第25話 ミノルの入院

「おはよー」

「おう。おはよう」

「「おはよう」」

「おはようございます」


入居祝いをした次の日の朝。

俺がソファーで寛いでいると、みんなが集まってきた

いや集まってきたというのはおかしいか…。昨夜特注のキングサイズベッドで一緒に寝たんだ。起きてきたと表現するのが正しいだろう


「…なんだよ?ニヤニヤしやがって」

フーコと沙織が俺と蜜葉を交互に見る


「いえね…。昨夜みっちゃんの乱れっぷりが、今のみっちゃんを見てると嘘のようでね」

「凄かったよね風ちゃん!」

昨日、俺たちだけの時は出来るだけ敬語や様つけをしないように決めた

それが相乗効果を生んだのか…昨夜の蜜葉は手がつけれん程ヤバかった。


「言わないで…」

両手で顔を隠す蜜葉。そりゃそうだろうな


「勉強になりましたっ」

1人だけ真面目な真凜

「あかんって。アレを真似てはダメだぞ真凜」

「そうなのですか?」

「「……」」

真凜はきょとんとしながら、2人の姉ちゃんに尋ねた。

ほらお姉ちゃんたち、黙ってないで答えてあげて!


「真凜が困ってるだろ?答えてあげないと」

俺はニヤニヤしながら催促する


「…えっとですね…。真凜、顔にオシッコかけてはいけませんよ」

「さおりん、違うよ?アレはみっちゃん潮吹

「ダメー!!」

フーコの口を塞ぐ蜜葉

俺はニヤニヤが止まらない


『キング、最低ですよ?』

アイから忠告が出る

なんとでも言え!俺はこんな時間を過ごすのが楽しみだったの!

マッタリとたわいもない話をして寛ぐ。この時間は俺にとって至福の時だ


"キキーッ、ドカッ! 誰か助けて〜!"


俺のスマホが…鳴る?

またフーコのやつ、勝手に着信音を替えやがって…


「はい修。オヤジどーした?」

『オサムか? 突然で悪いが、ミノルが入院した。詳しくはまた後で話すが、アホの様子を見てきてくれねーか?』

は?入院した? ミノルが?


「分かった。…うん。うん。3階の東側、一番奥ね」

『頼んだぞオサム』

「あいよ」

ふー…。あのアホ、何をまたやらかしたんだ? 入院した原因も、どうせろくな事じゃねーんだろ


「みんな、俺いまからちょっと病院に行ってくる」

「病院に?」

「ああ。ミノルのアホが入院したんだと」

「お見舞いですか?それでしたら、何か手土産がいりますね」

ゴソゴソとダンボールを漁る沙織


「いや、いらん。今日はちょっと様子を見に行くだけだから」

菓子ぐらいは持って行ったほうが良いのかもしれんが、ミノルの状態を先ずは見ないとな。本人が食べれなかったら意味がない


「大袈裟になりそうだからな。ま、アレだったら自販機で飲み物でも買って顔出すさ」

「そうですか。分かりました」

「じゃ、ちょい行ってくる。おーい?行ってくるなー」

恥ずかしさのあまりソファーで爆死している蜜葉。…聞こえてないんかアイツ?


「かわいいお尻が丸見えだぞー?」


クッションが飛んでくるが、サッと避けた俺は玄関から出る


『行ってらっしゃいませ』

「おう。アイツらを頼んだ」

『お任せください』


やれやれ…朝っぱらからめんどくせーな

ミノルにゃ悪りーが、顔見たらさっさと帰るか…



☆☆☆



「東側…だったよな」

病院に着いた俺は3階に上がった。もちろんエレベーターで、だ。

階段? そんなもの使ったら体に悪いでしょうが! なんでか知らんが、体が朝からしんどいの!


「東、東っと。…こっちか」

あとは1番奥の部屋だな。突き当たりを目指そう

途中、看護婦さん達が俺を見て、キャーキャー騒ぐがほっといた。でも会釈はしたよ?

