第26話 恋愛マスター

「おまた?」

ひょっこりフーコが現れた

「いや早かったと思うが、この空気だろ? 凄えしんどかったわ、マジで」

連絡してから、フーコたちがやって来るまでの時間はかなり早かったと思う。

だがその間、部屋の中は沈黙が支配して…凄く息苦しかった


「あなたがクズのミノルですか?」

おーっと蜜葉さん、いきなりですか?

とっても口が悪いですよ?

「先輩、この人なんなんスか?!」

いきなりクズ呼ばわりされたミノル。そりゃミノルも気分を害すだろうな…クズだけど。


「「ミノルはクズじゃありません!」」


ハモってしまった2人は互いに顔を背けた


「クズですよ。ホントにクズ!」

真凜が蜜葉のあとに追撃

「だってそうでしょ? 朋子さんに里美さんでしたっけ? お2人が真剣にクズを好いてらしてるのに、クズときたら調子に乗って!

私、そんな人…許せません!」

「「……」」


クズ、クズとまあ…。でも真凜、ミノル達3人を知らんよね?

いったい誰が真凜に知識入れたんだ?


1人づつ顔を見ていくと目を逸らす奴が。

お前かフーコ! くそっ、仕方ねーな。


「お互い好きなら、例えクズでもいいんじゃないかなあ…」

さりげなくフォローをしてみる


「先輩まで酷いっス!」

わりー、フォローになってなかったか。

横目で沙織を見る。頼む、この雰囲気なんとかしてあげて!


俺の想いが届いたのか、沙織が頷いた。

よし!お前に任せたぞ


「ミノルさんにお聞きします。朋子さんと里美さん…どちらがお好きなのですか?」

あっかーん。沙織、それはアカンやつや。

「……」

2人を目の前にして、そりゃ答えられんって!

ほら彼女たち、ミノルから目を離さなくなっちゃった。


しばらくすると、ミノルの額から汗がドバドバ出始める

ポカリ飲むか? お前そのままだと乾物になっちゃうぞー


「答えられませんか?」

「…はい」

同じ立場だったら、俺もよー答えんぞソレ。


「それが答えです」

「へ?」

「え?」

ミノルにつられた…。いや、そうじゃないな、俺も分からなかったからだ。


「さおりん、それじゃあ分かんないよ」

「そうですか?」

「「ですです」」

沙織に睨まれるミノル

ミノルが『なんで俺だけ…』と呟くが、沙織が俺を睨む訳ねーだろ!


「さおりんの話をねー、分かりやすく言うとね…

どちらか選べるなら、選べばいい。

選ぶことが出来ないなら、選ばなければいい。

そう。ミノルくんは選ぶことが出来ないほど、2人がとっても好きなんだよ。だったら2人ともGETしちゃいなよ?

って、さおりんは言いたかったのね」


「いいんスかね?」

ミノルは『1人に決めなくてもいいの?』とフーコに聞く。お前それを聞くか?


「私はね…

好きな人とカップルになって、結婚して…家庭を持ったら幸せだと思うよ?…それはね。

でもね?彼と同じぐらい好きな親友が、私と同じぐらい彼を好きだったら…


どうする?


私が彼を独占して、親友の涙を見ればいいの?

親友の為に身を引いて、私は陰で泣けばいいの?

それではきっと…幸せにはなれない

だから私はね、、さおりんと2人で彼を愛すって決めたんだよ。

それならきっと、幸せになれるから。」


「風ちゃん!」

ヒシっとフーコに抱きつく沙織


…そうかフーコ、だからなのか。

お前の気持ち、俺の心に届いたよ

ジーンと胸があたたかくなる。心地よい温もりだ。今にも泣いてしまいそうだけど…


「今じゃ5人でパコパコやってるけどねー」


「「「「………」」」」


台無し! 台無しだよフーコ!!

口に出したらダメ。そう思っても我慢するの!


…たぶんフーコのヤツ、言っちゃって恥ずかしくなったんだろーけど!

あああ…朋子ちゃんと里美さんの目が冷たい。雪山を薄着で歩くぐらいの寒さだ。

…ミノルの反応はどーでもいいや


「女子集合〜」

フーコが部屋の隅に集めた。当の本人はソファーにドシっと座っている

どうやら半公開の女子会をするらしい


「ミノル、お前はどうなんだ?」

取り残された男二人。なら本音で語ろう


オヤジはフーコたちと入れ違いで出て行った。ミノル的にも俺一人の方が話しやすいだろうし、な。


「そーっスね…。朋子は気が強そうに見えて、結構繊細なんスよ。そこがかわいいってゆーか、惹かれるんスよね。

里美はグイグイくるタイプっス。気付いたらアイツのペースになってて…。自分から攻めるって無いっスから、ハマっちゃうんスね」


うん。なるほど。

それは俺もよく分かる

「ギャップと無い物ねだりだな」

ギャップは誰でもクラッとくる。いつもと違うからだ。

自分が持ってない、自分ではまず無いというのが相手にあった時…これも惹かれてしまう。そう、それは無い物ねだりだ。


「先輩分かるっスか?」

「もちろん」

「さすがっス!」

「まーな。あまり自慢出来ないが」

ほら、俺4人もいるじゃない?いろいろ大変なんだよ? 自慢にはならないけど


「朋子、ああ見えてバックでするのが好きなんスよねー」

ん? 何の話だ?

