第28話 家庭訪問

「修様。少しよろしいでしょうか?」

「ん?沙織どした?」

女子トークの中から沙織が抜け出して来た


「聖鈴は叔父が理事長をしています。一度お父様に相談されてみてはいかがでしょう」

マジで?あの学校も備前の傘下なん?

そりゃ備前の影響力が強い筈だわ。エリート粒揃いじゃん。官僚や一流企業の役員に卒業生いるんじゃねーの?


「そうだな。そういうことなら尋ねてみるか。しかし学校に行きたくないつーのは分からんでもないが、自宅へ帰りたくないというのが腑に落ちない」

学校はおそらくイジメではないかと思う。だが、避難できる場所…安全地帯であるはずの家を嫌うというのは何故だろうか


「あの子を呼んできてくれないか?」



〜〜〜



「なるほどな」

会話がなかなか成り立たなかったが、彼女から話しを聞き出すことに成功。

どうやら彼女、弥生ちゃんは両親を事故で亡くしたらしい。

"らしい"というのは、本人が『お父さんとお母さんは"あっち"で待ってる』と言い張ったからだ。

彼女の中では会いに行けるという感じなんだろう。死別したという認識はないみたいだ


で、現在は親戚の家で暮らしている…と


「しかし、いくら両親を亡くしたからといってあんなんなるか?」

俺も両親を幼い時に亡くしている

父さんとの思い出はあるが、母さんとの思い出はない。それどころか母さんの顔は知らないし、当然写真も無い。

だけど現実をちゃんと受け止めて育った。


「それは修様、個人差がありますわ」

「個人差ねえ…」

「ほとんどの方は悲しみに耐えて…前を向いておられますが、中には弥生ちゃんのように病む方も…」

「そうか…。みんなが皆、前向きに生きてるって考える方が間違ってる…か」

「はい」

沙織の言う通り、個人差があっても不思議ではないな。いや、個人差があって当然か。

俺はおばちゃんが親身になってくれたから、前向きになれたのかもしれない

…おばちゃんには、ありがとうという言葉だけでは全く足りない…ん?


「まてよ? 弥生ちゃんは親戚の家で暮らしているんだよな?」

「みたいですね。それがどうかしました?」

「親戚の人は弥生ちゃんを支えなかった?」

支えなかったという表現は適切ではないかもしれないが、それに近い気がする


「そんなはずは…」

『沙織様、キングの言う通りだと思いますよ』

「アイ、それはどういう事ですか?」

『親戚だからといって、必ずしも"味方"だとは限らないという事です』

「?!」

「アイもそー思うか?」

『はい。1番分かりやすいのは"金"ですね。それから"恨み"でしょうか』

「カネは分かるが…恨み?」

『そうですね…例えるならご両親に対して恨みを持っていたとします。ご両親は既に亡くなってますから、その恨みを弥生に…とは考えれませんか?』


「なるほど…。つまり復讐というわけだな」

『はい。金や恨み…私の推測があっていれば、弥生に非はありません』

「あってたまるか! 未だ中学生だぞっ」

「修様!落ち着いてください」

大声を出してしまったので、弥生と弥生の話し相手たちが何事かと俺をみる


「わ、悪い。何でもないから気にしないでくれ」

弥生やフーコたちに両手を合わせて謝る。

いかん。感情的になってしまった


「俺様。先ずは弥生ちゃんの家に行く必要がありますね」

「ああ。弥生は帰りたがらんだろうから、

今日はここに泊めて俺が話しを聞きに行く」

『でしたら沙織様もご一緒にお願いします』

「そうですね。男性1人が訪ねるより女性もいた方がいいと思います」

「分かった。沙織頼むな」

「はいっ」


フーコたちに弥生の面倒を頼み、沙織と2人で親戚の家に向かった



〜〜〜


「ここか?」

「間違いないと思います。ほら、三木と表札にもありますし」

「フツーの家だな」

「はい。ちっちゃくてかわいいです」

「…お前からすれば、ほとんどの家がそーなるぞ」

二階建ての白い家には、小さいながらも庭がある。そこには花壇があり花が咲いているのだが、よく手入れがされていた


「中の様子までは分からんな」

リビングだと思われる窓から様子を伺ってみるが、レースのカーテンが邪魔で中が見えなかった


「では修様…」

「ああ」

俺は玄関のチャイムを押す。返事がなかったので、何度か繰り返した。

車はあるし、人の気配があるので居留守を使われてるのか?と考えてたら


「…はい」

たっぷり時間を掛けて、出てきたのは三十後半ぐらいの女性。ふむ、この人が弥生の母親代わりか?

「あ、わたし家礼というものです」

「その妻です。私たちは聖鈴で、それぞれ教師をしています」

「おまっ?!」

沙織!何言ってんの?

教師は拙い!それに妻って、まだ結婚してないだろ?!