社会人としては当たり前だからな



「ここだよな?」

名前は表示されていないが、ここで間違いないだろう

「にしても、個室か」

どうせ、たいしたことないんだろ? 個室って大袈裟じゃねーか?


「入るぞー?」

ノックもせず、勝手に開けて入る


?!

?!

?!


「一旦出まーす…」

クソ馬鹿が。警察署の時もそうだったが、病院もラブホじゃねーんだぞ!

……

「あ、修さん。その節はありがとうございました。ミノルが中で待ってますよ。

      …私、洗濯に行ってきますね」

部屋から里美さんが服を整えて出てきた

「ああ、行ってらっしゃ…い」

と、思ったら軽く(一方的に)会話して、そそくさと洗濯をしに行った


…逃げた??


だがしかし、お互い先の件に触れないのはオトナだからだ

「さて…と」

気を取り直して部屋に入る


「先輩、見舞いありがとっス」

両手を前に出すアホ

「手土産なんか持って来てねーぞ?」

「お見舞いに土産…常識っスよ!」

『甘いものが食べたい〜』と愚図る


「常識がないアホに言われたくねーな」

水筒の熱いお茶を股間に掛けてやる


「あっつ! ちょ、先輩!火傷するっス!」

『使えなくなっちゃう!』と怒るが、入院中は使えなくてもいいんじゃないかな?


「で、お前…何やらかしたんだ?」

病気で入院した雰囲気はない

仕事中…という事も考えにくい。オヤジが怒っても、喜んでもないからだ。


怪我をした様には見えないし、思いのほか元気だな。

コイツ…もしかして仮病か?

ミノルだけに俺は疑った。


「朋子に刺されたっス…」

「ああ、刺されたんスね。

       …刺された?!」

『ほら、このお腹のとこをブスって』と服をめくって包帯を見せる


「朋子ちゃんが?」

「朋子にっス」

信じられん。あの朋子ちゃんが…か?

彼女は俺も知ってるが、常識人で自分の感情を抑えることが出来る女性と思っていたが…


ふと俺は気づいてしまった

…なるほど、里美さんか。

三角関係が原因だとしたら…もしかしたら里美さんを庇って?

「ミノル、お前やるじゃねーか!」

コイツも "いざという時" は、やるんだなと見直した。


「先輩、その時の状況っスけどね…



「なんでここにいるのよ!」

「私、ミノルさんの彼女ですから」

「アンタには聞いてない!」

「まあまあ、2人共落ち着くっス」

ミノルの部屋で朋子と里美が初めて出会った…。

いや、出会ってしまったが正解だ。


「彼女は私でしょ?この、わ・た・し!」

ミノルに詰め寄る朋子

「あら、身元引き受けにも来なかった人が…彼女面?」

里美が朋子を煽る


「頭を冷やせと言いたかったの!」

「言ってませんよね?」

「そういう意味じゃない!」

尚も里美が煽る


「ミノルさんは警察署でね…寂しさのあまり気が変になっていたのよ?」

「?! それホントっ?!」

「知らん顔していた誰かさんは知り得ないでしょうけど! ミノルさんを元に戻したのは私。私のこの"おっぱい"よ!!」

ぷるんと揺らし見せつける


「あなたには…無理ね」

ふふんと勝ち誇った様に里美が言った


「この女、言わせておけばっ!」

リンゴを剥いていたのだろう、剥きかけのリンゴとナイフが皿に置いてある

朋子は威圧するつもりでナイフを手にした


「朋子、やめるっス!」

かっこよく、2人のあいだに割って入るミノル


「どいて! コイツを刺して私は死ぬっ」

朋子にそんな気は全くない。まったくないのだが、雰囲気と今までの流れが、彼女の口からこの台詞を出させた


「朋子、落ち着くっス」

ミノルは里美のおっぱいを揉みながら言う


「このおっぱいに…おおっ?!でっか。

…いや、助けられたのは事実っス」

『里美、乳首勃ってるっスよ?』と、要らん事も言うミノル


「くっ!」

それを見ながら歯軋りする朋子。それはそうだろう、自分にあんな脂肪の塊りはついてない。


「だけどね朋子。いや、里美も良く聞いて。

朋子のおっぱいは貧乳だけど、癒されるんっスよ」

揉まれている里美のおっぱいに対し、撫でるように触られる朋子のおっぱい


「「……」」


「僕はね、どっちも欲しいっス! 里美のおっぱいも朋子の貧乳も。だから朋子は貧乳、貧乳と自分を責めるんじゃないっス。ぺったんこも需要があるんスよ…僕にはねっ!」

キリッとキメ顔のミノル。


プチ! 