「里美は騎乗っス。乗ってる感じがいいらしいっス」

いやー、俺はどっちも好きっスけどね?と、ミノルが照れる。


「ちょっと待てお前! 何の話だそれ」

女子会中の朋子ちゃんと里美さんがコッチを睨んでいる

キミら、コッチに気を取られて、余所見してたらフーコに怒られるよ?


「え? 恋愛マスターの先輩なら分かるっスよ…イタタタタっ?! ギブ、ギブっス!」


誰が恋愛マスターじゃい! 俺は2人への気持ちはどーなんだ?って聞いたんだよ!

エッチの時の話を聞いたんじゃねえぞ阿呆!

アイアンクローをアホにかけていると、女性陣から話し声が聞こえてきた


『でさ、シュウはね…』

『『凄ーい!』』

『順番間違ったら全滅ですか?』

『うん。みっちゃんを最初に当てないと…』

『そうなんですか』

『私は風ちゃんと一緒に…』

『沙織様は待てない程ウズウズされて…』

『ちょっと蜜葉!』

『『へー』』

『真凜ちゃんは?』

『私が最初だと壊れちゃいますっ!』

『『だよねー』』


……女子会ってなんなの?

気のせいか俺の株価が値下がりしている…そんな気がする


「まー。お前が悩むのも分かんだけどな」

朋子ちゃんも里美さんも魅力的な女性だ。意外にもミノルは、二股を掛けるのが受け入れられない奴なんだろう


「沙織やフーコが言った通り、"自分がどうすれば後悔しない" か…が、大事だと思うぞ俺はな」

「…っスね。そうっスよね!」

ミノルは自分の中で『何か』を決意したのだろう。先程とは違い、言葉や目に気力がある

のが分かる


「先輩を見習って、俺もハーレムを作るっス!」

「お前、正気か?」

違うだろー?そうゆー事じゃないだろミノル。

お前2人でこんな事になってんのに、増えたら死んじゃうよ?


「正気っスよ。俺、頑張るっス!」

「そっかー。死ぬなよ?」


『またまたー。死ぬなんて大袈裟っスよ』と、鼻で笑う

もー、いいや。死んでもお前なら異世界に転生できるんじゃねーか?


「朋子〜、里美〜。ちょっといいっスか?」


どうやらミノルは決意したことを2人に伝えるらしい

ミノルハーレム計画を、か?

でもここ病院だし、致命傷を喰らわなかったら死ぬことはねーか

黙ってミノルの言葉を聞くとしよう


「俺、決めたっス! 先輩を見習って、ハーレ、ひぃぃっ?!」

ミノルの股間スレスレに果物ナイフが刺さる


「ハーレ…なにかな?」

「ミノルには、修さんの様な甲斐性がないでしょ?」

アホなことを言いかけたミノルを2人が睨む。

しかし惜しいな。実に惜しい。

もう数センチ、ズレてたら良かったのに…


「違うっス! 2人とも落ち着いて話を聞くっス」

『最後まで話をさせてー』と、ミノルは2人に頼み込む


「俺、先輩のように何人も要らないっス! だけど、1人だけってゆーのも無理っス」


「「……」」


「2人ともコッチにきて」


2人が側に来るなり、ミノルはガバッと腕を回した。

右腕に朋子ちゃん、左腕には里美さんが捕まっている


「俺は2人とも好きっス。どちらも離したくないっス!」

「ミノル…」

「ミノルくん」


「右に朋子、左は里美。ハーレムって言ったっスけど、俺はこれ以上増やす必要ないっス。だから2人を全力で愛します!」


「「私も好きっ!」」


…うーん。ミノルが決心したんだし、それならそれでいーんだけどな?

お前、真面目な台詞を言う時ぐらいはオッパイ揉むのやめよーぜ…


「ミノルが言った事だが、2人はどうなんだ?」

反応見てたら答え出ちゃってるけど、一応聞いておくか



「私も好き…。離れたくない!」

「朋子さんと同じです。風子さんが言ったことがやっと分かりました。こういうことなんですね」

2人の間に、未だぎこちなさはあるが、さっきまでのギスギスした雰囲気はなかった


「そっか」

さすがだよフーコ。お前が本物の恋愛マスターなのかもな


本日のMVPを見る


…なんで見舞いの菓子食ってんの?!

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