第23話 メイドの秘密 〈上〉

"ガチャガチャ"


ん?この扉にもカギがいるのか?

そりゃ部屋の扉だ。カギ付きなのは当たり前か。

「しかしなー、カギ持ってねーぞ」

沙織から手渡されたカギは1つ。

あいつ慌ててたんかな?俺に部屋のカギを渡すの忘れてるじゃないか

困ったな。入れんぞこりゃ…


『なにしてるの?』

「カギがねーんだよ」

『あるじゃない』

「え?! これか?」

『穴が分からないの? それとも突っ込み方忘れたの? …ボクちゃんはチェリーね?』

玄関と部屋が同じカギって、誰が分かるんだ?

ブスリと差し込む


『だからー、いきなり奥に突っ込まないでよ! すっごい痛いの!』

もっと時間をかけてちょうだい!と怒られた


「そんなに時間掛けれるか、どアホ。

   …なあ、このカギって必要あるか?」

防犯上、同じカギは拙くねーか?


『必要ないわよ。様式美ね』

「様式美かー。そっか、雰囲気も仕草も大切だもんなー」

ポイっとカギを棄てる


『なにしてるの?!』

「ん?ああ、ゴミを捨てただけだ。気にしない気にしない」

『カギを早く拾って!』

「…見えてる?」

カメラらしきモノは見当たらない。コイツ、どうやって見ているんだ?


『一応はカギですので、ソレを使わないと玄関も部屋も入れませんよ』

「…チッ。その都度このやり取りをしないとならんのか…」

毎度、毎度、やってられねーよ


『次からは普通ですよ?』

「最初から普通にやろーよ」

『だって初めてだったのですよ? 私の処女はどうでした?』


「…うぜえ」

『酷いっ!このろくでなしっ。あんたの様な男がいるから、女の子がなきを見るの!

…このヤリチンがっ!』


「なんで?」


『う、うわーん。…ちゃんと言ってよね!

     シクシクシクシクシクシク…』

めんどくせー。…しかし、話が進みそうにないから適当に答えとくかー


「綺麗なカギ穴だったから思わず見惚れたよ」

新品だからなー


「奥までって言ったから、ついグッと突っ込んじゃった。ごめんなー」

謝っとこー


「アイの穴に、俺専用キーを突っ込むのが癖になりそう」

面倒臭いから顔認証にならんかね?


『……』


「どした?」

今度はダンマリかテメー


『あっ』

「あ?」

『赤ちゃんできちゃった!』

「そんなわけあるか!」


『冗談よ』

「知ってるよ!」


『お遊びはここまでにして…

   ようこそ、パレス・オサムへ!』


豪華な扉が音も無く開く

その部屋の中には庭があった



「こ、これはすげーな…」

家の中に家があると言えば分かりやすいか。もうすげーとしか、言いようがない


『どうですか?』

「うん。驚いたよ。俺が住むには贅沢過ぎると思っちまうぐらい」

いくら俺の?マンションとはいえ、その中の一部屋って思ってたからなー


庭の真ん中が少し下がった所にある。階段が所々あるのが見えた


「これって下の階も?」

『そうですよ。入り口は10階ですけど、4層ぶち抜いてますから』

「…建築法大丈夫か?」

『知りませんね。備前に喧嘩を売る連中がいるとも思えません』


「そりゃそーだろーけどよ」

『備前と敵対すれば、もれなく御前本家が出てきますから…死ねますね』

「だろうな…」

敵なんぞいるはずがねーわ


『さあキング! 部屋にどーぞ』

「キングってお前な…」

『アイとお呼びください』

「分かった、分かった。こっから見える…あのかわいい扉が入り口なんだな?」

『ですよ。みなさんとキングのアイの巣ですね』

「…上手いこと言うね」

『恐縮です』


〜〜〜


「これまた豪華過ぎんだろ…」

玄関と呼ばれるスペースに暖炉がある。そして靴を脱いで一段高い所には、ツルツルの石が使われている。これは大理石というやつか?


『ただの玄関ですよ』

「アイからすればそーかもしれんが…」

フーコは適応するな。しかし真凜は俺と同じ反応するだろう。ちょっと楽しみだ


「なー。リビングに行きたいんだけど…どの扉?」

みんなを待つのはリビングが良いだろう。が、扉が3つもある。どれがそうなんだ?


