第24話 メイドの秘密 〈下〉
「お待たせっ」
「風ちゃん、修様…寝てますよ?」
「あのソファーですね。私でも気を緩めたら寝てしまいます」
「むー。起こすのはかわいそうかー」
「ですね。起きるのを待ちましょう」
「……」
「真凜ちゃん、さっきから無言ですね」
「どうしました真凜さん?」
「…豪華過ぎません?」
「大丈夫〜。住んでたら慣れるよきっと。」
「それはそうかもしれませんが…。豪華過ぎて落ち着きません」
「ことわざにもあるしー」
「風ちゃん、"住めば都" って言うことですか?」
「そう、それっ!」
「お2人とも、それは間違いですね。"住むは都" が正しいのです」
「さすがみっちゃん!」
「蜜葉、その言葉…とてもしっくりきます」
「そうなのかな? でも、豪華過ぎだから良くないって事はないですよね」
……
…
騒がしいな…。
……
…
「…ん? あー、寝ちまったか」
ソファーに座って待っていたら寝てしまった。この座り心地は半端ねーな
「シュウ、目が覚めた?」
俺が目を覚ましたのを、直ぐに気付いたフーコ。さすがとしか言いようがない
「ああ。荷物持って来たか?」
「「もちろん!」」
「私も着替えとぬいぐるみを…」
真凜が、犬?の様なぬいぐるみを抱えている。古いぬいぐるみなのだろう、あちこちほつれて色褪せていた
「ぬいぐるみって…」
初日に持ってくるほどの物かソレ?
「真凜ちゃんはね、このワンちゃんが無いと寝れないんだよ」
「ちょ?! ちょっと風子さんっ!」
「なら必要だな」
可愛いじゃねーか。膨れっ面もあどけなさが残って、真凜の可愛さを更に引き立てている
『みなさんようこそ』
「アイちゃん元気だった?」
「アイ、マスターに粗相などしてませんね?」
『滅相もない』
「……」
ほー。さすがガチの二重人格だ。しれっと嘘をつくな…
『そんな事より、新しく同居人が増えたのですから…お祝いしたらどうでしょう?』
「それいいね!」
「でしたら私がケーキを買ってきます」
蜜葉が代表して買いに行こうとするが
『蜜葉様はお茶をお願いします。蜜葉様のいれるお茶は美味しいと仰っていましたよ』
「本当ですかっ!」
「本当だ。お前がいれる茶は美味い」
「ありがとうございます」
俺に一礼する蜜葉。久しぶりに蜜葉から礼を言われた様な気がする
『風子様、沙織様と真凜様を連れて、買い出しをお願いします』
「私は風ちゃんのお供で行くつもりですが、真凜ちゃんは主役なのですから…ここで待ってもらった方が良くないですか?」
『この辺りの社会勉強も兼ねてます。真凜様もお願いします』
「でも…
「アイちゃん了解! さおりん、真凜ちゃん、行こっ」
煮え切らない沙織と、ぬいぐるみを置いた真凜の手を引っ張り連れて行くフーコ
「そういうことか…」
『はい❤︎』
やれやれ、お前に気を遣ってもらうとは…
「じゃ、じゃあ私…お茶の用意をしてきます」
俺とアイの短い会話から不穏な空気を読んだのか、蜜葉がキッチンへ足早に向かおうとする
「待て!」
「ひっ?!」
ちょっと声が大きくなってしまう。蜜葉は呼び止められてビクッと跳ね上がった
「蜜葉、話がある…」
「私にはありませんっ。お茶の用意があります!」
近づいて行くと、ジリジリと後ろに下がる蜜葉
「逃げるな」
「こ、来ないで下さい…お願いですから…。
…お願い…」
尚も逃げようとする蜜葉の手を掴む。肩が震え、足に力が入ってない。簡単に引き寄せることができた
「話があると言ったろ」
「…私には…ありません…」
俺に捕まった蜜葉は俯いたまま微動だにせず…心もここにあらずの様だった
「お前…なんか勘違いしてねーか?」
「え…?」
やっと俺の顔を見る蜜葉
堪えてたのか、目にいっぱいの涙が溜まっている
「やっぱりか。早とちりすんなって」
「ど、どういうことでしょうか…?」
コイツ…普段は凄い気が効くし、勘もフーコに並ぶぐらいなのに、自分の事になるとポンコツ過ぎだろ…
「ぬいぐるみの部屋の日記と言えば分かるか?」
「っ?! それってもしや?!」
一瞬驚き、両手で胸を押し俺から逃げ出そうとした蜜葉を優しく抱きしめる
「は、離して!」
ポカポカと背中や横腹を叩く蜜葉
「勝手に見たことは謝る。それと蜜葉、日記の問いに答えよう」
「いや!聞きたくありません!」
コイツ…どうあっても聞くつもりは無い、と?
