第15話 冤罪?
「「「おはようございますっ」」」
「おはようさん」
会社に行くと案の定、バカがいなかった
「修さん、ミノルくん遅刻ですか?」
「ミノルさんが遅刻って珍しいですね」
ミノルは意外にも朝が早いのだ。本人が言うには『弁当を作るから早く起きてるっス』なんだと。
なのでいつもより遅い、いや始業が始まる時間にいなければ、皆は『何事か?!』と思うだろう
「修くん、ミノルのヤツ寝坊?」
髪を後ろに束ねた先輩が来た
「あ、おはよう鉄っさん(てっさん)。ミノルは…」
なんて言ったらいいだろう…
「鉄っさん、ジャパンテレビ観た?」
観てたら話が早いか
「ごめん。今日はコンビニで、朝メシ買って食べたから観てないや…」
鉄っさんは『観てたらどーなの?』と言う
「みんなニュース観てないのか…。いや、今日に限っては観なくて正解だったかも」
出来れば俺も観たくはなかったな
「ニュースは観てるけど、ジャパンテレビじゃないですね」
「朝はそんな余裕ありません」
「ですね」
「で、相談役。ジャパンテレビのニュースがどうかしたのですか?」
「…そうだな。思いっきりどうかしたなぁ…」
窓から空を見上げる。
ちっこい会社から、ヒーローと犯罪者を出してしまった…
「ミノルは今日来ねーぞ」
俺がなんて言おうか考えていたら、オヤジがヌッと現れた
「「「おはようございますっ!」」」
「おうっ!」
右手をあげながら、皆に応えるオヤジ
「おはようオヤジ。ミノルのヤツはやっぱり?」
大体予想はつくが聞いてみる
「ああ。GOTOトラベルに行ったぞ」
「「「旅行?!」」」
「いや、ちがっ…う」
否定しようとしたが、途中でやめた
確かに旅行といえば旅行か?
「ミノルさん、昨日は何も言ってなかったよな」
「思い立ったにしても…早すぎだろ」
「ミノルくん、黙って行くように見えるか?
1週間ぐらい前からはしゃぐって、絶対!」
「「だよなぁ」」
皆が鉄っさんの言葉に相槌をうった
…アイツは昨夜、はしゃいだんだがなー
「今日、いや…今週いっぱいミノル抜きでやるぞ」
オヤジが皆を見ながら言った
「「分かりましたっ」」
「今週いっぱいで出れるんか?」
疑問を口にした
「なあに。あの野郎も初犯だ。すぐ出れんだろ」
「常習犯だったら付き合いを考えるな」
「「「??」」」
オヤジと俺の会話について来れない面々
「とりあえず中に入れや。準備もせにゃならんが、立ち話もなんだ」
オヤジが『そろそろ仕事だよ?』と言った
「「「はい!」」」
「あの埋まったコンクリ、俺が直すんかー」
ミノル、貸し1つだな
オヤジがシャッターを開けて、皆が入ろうとすると
「あのっ、すみません…」
若い女性が話しかけて来た
若いといっても俺と同じくらいか?
「はい。どうされました?」
丁寧な対応をとる。決してキレイな女性だからという訳ではないぞ
「この辺りで事件がありました…よね?」
少し躊躇いながらも女性は事件の事に触れた
「…あったと言えばあったか」
きっと月光仮面絡みのヤツだな
「それがどうかされました?」
「その…私…。被害者なんです…」
被害者? 何のことだ?