ギロっと横にいる沙織を見下ろす。が、目も合わさず俺の脇腹をツンツンと押す沙織

…お前、フーコと連むうちにたくましくな…

「…何の御用でしょう?」

おっと、いかん


「縁があって弥生ちゃんを保護したのですが、学校にも家にも帰りたくないらしく、わたし達教師も困りましてね。嫌がる彼女に無理矢理…というのも保護した手前出来ませんし。

なぜ彼女が嫌がるのか…。で、お話しを聞きに来たという次第です。あ、担任には話を通してますので心配なさらずに」

…少し無理があるか?


「あら、そうでしたか。わざわざすみませんね。立ち話もなんですから、お入り下さい」

一瞥もせず俺たちの前から消えるように奥に入っていった母親代理。なんとか誤魔化すことに成功した


「お邪魔します」

「お邪魔しますわ」

彼女を追うように俺たちは奥へ向かった




「粗茶ですがどうぞ」

俺たちの前にお茶が置かれる

「あ、すみません」

「ありがとうございます」

ズズっと一飲み…うん、不味い!

横の沙織は手に取ろうともしなかった。

くっ!裏切り者めっ


「お口にあいませんか?」

「そーですね…なんて言っていいか…。普段コーヒーばかりなので、お茶はよく分かりません」

とっても不味いよ!なんか変な匂いもするし! 雑巾の搾り汁入れちゃってないコレ?


あまりの不味さに顔をしかめていると

「率直にお聞きします。弥生ちゃんはどの様なお子さんですか?」

えっ?いきなり聞いちゃったよ。大丈夫か?


代理はうーんと少しばかり考えて

「素直ないい子ですよ。たまに悪戯をしますけど」

「そうですか。では、仲はいかがでしょう?」

「良好ですが、あの子も年頃ですからね。反抗期ということもあって、たまにはケンカもします」


「失礼ですが、お父様の方とは?」

「娘って、父親を嫌いますか?」

「…分かりました。ありがとうございます」

はやっ?!

もういいの? もっと聞いた方がいいぞと沙織を見るが、満足していらっしゃった…。



「俺からもいいかな?」



〜〜〜



「お邪魔しました」

「ご馳走様でした」

弥生の家を後にし、車に乗り込んだ


「どう思う?」

とりあえず沙織が感じたことを聞いてみよう


「表面上はごく普通でした。でも、弥生ちゃんを知っている私からすれば、違和感がとてもありましたね」

「だろうね。で?」

「先ずはそうですね。家に上がる様に勧めておきながら、帰れと言わんばかりの"あのお茶"。アレは生ゴミの汁が入っ…

「ストップ!それ以上はゆーな!」

口をつけてしまったからには、残すのは失礼だと思って全部飲んでしまった…


「そう考えると、上がらせたのは近所の目を気にしたから…という事でしょうか」

「そうだな。気持ち悪い」


「それから、弥生ちゃんの名前を一度も言いませんでした」

「だな。仲が良いなら、たとえ対外的に会話をしても、ふと出ちゃうのが普通だ。吐き気がするけど」

まあ、絶対に名前が出るという訳ではないが。

うえっ…喉元までこみ上げてきたぞ


「弥生ちゃんの今の状態を何も触れてなかったのはおかしいです!」

「ゲロゲロゲ〜」

窓を開けてリバース。

優しく背中を摩ってくれるのはありがたいが…お茶を飲む前に止めて欲しかったなー



「ふー。スッキリした。そうだな、今の弥生を素直と言うのには無理がある。それに家が嫌だという弥生と仲が良い? あの女、俺たちを馬鹿にしてるのか?」

「私も思いました」

「まあ、母親代理は本当にそう思ってるのかもしれんが」

母親代理はグレーだ。クロというには決定的なものがない


「? どういうことですか?」

「沙織、お前は気付かなかったか? あの場にはもう1人…いや、気配を隠して俺たちの会話を聞いていた奴がいる」

薄い扉の向こうに、息を殺して盗み聞きする男が居た。しかし素人がいくら気配を殺したところで、"俺が気付かない" ということはありえない


「?! 父親代理っ」

「だろうな。そいつが黒幕だ」

黒幕とはいっても実際なにをしているのかは分からんが。

しばらく様子を見る必要がある





「帰ったか?」

「ええ、あなた」

修たちが帰ったのを見計らって、父親が出てきた


「弥生にも困ったものだ。帰って来たらお仕置きだな…。アレ以上壊れるのは拙いが仕方あるまい」

「…はい」


「だが先ずはお前からだ」

「…はい」

女はおもむろに服を脱ぎ始めた。目には光がない


「なんだ、もう我慢できないのか?」

男は脱ぎ捨てられたパンツを手に取り指でなぞる

「……」


裸の女はピクリとも動かず

ただぼんやりと立っていた

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