第17話 ミノルの治療

「なんで俺まで…」


俺は今、警察署の玄関先で正座をしている。

だが、正座をしているのは俺だけではない。

白タイツのオヤジも月光世代のおっさん達も皆んな仲良く正座を…

…いや訂正。白タイツの隣、豚だけがM字開脚を披露してるな


「村田さん、私たちはミノルさんの釈放とデブの引き渡しに来たんですよね?」

里美さんが両手を腰にやり、鋭い目つきで言った


「おうそうだ。…忘れ

「忘れてたとか言わないですよね?」

「……」

黙ったオヤジ。忘れとったんか!


「おじさん達も良い歳してはしゃがないで下さい」

「「「…すみません…」」」

凄えな。警察官のトップの方々に説教してるぜ


「修さん!ニヤニヤしないっ」

「しておりません!」

突然俺に振るなよ…。感心してただけなんだから


「アンタもいつまでそんな卑猥な体勢でいるのよ! ふざけてんの?」

「ブヒィ…。自分じゃ解けないんだぁ…」

そりゃそうだ。それにオヤジが固結びしたから、まず自分で解くのは無理だな


"バシッ"


「ブヒ?!」

「口答えしないっ」

…豚には容赦ないな。まあ、恨みもあるだろうし、そうだよな


「…里美さん、ミノルは?」

豚を夢中?でバシバシ叩く里美さんに尋ねた

「は?! …そうでした」

忘れていたようだ


「ミノルさんを今すぐ釈放してください」

思い出した里美さんが言う。顔が赤い。忘れていた事を恥じているのだろうか


「それは当たり前…冤罪だったから当然なんだが…」

おっさんの1人が目を逸らしながら話す

「だが…どうしました?」

続きを早く話しなさいと言わんばかりに里美さんがアゴをしゃくる


「そのミノル君だが、病んでしまったんだよ。…いや、直接会ってもらう方が早いか」


病んだ?ミノルのヤツが?

「はっはっは。な馬鹿な。アイツは元々病んどるぞ」

ひでーなオヤジ

確かにまともじゃなかったが…


「いや、村田。そういう病んどる…じゃねーんだ、アレは。」

おっさんがオヤジに首を振る

「オヤジ、里美さん。ミノルに面会…じゃなかった、会いに行こう」

ま、冤罪でオヤジに喝を入れられた上、警察署にお泊り…頭が更におかしくなっても仕方ねーか

「そうだな」

「ですね」

そうと決まればすぐ行こう


「すみません。ミノルがいる所に案内お願いします」

病んでる?ミノルをさっさと連れて帰ろう




〜〜〜




「……このザマだ」


「「「……」」」


…これはまた…予想を遥かに超えてたな…

俺たちは揃って言葉が出なかった


「朋子の肌スベスベ〜。ヒンヤリとして気持ちいいよ〜」

お巡りさんが気を利かせて履かせたであろうブリーフ。ブリーフ一丁で、人形に抱きつき…イヤらしい手つきで身体中を撫で回すミノル


「おい、ミノル! …それ、朋子ちゃんじゃなくピーポー君だぞ?」

ダメだ!ピーポー君のお股に、突起物が無いから気付かないのか!


「ミノルの野郎、人形の股ばっかり触ってないか?」

「言うなオヤジ!ソレは言ってはいけない」

「…そうか」

気付かないふりをしてやるのも年上の気遣いだ


「…朋子さんて…どなたですか?」

里美さんがミノルの醜態より、朋子という名前に喰いついた


「えーと…彼女…でしょうかね、オヤジ?」

「オサム、俺に振るんじゃない!」

だって里美さん、怖いんだもん


「彼女…彼女ですか?…へえー」

納得したような台詞だが、コメカミがピクピク動く


全然納得してねーじゃん!


「朋子さんだが…彼女に連絡した結果、こうなった」

「「?!」」

「……」

どういうことだ?


「何故です?」

里美さんが代表して聞いた


「下着を奪って外に出る馬鹿は知らない!…だそうだ」

「「下着?」」


「朋子さんの下着らしいが…。ミノルは所轄の警官に現行犯で逮捕された時、下着なんか所持していなかったという事だが…所持品をココへ」

「はい。お持ちします」

おっさん警官が、若い警官に指示を出した

……

「こちらですね」

警官が差し出してきた。…なんと小さな箱だろうか。この中にミノルの所持品が?

開けた箱をみんなが集まって覗き込んだ


「…アイスの袋?だけ??」

「そうだ。しかも股間にだ」

「早乙女、袋を被せたのは俺だ」

「オヤジかよ!」

「村田かよ!」

……

「で、いろいろ重なって朋子ちゃん激怒した…と」

「重なり過ぎだろ」

「そしてこの状況か…」

「ブヒィ…不憫だぁ」


?!


