第29話 武闘派養護教諭

「どうすんの? 教師って言っちゃったよね!」

俺は車を走らせながら激しく後悔。学校に問い合わせれば間違いなく直ぐバレる


「あの場合…"教師" というのが最善だったと思います」

確かに不審がられず、1番いいかもしれないけど!

「なのでお父様に相談して、学校の教師の肩書きをもらいましょう」

「あ、そーですね。さすがっす!」


その手があったか! それなら学校で話しを聞くどころか、潜入してしっかり調査できるぞ


「でも俺に教師の真似事ができるかな?」

「それは…

          …大丈、ぶでしょう」


ちょっと間が長すぎません?

こっちを見ろ沙織っ。くそー、絶対目を合わせようとしねーか…ううむ。

教師は知識的に無理そうだが、用務員としてならいけるかも?



〜〜〜



「あら、おかえり」

「ただいまお母様」

「おじゃましまーす」

備前家にお邪魔すると伽耶さんとばったり出会う。

リビングだから居てもおかしくはないのだが、伽耶さんが手にしている写真がおかしい。


「ドレスの写真…もしかして?」

「決まってるじゃないの修っ。沙織と風子ちゃん、それと蜜葉のウエディングドレスよ!」

だと思いました…


「まあ!お母様ったら。嬉しいです!」

キャーっと母親に抱きつく沙織

「沙織、貴方たち何か話しがあるんじゃないの?」

さすが母親。沙織の考えなどお見通しだな


「そうです。今日は大切なお話しがありまして…。お父様はどちらに?」

話し途中で伽耶さんの眉がピクっと動く


「貴女ったら!私に抱きついたりして、もしものことがあったらどうするんですかっ!」

沙織はただ嬉しくて抱きついただけなのに…

凄い剣幕で伽耶さんに叱られた


「ご、ごめんなさい…」

「分かればいいの。これからは気をつけなさい」

やんわり嗜めると、『あなたー!ちょっと来て〜』と大声で元就を呼んだ

……

「どうした?大声をだして」

今日は休みだったのか、ラフな格好で現れる沙織父。

「あなた。2人から大切なお話しがあるんですって!」

「なぬ?!」

横に座っている伽耶が、元就の腕を掴み揺らす


うーむ。

教員免許もなく当然学もない俺が、いくら潜入調査だからといって…お願いしてもいいのだろうか。

たとえ用務員でも名門校だから、それなりの人材を使っていると思う


沙織は短大を卒業しているし、フーコは現役。蜜葉にいたっては学歴は不明だが、総長だけあって完璧超人だ。教師として教壇に立っても3人ともこなせるだろう。

それに比べて俺は…自信も力もない。


真剣に悩んでいると

「ん、んー。修くん。いや…我が息子よ。

それで…どっちなのかね?」

わざとらしい咳払いをする元就。ソワソワして落ち着きがないのは気のせいか


「どちらとは?」

隣の沙織をチラ見するが、沙織の頭の上にも "?" が付いている


「いや、分かるよ。どっちかお楽しみにって言う修の気持ちはよーく分かる! だがな、俺たちもいろいろ準備が必要ではないか」

右手、手のひらを俺に突き出して言う

伽耶さんもウンウンと頷く


「お父様? 何か勘違いされてません?」

「みなまで言わなくても分かるわ沙織。ここに風子ちゃんがいないということは…そうなんでしょ?」

「風ちゃんは留守番ですわ」

「「やっぱり!」」

2人は『沙織が1番にできちゃったー』と喜んだ。男の子だったら…とか、女の子だったら…とか、既に名前が決まっているようだ


あー…なるほど。そういうことか


「…2人とも俺たちに赤ちゃんが出来たと思ってませんか?」

「「へ?」」

「へ?って…。違いますよ、早とちりです」

「お父様、お母様。赤ちゃんはそんなに早く出来ませんわ」

「「…そう言われてみたら」」


「まったくもー。たしかにここのところ毎日、修様とエッチしてますけど。…したからといって、1週間や2週間じゃ無理です!」

「ちょ?!」

爆弾発言した沙織

「あらあら。若いっていいわね〜」

「毎日か…。修、凄いな」

「あ、あぅ…」

両親の冷やかしが入り、沙織撃沈。


「…では何かね?」

元就は『せっかくおじいちゃんなったと思ったのにー』とため息を吐く


「えっとですね…

……


「ほう。聖鈴でイジメがあるとな?」

元就は腕を組み、顎を触る

「あると断言は出来ません。なので潜入して調査したいのですが…」

潜入という言葉は悪いが、ここは正直に話した