"グサッ"


「ぎゃぁぁぁあ?! 刺さってる、刺さってるっス!」



…って、ゆーことがあったっス!」


「おもいっきり自業自得じゃねーか!」

馬鹿だろお前…。

せっかくだから朋子ちゃん、もうちょっと深く刺したらよかったのに


「刺されても浅かったみたいだな。手加減してくれた朋子ちゃんに感謝しろよ?」

下手したら死んでたかもしれないんだぞ


「それは…コレ。コレが守ってくれたっス」

枕の下から本を取り出したミノル


「おっぱい全集…?」

エロ本じゃねーか!

「リンゴを剥きながら見てたんス。そしたら里美が来たから慌てて腹に隠したっス!」

『いや、危なかった』とミノル


「思春期のガキかお前は…」

「お気に入りのおっぱいページ…乳首に穴が開いちゃったっス…」

『よよよ』と泣き真似をするアホ


"バリバリバリッ"


おっぱい全集を縦に引き裂いてやった


「俺のおっぱいがっ!」

「違うぞー。これはエロ本、ただの本だぞー」

「先輩酷いっス! 本には罪無いっスよね」

「お前の所持品ってゆーだけで罪だな」

「そんなはずない! おっぱい…くっつかないっス…」

一生懸命に破れた本をくっ付けようとするミノル。幾らやってもくっ付かず、しょんぼりと肩を落とす


「お前ら廊下まで聞こえてんぞ?」

病室の扉が開き、ヌッとオヤジが顔を出す


「「オヤジ?!」」


「ミノル元気そうでなにより、だ。だが…2人して、おっぱい・おっぱいと大声出すな。みっともない」

「わ、悪い…」

「申し訳ないっス…」

オヤジに俺たち2人揃って叱られた


『まったくもー、オサムまでアホになったら僕困っちゃうよ?』と、オヤジは俺に追加で説教する


「…分かったな? と、説教で忘れとったが…入って来なさい」

オヤジは扉に向かって話す


「…ミノル、ごめんなさい…」

「朋子?!」

シュンとして部屋に恐る恐る入って来る朋子。バツが悪いんだろうな…


「?! オヤジ、ちょっといいか」

オヤジを部屋の隅に連れて行く


「どうしたオサム?」

「あのな、いま里美さんが来てるんだよ」

「本当かっ?!」

「だから拙いと思うんだ」

拙いってもんじゃねえ。すげー嫌な予感がする


「しまったな。どうするオサム?」

「どうもこうも…って、オヤジ冷静だな?」

やらかした本人は俺より冷静だった


「実はなあ、2人は一応和解はしてんだよ」

「なんだ。そうだったんか…。それならそうと早く言ってくれ」

心配しちゃった


「バカっ! 一応だぞ、一応」

「その言い方、引っかかるんだけど?」

一応とはいえ、和解したのなら血を見ることはないよな?


「ただいまー…

           …朋子さん?」

里美が洗濯を終え戻って来た

セリフとセリフの間が長い!ちょっと怖いんですけど?!


「里美さん…ご迷惑をお掛けしました」

深々と頭を下げる


「……」

「……。」

2人の女性はお互い見つめ合う

まるで鏡に写った自分を見るかのように


「いやー!凄え怖いっス!」

その空気に耐えられなかったヘタレが叫んだ


「ミノル、お前が中心なんだぞ?」

「いやー!怖いのは、いやーっ!」

ダメだコイツ…。

なんでこんなアホを朋子ちゃんと里美さんは好きになったんだろ


「仕方ねーな。女性のことは女性に任せよう」



俺はフーコたちに連絡した



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