ白になったのに、コイツらときたら…フーコたちの中で誰がいい?とか、個人的に勉強を教えてもらいたいだとか…

…煩えな


挨拶を忘れてしまったこともあり、イラッとして先程まで座っていたパイプ椅子をガスンと踏み抜いた


?!


場がシーンと鎮まり全員の視線が俺に集まる


(ちょっとシュウ、落ち着いて!)

(修様がイラつかれるのも分かりますが、相手は子供ですよ)

(怖がらせたら、あの子達から聴き込みできません)


(わ、わりー。ついやっちまった)

3人がジト目で俺を見る。

そうだな。アイツらは子供…大人の俺がこの程度でイラついてどうするんだ。

しかも椅子に八つ当たりして…反省だな



「最後に養護教諭の方」


俺の番が来た

一歩前に出て、マイクを受け取る


「家礼修だ。みんなよろしく!

先ほどはすまん。怖がらせるつもりはなかった。本当にすまん。

自己紹介に戻るが俺は養護担当…ま、保健室の先生だな。

俺も沙…いや、理事長代理と同じでみんなとはあまり関わりがないかもしれないが、体調不良や怪我をしたら我慢せずに直ぐ俺んとこに来てくれよ」

前に倣って一礼し挨拶を終える


拍手が俺の時は小さかった。やっぱり美人三人衆に比べると俺は男だし、この反応が普通なのかもしれない


拍手の量が少ないということもあって、私語が良く聞こえる


「へー。カッコいいじゃんアイツ」

「結婚してないよね?」

「うん。指輪してないから独身じゃないかな」

「彼女いると思う?」

「いてもいいじゃない。奪ってしまえば」

「いえてるー。修先生ならアタシ、おっぱい触られてもいいな」

「「あっ! それいいね」」

「保健室ってベッドがあるわよ…ね」

「「まさか?!」」

「…えへ」

「「きゃー大胆〜!」」

……

…話をしてるのは女子ばっかりだ。男子は人数が少ないから仕方ないのかもしれんが


エリートがいっぱいの聖鈴っていっても、思春期の子供たちだ。こんな風にエッチな話もす…


"ブチッ"


「ブチッ?」

嫌な予感がして、出どころを見る


「子供のクセに!奪えるものなら奪ってごらんっ」

ほら、そこ!と指を差すフーコ

「貴女達、いい度胸ですね。停学になりたいのかしら?」

停学ってお前…。内容はアレだが、あの子達は話をしてただけじゃねーか


「男の味も知らないお子ちゃまが! 処女を捨ててから出直して来なさい」

ちょっ?!蜜葉さんあんた何言ってんだ!

フーコならわかるが蜜葉はこーゆー場で暴走したらダメだろ。

これ以上変な事を言い出さないように、蜜葉の口を塞ぎにかかった


「手はイヤ! 口でお願いします❤︎」

「「ズルいっ!!」」

「馬鹿か? ズルいじゃねーよ!ここでキスなんか出来るわけねーだろが」

初日からそんな事したら即刻クビだぞ




結局キスをすることはなかったものの、生徒と教師たちを騒つかせて合同集会が終わった



〜〜〜


「お前たち何やってんだよ…」

理事長室に戻ってきた俺と三人衆。

ソファーに座ると、ドッと疲れが出た。俺はため息を吐いて両手で顔を覆う


「ごめん」

「申し訳ありません」

「私としたことが…」

しょんぼりする三人衆。反省して…


「反省してねーだろお前は!」

謝罪の言葉が出たので三人衆を見ると、フーコだけがどこに隠し持っていたのか、ポッキーをポリポリかじっていた


「食べる?」

「いらん!」

「「あ、欲しい」」

「お前らな…」


なんだよー。3人とも、ちっとも反省してねーじゃんか。

「…まあいい。どーせしばらくはイジメなんか出ねーからなー」

「「え?…ポリポリ…」」

「何故ですか…ポリポリ…」

ポッキー食うのやめんかい!


「…フーコさんや? ポッキーを食べるのに何故ほっぺにチョコがつくんですかね?」

「ふぇ?」

「風ちゃん、右、右!」

沙織がハンカチでフーコのチョコを拭く


「で。シュウはなんで言い切れるの?」

「そりゃ俺たちが来たからに決まってんだろ」

「「「?」」」

「お前たちも経験ないか? イベントがあればそっちに気がいっただろ?