「被害者、とゆーより加害者のバカは知ってますが…。あなたも被害者ですか?」
やらかしたバカは加害者だが、あの放送ではむしろ被害者だなミノル…
「えっ?! あの男を知ってるんですか?」
女性は俺に詰めよって来た
「知ってるよ。よーく知ってる。糞バカですよアイツはね」
「…なんであんな奴が生きてるのか…私、悔しくて…」
「分かります。社会人として恥ずかしい奴ですよアイツは」
「ストーカーするとか信じられませんっ!」
「ストーカー? あのバカそんな事まで…。
全国ニュースでフルチンの罰ぐらいじゃ、軽すぎだったか!」
「えっ?!」
「えっ?」
女性が『どなたかと勘違いしてません?』と首を傾げる
「フル…ごほんっ。 アソコが放送されたあの人は、私の恩人ですよ」
赤くなった顔で話す
「?! どーゆーことですか?」
放送ではオヤジとミノルの格闘?シーンと、数名の野次馬がチラッと映ってたが…
野次馬の中には女性はいなかったよーな
「ああ、君はあの時の女性か」
今まで黙っていたオヤジが口を開く
「あなたは?」
女性はオヤジを見て『ヤクザな方は…』と首を傾げる
「コートを貸した者だ」
「?! あ、あの白タイツの方でしたかっ」
女性は慌ててペコっとお辞儀した
「月光仮面だ」
「…?」
ドヤ顔でオヤジが言うも、彼女はきょとんとしている
「月光仮面だ」
「???」
オヤジは『聞き逃した?仕方ないなー、もう一度言うよ?』と再度言ったが、彼女は『何言ってんの?』な顔をしたからムキになった
「ゲッ・コ・ウ・か
「オヤジ待った! 月光仮面を知らないんじゃないか?」
知らないのも無理はない。世代が違うし、知ってる俺の方が珍しい
「し、知らんだと…」
オヤジがうな垂れた
「しょうがないって。えーと、キミは…」
名前を知らないから続くはずの言葉が止まる
「あっ、すみません。申し遅れました、私は里美といいます」
ペコっと可愛らしくてお辞儀する里美さん
「どうも、里美さん。俺は修です。で、こっちの
「月光か
「オヤジ、月光タイム終了だよ。まず今、夜じゃないし、なにより素顔を晒してるんだ…月光仮面はないだろ」
「むう。確かにオサムの言う通りか。お嬢さん、俺は村田だ。よろしく」
恐い顔のオヤジがニヤリと笑い、右手を出した
「コレ、ありがとうございました」
握手したのち、紙袋をオヤジに渡す里美さん
「コートか?」
「はい! おかげで助かりました」
ニッコリ微笑む
「コート? この夏場に??」
今の時期コートはないだろ?と思いつつ、オヤジに目をやると
「オサム…」
オヤジが顎で入ってろと語る。皆も静かにしているが、興味津々で2人を見ていた
「はいはい。みんな事務所に入るぞ。鉄っさんもダメ。行くよ、ほらほらっ!」
鉄っさんは『えー?! 気になるじゃん』と言いながらも、オヤジにひと睨みされ渋々入っていった
「でだ、里美さんと言ったか…ミノルのヤツが恩人とはどういうことかな?」
「…はい。実はですね…
〜〜〜
「じゃ、今日は鉄っさんに指示をもらうように。俺は例の穴埋めを…はぁ…」
「「「分かりました」」」
「わからん事は聞いてね? オサム君みたいにキチンと答えられないかもだけど」
朝礼をサクッと終わらせて、トラックにそれぞれが乗り込んだ
「オサム、ちょっとお前は待て」
里美さんと倉庫兼車庫に入って来たオヤジが、俺を止めた
「どうしたオヤジ?」
「ああ…。ちょっと…な」
歯切れの悪いオヤジ。こんなオヤジはあまり見たことがない
「ごめんみんな。先に行ってて」
車を降りてオヤジの方に行く
「「じゃ、お先に!」」
「あいよっ」
三台連なって、出て行くトラックを手をあげて見送った
「何事? まさか参考人聴取とか…?」
「いや…そうじゃねえ。ミノルなんだがな、どうやらあの野郎…冤罪みてーなんだ」
「は?! ちょっとオヤジ、今なんて??」
耳垢が溜まってるのか、聞こえが悪かったみたいだ
「冤罪だとよ。加害者…ストーカーだな、他のヤツだとよ」
「それじゃあミノルは?」
「正真正銘のヒーローです。ちょっと見た目がアレでしたけど…」
里美さんがミノルをヒーローと言った。…なら本当に冤罪なのか
「だからな、ポリ署にいるアイツを出さなきゃならん」
「一刻も早くお願いしますっ。私もお礼が言いたいので」
2人はそう言うが、どうやって…
「里美さん、加害者は別にいるとしても捕まってないんじゃあ…」
「オサム、それは大丈夫だ」
「何が大丈夫だよオヤジ?」
真犯人を見つけないと簡単には釈放されんぞ
「吊るしたからな」
「?! つ、吊るした?」
「おう。俺のバイクにちょっかい出そうとしてたデブがいてな。たぶんソイツが犯人だ」
オヤジは『俺のハーレーに何してんのじゃワレ!』と切れたらしい
「そうなんですか?」
里美さんに尋ねる
「犯人です。でも…」
「でも?」
「ちょっかい出そうとしてたんじゃなくて、轢かれたー
「ごっほん! まあ…細かいことは気にするな」
別件でオヤジが加害者かよっ!
「オサム、サングラスはな…夜に着けるもんじゃねーぞ」
「知ってるよ!」
「…そうか」
オヤジは『しょうがないじゃん?月光ってそういうスタイルなんだし』と拗ねた
「拗ねるなよオヤジ。その吊るしたとこに連れてってくれ」
「村田さん、行きますよっ」
しゃがんでボルトとナットをくっ付けている、いじけたオヤジを里美さんが立ち上がらせた
「よーし、俺のハーレー
「3ケツは無理だろ」
「ここから近いですよね」
「……」
「ほらっ、くっ付けて遊ばない!」
「里美さんってすげーな…」
見た目893のオヤジによく言えるなあ…と感心した
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