「よろしい! では兄に伝えておこう」

ポンと手を叩く


「そんな簡単に。…いいのですか?」

手続きや根回しを考えると、少し待たされると思ったんだが…


「なーに。教育実習という名目でどうとでもなる。それに聖鈴で…そのような事がもしあるのなら、早目に対処しなければ他の生徒たちに悪影響がでるからな。

なにより、その弥生君にとっても早期解決が望ましいだろう」


「ありがとうございます」


「で、誰がどの教科を担当するんだ?」

「そうですね…。フーコたちにも聞いてみないことには…」

フーコや沙織も教科によって得手、不得手があるはずだ。蜜葉は…全部いけそうな気がするが。


「皆で話し合ってから、兄の所に向かいなさい」



〜〜〜



「お久しぶりです伯父様」

「おお!沙織ちゃん。久しぶりだな」

理事長室にやって来た俺たち4人。結局担当教科は決まらなかったので、『聖鈴に行ってからでよくね?』となった。

俗に言う、行き当たりばったりだな


で、真凜は弥生と事務所でお留守番。弥生を1人にさせては拙いという判断だ。


「いつぶりだ?」

「正月の"席"以来でしょうか」

『そうか。あっという間だな』と笑みを浮かべ近づいてくる。

元就さんより少し歳が離れている…かな? 体は鍛えているのであろう、体格は良い。スーツ越しにも分かるほどだ。

やや白髪混じりの頭は、若干うすいがハゲではない。

さすがに理事長だけあって貫禄はあるが、元就さんと比べると…


「君たちだね?会長から連絡がきたよ」

「…会長?」

おや?兄なのに元就さんを会長と呼ぶのか?


「どうした? ああ、わしが弟を会長と呼ぶのが気になるか」

「はい。ご兄弟ですよね?」

「元就会長は正妻の子。わしは妾の子だ。それにあやつは備前のトップ。いくら弟だとはいえ、呼び捨てにはできんよ」

自分を妾の子と言ったが、そこに暗い部分は感じられない


「そうでしたか」

「わしは弟ほど才はない。それに上に立つより、下から支える方が性に合っとる。ま、そういうことだな」

わっはっはと理事長が笑う。

元就さんの凛とした雰囲気とは全然違うが、この人のふんわりとした雰囲気は心地よいなと感じた。


「それで…みなさんはどの教科を? あ、沙織ちゃんはダメだぞ」

「伯父様?」

「わしのサポートをお願いしたい」

「伯父様…」

「理事長の仕事が多くてな。聖鈴は小・中学校、女子高、女子短大に女子大。青樺学園。そして備前高校と備前学院大学。分校もあるから手が回らんのだ」


「全部を1人で?」

「そうじゃ。各学校に理事はそれぞれいるが、理事長はわしだけだな」

そりゃ大変だろうな。生徒だけでも何千人という規模だ。


「沙織はサポートだな」

「仕方ないですね…」

せっかく修様と教師ごっこができると思ったのに〜と悔しがる。

ごっこじゃねーし! 沙織、目的を忘れてないか?


「私は国語ね」

とフーコ。

「おっ? 無難と言えば無難だが、言葉使いに気を付けろよ?」

「分かってるって」

ホンマか?少し心配だな


「私はなんでもいいですよ」

蜜葉、さすがだな。

「さすがみっちゃん!備前学院大学を主席で卒業しただけあるねー」

「…マジ?」

「ええ。修は知らなかったのですか?」

高学歴だとは思っていたが、エリート中のエリートじゃねーか。

自分の学歴と比べてしまうと…悲しくなるな

「蜜葉はフリーでいいか」

「構いませんよ」

全クラスを調べるには良いかもしれん


「俺は…用務員でお願いします」

「すまん。修君だったかな?用務員は外部委託なんだよ」

「…そうですか」

どうしよう…安牌の用務員は消えた。

教科を教えるなんてできないぞ。中学校とはいえ、エリート揃い。残念授業になるのがオチだな


「じゃ、シュウは養護教諭で」

「おお。それなら1人2人増えても問題ない」

フーコと理事長が俺の担当を決める


「養護教諭?」

そんな教科あったかな?


「保健室の先生だよー」

ニヤニヤして俺を見るフーコ


「子供に手を出さないでねー」

「風ちゃん、修様はロリコンではありませんよ?」

「最近の子供たちは発育が良いですから…もしかしたら」

「修君、大丈夫だよね?問題起こさないでお願いだから」



「起こすわけねーだろ!」

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