で、今回の場合は俺たちの教育実習がイベントだ。

1週間ぐらいはおとなしくしてるさ」


「納得」

「文化祭や修学旅行の直前から、勉強に身が入らなかったです」

「待ってる時はドキドキして、風子と沙織に穴まで見られるのは恥ずかしいって思うのですけど。いざ私の番になると…。気持ち良すぎてそれどころじゃないですね」


「だろ?だからこの1週間は、生徒と仲良くなることを目標にするぞ。そうすれば向こうからタレコミもあるだろうし、真相を話してくれる奴もでるんじゃないかな」

蜜葉を無視して目標を掲げる


「修様、私はどうしましょう?」

「理事長代理の沙織が生徒たちと仲良くなるのは難しいな。…そうだ。沙織は先生方を頼む」

「分かりました」


今日は他の先生方から自己紹介と聖鈴のルール?を学ぶ。生徒たちとの本格的な交流は明日からだ。


「よし。明日から頑張ろう」




〜〜〜



「ゴチになります」

「遠慮なく食ってくれ」


夜、アキラ先輩に『焼肉屋に来い!』と呼び出された。なんでも俺に頼みがあるんだと。

ここの特上カルビが凄く旨いと評判だが、その分高い。メニューを見ると一人前が五切れで2500円。牛丼なら5、6杯は食える計算になる。

ハッキリいって、俺のような奴が来てはいけない高級店だ。


「…アキラさん。ちなみに隣の女性は?」

来て早々に気付いてはいたんだが…

先輩の隣に俺より少し年上の女性が座っていた。

先輩の彼女ではない。それは間違いないが、

だとすると…友達か? まさか頼みがあるのは彼女なのか?


「オサム。悪いが彼女のお願いを聞いてくれないか?」


俺は特上カルビをがっつきながら『ほらやっぱり』と思った。おかしいと思ったんだよ。来てからずっと俺を気にしてたし。無言で飲み物しか口に運んでなかったし…


「とりあえず聞くだけなら」

既に肉に手を付けている。今更ノーとは言えないな。食べる前なら断れたかもしれないが。


「修さん。はじめまして。私は須見玲子(すみ れいこ)と申します」

会釈をした時、長い髪がサラリと顔にかかる。ただでさえ魅力的な女性なのに、髪を耳にかき上げる仕草が妙に色っぽい。


「玲子さんはじめまして。アキラさんから俺の名前は聞いてると思いますが、家礼修です」

箸を置き、軽く頭を下げる


「玲子ちゃん、本名でいいの?」

「本名?」

先輩の言葉に反応する。お願いをする人が偽名ってどうなんだ?


「もちろんです」

「ならいい。オサム、玲子ちゃんはな、店ではスミレちゃんって呼ばれてんだ」

なるほど店の従業員でしたか。で、源氏名がスミレと。


「玲子さんの頼み事ってなんですか?」

ビールを煽りながら単刀に尋ねた


「ここではちょっと…」

「言いにくい話ですか?」

周りを気にしてるのか口淀む。先輩も『ここじゃあなー』と苦笑いしている


「オサム、とりあえず彼女の頼み事は置いといて…肉を楽しもう」

「そうですね。せっかく先輩の奢りなんだし、俺ガッつり食います」

「…少しは手加減よろしく」





「ふー。食った食った…」

「ご馳走さまでした」

「…食い過ぎだろオサム」

十二分に満足した俺はズボンのボタンを外している


「家礼さん、場所を変えません? そこで私のお願いを聞いてもらえますか?」

2軒目ですね?次はBARかな


「いいですよ。次、行きましょう」

少しキツめの酒が飲みたいなと思っていたところだ。


「あ、オサム。コレを持ってけ」

ほいっと紙袋を渡される。なんだろ?と思って、紙袋を開くと中に箱が入っていた。

その箱の中身がガチャガチャいって、ちょっと重い


「アキラさん、これ何?」

「次行ったら、おそらくお前が必要になるものだよ」

「ふーん。そうなんか…ありがと」

今は必要ないみたいなので、俺は気にしなかった


店から出て先輩と別れる。俺と玲子さんはタクシーを拾って次の場所に向かった








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