「なぜココにお前がいる!おい、コイツを連れて行けっ」

「はっ!」

「ブヒィー」

警官に挟まれて連れて行かれる豚

…まさにドナドナだな。行き先はオリの中だが


「ミノルさんかわいそうです…」

里美さんだけがミノルを擁護する

「自爆だろ?」

「そうだ。ミノルが紛らわしいからイカンのだ」

「でも!私にとっては恩人ですっ」

里美さんはミノルがいなければ、とんでもない事になっていたらしい


「でもなぁ。里美さん、ミノルのヤツこんなんなっちまって…

「私が何とかしますっ!」

…何とかって言ってもな。ピーポー君を後ろから腰振ってるヤツだぞ?


「今はそっとしといた…

「大丈夫です!」

そう言うと里美さんはミノルに近づいて行く


「ほら、私が分かりますか?」

ギュッとミノルを抱きしめる里美

「……」

「ミノルさん、あなたのおかげで私、助かったんです。今度は私が…」

更にギュッとミノルを抱きしめる里美。目からは涙が溢れていた


「…朋子、太った?」

ミノルの後ろ頭に里美のおっぱいが当たっている

…まさかこの馬鹿、朋子ちゃんと勘違いしてねーか?

「朋子さんじゃありません!里美ですっ」

間違えられたことに怒り気味の里美


「はっ?! …コレはおっぱいか。いや、まて…おっぱいの大きさが違う! キミは朋子じゃないっスね?」

「そうです。私は里美です」

「やっぱり! 朋子はこんなにデカくないっス。貧乳朋子じゃ有り得ない程、手にあまるッス!」

モミモミと里美のおっぱいを揉むミノル

…お前、朋子ちゃんが知ったら殺されんぞ?


「ちょっとミノルさんっ、そこダメぇー」

「このポチっとあるのはボタンっスね」

「ちが…あぁんっ」

ボタンじゃないことぐらい分かるはずなのに、ボタンと言い張りピンポイントでコネコネする馬鹿野郎


「「「……」」」

「お前なあ、ココはラブホじゃねーんだぞ?」

お偉い警官たちも若い警官たちも唖然としている


「まあ待て。これはミノルの治療だ」

「オヤジ…笑ってないか?」

何が治療だよ。楽しんでんじゃん…


「そういえば…頬の腫れ、治ったっスか?」

腫れ?元々、里美さん腫れてなかったぞ?


「風子さんがコレを塗ったら治るってクリーム?を塗ってくれました。そしたら本当に治ったんです!凄いですよ、前よりも肌がキレイになりました」

かなり興奮している。女性なら、キレイになることは嬉しいのだろう


「フーコ?オヤジ、フーコを呼んだんか?」

「ああ。病院には行きたがらなかったし、同じ女性なら…と、思ってな」

オヤジの言いたいことは分かるが…

「病院はともかく、警察は?」

「呼んだぞ。聴取の後の話だ。あの時はミノルがやらかしたと思っていたから、出来るだけ穏便にとな」

「あー、そうだな。オヤジが正解だ」

オヤジと会話をしながら警察署内でイチャつく2人を眺める


「クリーム、口に入っちゃって。変な匂いと味でした」

「風子さん…いや、備前絡みなら特別なクリームっス!」

…待てい!今なんと?


「里美さん、クリームって?」

聞き間違いだろ。きっと、、たぶん


「風子さんが塗ってくれたクリームですか?私も最初は信じてなくて…

「そこじゃなくて、口に〜何とかから」


「風子さんがペタペタ塗ってくれたのですが、口に入ってしまって。風子さんは別に毒じゃないから大丈夫って言ってたんですけど、とても生?青?臭かったんですよね」

「……」

「それがどうかしました?」

「うん。なんでもない。気にしないでね」

…アイツ何をしてくれとんのじゃ!


「今まで経験した事の無い、匂いと味でしたね」

「あっそう」

よかったねーミノル。里美さん処女だってさー


「ミノルさん!」

「いきなりどしたっスか里美?」

「朋子さんと別れてフリーなら、私と結婚を前提に付き合って下さい」

おおっ!里美さん、肉食女子か?!


「うーん。いいっスよ」

簡単に返事をした馬鹿

「ミノル待て!お前、それは後で拙い事になるぞ」

「修さんは黙ってて下さいっ」

「先輩、今時はスマホも乗り換える時代なんスよ? シンプルなスマホより、ゴージャスなスマホっス!」

馬鹿がスマホを例えにして言いやがった


「正気かお前?」

「ミノルさん、私のボディーはどうですかぁ?」

「5Gっス!」

「やったぁ」

「……」

知らんぞ。後から泣き付いて来ても絶対知らん




ミノルと里美のこの出会いが、後々大変な事になるのだが

まだ誰も知らない

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