第14話 ジャパンテレビ

「お前らな、狭い俺ん家に集まるんじゃねーよ」

修は胡座で丸テーブルにつく


「それに…壁が薄いんだ。も少し静かに出来んのか?」

トーストをかじる2人に目をやる


「なに? …モグモグ…」

「1番騒いでたのは修様ですわ」

「……」

何も言い返せなかった


「そうだけど。そうだけどよ? ほら、俺だって何も無かったら騒がんて」

『ナニごとかあったから騒いだの!』と漸く反論する


「マスター、コーヒーをどうぞ」

スッと目の前に蜜葉が差し出した

「あ、すまん」

コーヒーを一口すする。うん美味い


「たく、近所からクレームが来たらどうすんだよ」

「え?もう時期引っ越しじゃない」

「まぁ…そうだな」

違う。コイツ等に何て言ったら分かってくれるのか…


「蜜葉テレビつけて」

「はい。沙織様」

まるで自分の家の様に3人が振舞う。凄く自然だ

「別にいいんだけどよ…」

修は少し拗ねていた


「どの局にします?」

リモコンを手にした蜜葉が皆に問う

「「ジャパンテレビ」」

「そうだなー。そこでいいよ」

ジャパンテレビ…局の方針でいろいろと問題を起こしている。もちろん視聴者からすれば、良い方の問題だ

報道はバンバン踏み込んで、議員にさえ物怖じしない。事件では被害者に優しく、加害者には死にたくなるぐらいの追及する。

事故や災害も被災者には親身になって対応するらしい。もっとも現地に取材に行ったリポーターのことだろうが。


『次のニュースいくよっ』


メインキャスターの "みの モン吉" さんが、女性キャスターに振る

モン吉さんかー。この人ちょいちょいセクハラ発言すっからなあ…

悪い人じゃないのは分かる。昭和生まれの人特有の…まあ、アレだ。



『はい。今日からGO TO キャンペーンが始まりますが、皆さん対策大丈夫ですか?