『真ん中の扉がそうですね』

「真ん中ね。ちなみにあと2つは?」

『隠し部…もとい、蜜葉様専用の部屋と、トイレですね』

トイレか。いちいち玄関経由は面倒だと思うが、女性はこっちの方が良いかもしれない。俺がいるから恥ずかしいだろうと思うし、気が利いてるな


…蜜葉のヤツは俺の目の前でもするかもしれんが。


「で、蜜葉の隠し部屋ってゆーのは?」

『私、そんなこと言いました?』

「言ったな」

『おかしいな?』

「おかしいのはお前の頭だろ? こんなに堂々としてる隠し部屋ってゆーのも…

…あれ?開かねえぞ」


ガチャガチャと取手を回すがカギが掛かっていた

隠さない隠し部屋でも、ロックはするよなやっぱり。


『実は引き戸なんです』

「……」

横に動かすとガラガラと扉がスライドした


「隠し部屋でもなんでもねーぞ、コレ。」


一歩足を踏み入れる。トラップは…ない


進んで行くと階段があったので、とりあえず下りてみた


「メイドのお部屋?」

ヌイグルミでデコレーションされたピンク色の扉の前に着く。その扉にはメイドのお部屋と書いてあった


『私、知りませんよ?』


「知らなくていい。嫌な予感がするし、主人(あるじ)としてはチェックを入れないといかんだろ」

あいつの事だ。嫌な予感を通り越して、悪い事しか思い浮かばん。


…カギ穴ねーのに開かないな

また引き戸か?と思ったりして、いろいろやってみたが開かなかった


『蜜葉様専用ですから当然開きませんよ。私の許可があれば別ですが』


「じゃ、許可をくれ」

『本当に?』

「当たり前だ。"やめる" という選択肢はねーぞ」

説教は確定。内容次第では説教の度合いも変えにゃならんな


『分かりました。キングを許可します。

   …私は知りませんからね?』

「はいはいっ、と。 お?開いたな」

許可が降りた瞬間、扉が開く

さて、何をアイツはやらかしてるのやら…



〜〜〜


「思った通り…じゃなかったな」

S夫とM子がはしゃげる部屋ではなかったし、卑猥なオモチャや違法なモノも見当たらなかった。

部屋の奥、壁際には俺に似せたマネキンが服を着て立っている。…ん?これは無くしたと思っていたトランクスかっ?!


「…よく見たら、ちょいちょい俺の持ち物があんな」


帽子や靴、こっちには歯ブラシ…

このビニール袋に入っているティシュの塊はもしや?

…深く考えるのはやめとこう


「思い過ごしか?」


俺の裸の写真がポスターサイズになっていたり、俺の持ち物がパクられて保存されている以外は至って普通。

クローゼットには、いつ着るのか分からないメイド服が並んでいる。

…メイド服と呼ぶには卑猥過ぎて、別の服と言ってもいいのだろうが。


「この引き出しには…っと」


クローゼットの中、備え付けの引き出しを開けると、いろいろな下着が綺麗に収められていた

「下着に紛れて紐?」

まさかこれも下着なんか?


『そろそろやめにしませんか?』

「そうだな…。思ったより全然普通だったわ」


蜜葉はいつもあのような振る舞いをして俺を困らせているが、ああ見えて彼女も大人だ。邪推で疑ってしまった俺を許せ


「アイツらが来る前にリビングに…」


摘発作業じゃ気にも留めてなかったが、机の上に広げられたノートがあった


「日記…か?」

手にとってみる


『そ、それは?! ダメですキング!今すぐ机に戻してくださいっ』


アイが突然慌て出した。こんなに慌てるとは、よほど拙い内容が書いてあるのか?


「人の日記を黙って見る趣味はないんだが」

俺は日記に目を通した


◇◇◇


*月*日


今日、1人の男が備前に喧嘩を売った。多少腕に自信があるようだが、どうせ殺される。


*月*日


思ったよりやるようだ。

正義と黒服共が血祭りにあげられた

とはいえあの連中程度、瞬殺出来ない腕じゃ備前に喧嘩を売ってこれないわ


*月*日


訂正。

強さを上方修正。玄武も何人かやられたみたい

…私が出る日が来るのだろうか?

少しだけ楽しみ


*月*日


戦闘になることはなかった。だから私は手合わせを願い出た

まさかあれほどの男だとは…

胸につけられたキズは彼との絆。

私が倒れる時、抱き留められた感触が今でも鮮明にある


*月*日


備前に彼がやって来た

元就様をはじめ、伽耶様も…それに私の主人の宗元様ですら彼を気に入ってるみたい

彼を見る沙織様の様子がおかしい。


*月*日


沙織様が風子という女と争いを起こされた

どうやら彼を巡ってのことみたい

私も出来ることなら…。 無理ね…


*月*日


あれほど争われたのが嘘のように風子という女と仲良くなられた。

まるで姉妹ね

沙織様が彼に想いを伝えたとのこと

…羨ましい


*月*日

(やった!) 今日は記念日ね❤︎

*月*日

……

*月*日


今日、マスターと風子様がおいでになられた。私は修様をサポートするように宗元様より命を戴く

今までマスターとお呼びしてたから、今更、修様とお呼びするのは恥ずかしいな


私は沙織様や風子様が羨ましい


*月*日


風子様を筆頭に、沙織様と私でマスターと…。

気が緩んで名前をつい呼びそうになる…

気をつけなければ。マスターは私の主人だ。

だけど…


*月*日


今日、新しく妹ができた

真凜ちゃん、ちっちゃくて可愛い

マスターも気に入ってられるみたい


…私はマスターからどのように思われているのだろう


*月*日


近々、皆さまと一緒のお部屋に住むことになる。

凄い楽しみ。早くその日が来ないかな


…私はどう接すれば良いのだろう。

お姉さん的に振る舞うのが良いのでしょうか? それとも今までの様にメイドとして?


あの方は、どの様な私なら気に入ってくださるかしら?


愛おしい修に嫌われてしまうのが怖い!



◇◇◇


日記はここで終わっている


「そうか…」


書きかけのページを開いてそっと机に戻す


『キング…。お願いですから蜜葉様を責めないでください』


責める? ああ、この部屋のことか。


「責めるつもりはない。いや、責められるべきは俺…だ」

蜜葉を、いや他の奴らもだが…今の関係があまりにも自然に出来上がってしまったから。

しまったから、蜜葉の気持ちを察してやれんかった。

そう思うのは…言い訳だな


「なあ、俺はどうすればいいのかな?」

『キング、それは自分でお決め下さい』

「なかなか厳しいなアイは」

『あら。愛は厳しいものですよ?』


「…くっ、はははっ! 確かにそうだな。簡単じゃなくて当たり前か」


そう、簡単じゃない。簡単じゃなくて当然なんだ…

よし決めた。前から思っていたことを蜜葉に伝えよう


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