"チュ"
「?!」
「落ち着けって。別に叱ったりしねーから」
蜜葉のオデコに優しいキスをした
「では…一体どのようなお話でしょう?」
「落ち着いたか? 俺はさっき、答えると言ったよな」
やっと目と目が合った。うん、焦点が合ってる。これなら大丈夫だ
「そうでしたっけ?」
「…どんだけ乱心してんだよ…」
取り乱し過ぎだろ
「俺は蜜葉が大好きだよ」
抱きしめて耳元でささやく。目を見て言ってあげるのが一番なんだろうが…俺が恥ずかしいから、これで勘弁して。
「ふぇ?!」
ビクッとした蜜葉は変な声を出す
「俺は蜜葉が大好きなんだよ。その返事に "ふぇ?" はないだろ…」
クスクスと笑ってしまう
「……ふぇぇぇん…」
「バカ。返事を待ってるのに、泣く奴があるか」
俺の背中に廻ってる腕に力が入る
「だって…だって…」
「あとな。俺のことは名前で呼ぶように…なっ?」
「…いいのですか?」
「敬語も必要ないな。ま、癖付いてるだろうし、なかなか直らんだろうが…」
「いいの?」
「おう。備前家や外は…その辺はお前の立場があるだろうから、そこは仕方ないだろうが。俺たちだけの時はタメ口でいいし、修と呼んでくれ…いや、修がいいな絶対!」
「うん…うん!」
「ありがとお姉ちゃん」
少し冷やかしたら『バカ…』と聞こえた
しばらく背中を撫でてやると、蜜葉は落ち着いた。そして蜜葉は改まって俺を見上げる
「お、お…
「お?」
「…修っ! お願い、もう一度さっきの言葉を言って」
さっきの?はて?? なんだろう?
「蜜葉の髪…いい匂いがするな」
抱きしめてからずっと、修の鼻をくすぐるいい香り。蜜葉の匂いは他の3人と少し違う
「違う! そんなこと一言も言ってないし」
分かってるよ。恥ずかしいから二度は言わね
「…ま、気が向いたらなー」
「修のヘタレ!」
「かもなー」
「さっきもオデコにキスして。そこは私のくちびるでしょ?」
「だよなー」
蜜葉が目を瞑り、くちびるを近づけてくる
「ひゃん?!」
「鼻水?ちょっとしょっぱいな」
蜜葉の鼻をペロリと舐めてキスを回避した
「バカ! 台無しじゃない」
「似合うだろ?」
「かもしれないけど! 雰囲気をちゃんと読めっ」
プクーと膨れる蜜葉
「いや、だってなー…。覗き見されてんのに、やれと言われても出来んでしょ?」
リビングの窓からこちらの様子を探る、3つの顔が見える
「きゃっ?!」
抱きしめる腕に力が入ってなかったので、蜜葉は俺から簡単に離れた
「たっだいまー」
「「ただいま」」
玄関から3人が入ってくる
「……」
「なあ、お前らその台詞おかしいと思わねーの?」
ただいまって、たった今帰って来ましたよ…じゃなかったっけ?
「まあまあ。はいこれ、ケーキ」
「少し大きいサイズにしてみました」
「苺がたくさんです」
手にした箱はズッシリと重い
5人もいるし、少々大きくても大丈夫だろ
「私がカットしますね」
俺から箱を受け取り、ケーキを取り出す蜜葉。
ナイフを持った手が止まる
「…みなさん、ありがとうございます」
ケーキをカットするのに、泣きそうになる蜜葉。気になって俺もケーキをのぞき込んだ
「まったくお前らは…」
泣きそうな姉を3人の妹が見守っている
"ようこそ真凜ちゃん
やったね蜜葉お姉ちゃん"
ケーキの上に、どしっと乗っかる黒い板チョコには、ホワイトチョコでメッセージが書かれていた
…カリカリカリカリ…
*月*日
今日は最高の1日でした
風子、沙織…ありがとう
真凜これからよろしくね
そして愛しい修へ
こんな私を愛してくれてありがとう
みんな、これからもよろしくお願いします
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