そこで今日は、旅行先での対策を…


『アヤちゃん、ちょっと待って! 割り込みニュース入ったよ』

と、モン吉さんが待ったをかけた


割り込みニュース。ジャパンテレビにはよくあることだ。他の局は打ち合わせ通りに進行していくのだろうが、ここは優先度具合で順序やその内容に費やす時間が変わる。

視聴者にとっては、ありがたい事だ


♪♪どーこーのー誰か……♪♪♪


「ん?」

BGMがあの主題歌だ


☆お手柄!月光仮面☆

字幕が出た


「ぶはっ?!」

コーヒーを吹き出してしまった。まさか、いや、オヤジで間違いないな…

本当にヒーローになったんかよ


『アヤちゃん、凄いよ!月光仮面だよっ』

モン吉さんが興奮する

『月光仮面ですかぁ?』

アヤちゃんは世代じゃないから知らない。キョトンとしてモニターを見ていた


『月光仮面が敵を倒す瞬間? …写真が手に入ったの?! マジで? では皆さんご覧下さい!』

モン吉さんがひどく興奮して、中央の巨大モニターに視線を向ける

TVカメラもモニターをズームした


『『……』』


裸の変態にロメロスペシャルを掛けている月光仮面の写真が映し出されている

もっとも、大事な所にはモザイクが入っているが。


「…こりゃマジでヒーローじゃねーか、オヤジ…」

「社長さん、やるねー」

「これは月光仮面さんの必殺技ですか?」

「違います沙織様」

おそらく野次馬の誰かが、スマホで撮ったのだろうが…

正面から見事なアングルで2人を写している


『こ、コレは…どうコメントしていいか…』

アヤちゃんは言葉を迷っている

『月光仮面の勇姿だよ! 見たまんまを言ったらいいんだよ!』

モン吉さんは月光世代。しかも堂々とセクハラ出来るとあって、テンションが上がりまくっている


『そ、そんなぁ…』

泣きそうになるアヤちゃん

『ほらほら早くっ。視聴者を待たせないの!』

モン吉がアヤを急かす


『えっと、えっと…変態さんが下から持ち上げられてますね?』

『それだけー?アヤちゃん、描写をちゃんと言葉で表現しないとダメだよ』

モン吉は厳しかった

顔はニヤニヤしているが。


『それと。それとー…

『ちょっと、ちょっと!溜めてもダメだよ…えっ?!』

モン吉が更にダメ出ししようとする時、カンペが出た


『マジ?! マジで?!』

モン吉は興奮度MAXになっている

カメラが上下に振れる

『本当に動画あんの?』

カメラが上下に振れる

そしてスタッフからモン吉に、1枚の紙が手渡された


『何? …マジかっ?!』

『どうされましたか?』

アヤちゃんは難を逃れて、ややホッとしてい

『アヤちゃん、今から流す動画を撮った英雄さん、"一樹" っていう方なんだけどね…

チューチューブに投稿する動画を探してた所、偶々出会して撮ったんだって』

渡されたメモを読むモン吉


『偶々ですか? 凄い確率ですねソレ』

探してもなかなか撮れるものではない。アヤは少し感心した


『モザイク処理もちゃんとしてるって。凄いよね "一樹さん" 。…じゃ、いってみよう!』

モン吉は再度モニターに視線を向けた



〜〜〜


「…月光パンチ!」

月光仮面はセリフと異なり蹴りを放つ


「パンチと言って、蹴るなんて卑怯っス!」

ガードを胸と腹に集中させていた変態は、顔の右側面に蹴りをもらい…地面に沈んだ


「貴様、これで終わったと思っとるな?」

月光仮面のセリフに変態がビクっとした


月光仮面はうつ伏せの変態の両足を自分の両足に絡ませて、更に両腕を掴んだ


「月光スペシャル!」


掛け声と共に月光仮面が後ろに倒れる

掛け手は巴投げの要領か

グルンと遠心力で、うつ伏せの変態が宙に吊るされる

残念なことに、その過程でアイスの袋が落ちた

モザイクは一呼吸置いて股間に入る。一瞬?いや、それなりにバッチリ見えた。…わざと感満載だ


「ぎゃぁぁぁっス! ギブアップっス、オヤジ!」

変態の悲鳴があがった

技が完璧に決まり、ピクリと動けない。

なのに…何故か、スマホがちょいちょい左右に動く。それにモザイクがワンテンポ遅れている


悪意がそこにはあった



『えー、"一樹様" の動画ですが、素人レベルにしては編集もきちんとされて良かったと思います。

視聴者の奴らも、多少のモザイクのズレは仕方ないと思っている事でしょう。

いいかテメーら、いちいちクレームにすんじゃねーぞ? お前ら文句しか言えねーのかよっ。ヒーローと英雄の合作だぞ、コレはな!

…たまには褒めろっつーんだ!』

モン吉が視聴者に釘をさした


『…で、アヤちゃん。どうだったかな?』

先ほどの激アツの時と打って代わり、ニヤニヤが止まらないモン吉


『へっ?!』

放心状態のアヤ

『へっ? じゃないでしょ! 今の動画を観て、胸が熱くなったとか…お股が濡れたとか…何とか言えないのっ?』

モン吉が『コレはセクハラじゃないよ?キャスターならちゃんと報道しないといけないの!』とアヤを責める


『ふぇぇ…。…凄かったとしか…』

またしても泣きそうになるアヤ


『ね、何が凄かったの? ナニ?』

更に追及するモン吉。気分は刑事だ


『そんなぁ…ふぇぇぇん…』

遂に泣き出したアヤ


『たく、近ごろの娘ときたら…泣いたら許されると思って! プロ意識無いんじゃないの?』

モン吉がやれやれと首を振る


『そんな事ありません!』

アヤは「プロ意識無いんじゃないの」に反論した


『へー。そう。 そういえば変態から袋が落ちたよね?中身は何だったのかなぁ?』

モン吉は「プロ意識あるなら言ってごらんよ」とアヤを刺激した


『そ、それは…』

言葉が続いて出て来ないアヤ

『なんだ。結局口だけですかー』

モン吉は煽った


『くっ! …ち、チンコですっ!』

モン吉をひと睨みして、覚悟を決めたアヤは大声で叫んだ


『は? クリームチョコモナカでしょ。袋に書いてあったじゃない。あー、アヤちゃんはカタカナ読めないのか…なら仕方ないよねー』

モン吉はしてやったり顔で、カメラ目線で話した


『うわぁぁぁん!モン吉さんのあほーっ!』

号泣したアヤ

『まったく、最近の小娘はすぐエッチな事を…

★★★★★しばらくお待ち下さい★★★★★


画面がお花畑になった



「「「……」」」

「相変わらずモン吉さん、ヒデーな」

とはいえ、おそらく視聴率は凄いだろう

最後のアヤちゃんの叫ぶ所は、もしかしたら過去最高の数字を叩き出すかもしれない


「変態はミノルくんだったかー」

「あの人、あんな性癖があったのですね…」

「皆さま、ミノルとやらは女性の敵です。関わり持たぬ様に」

当然の反応か。


「今日はミノル休みだなー」

社会人として無断欠勤ってどーなんよ?

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