第13話 ミノル物語
「はぁ、はぁ、はぁ…ここまで来れば」
私は公園の茂みに身を隠した
藪蚊が私を刺す。しかし動く訳にはいかない
(ここまで来れば、アイツも追ってこないわよね…?)
今日は仕事終わりが遅かった。いつもであれば、日が沈む頃には家に帰っている
彼女の仕事は、結婚式場のホールマネージャー。その彼女の友達が自分の職場で結婚式をあげるのだ。打ち合わせは通常、彼女の担当ではない。だが、彼女は友達の為にかってでた。だから帰宅が遅くなってしまったのだ
(アイツ、どこかで見たことある…。
?! そうだ! 前の披露宴でコーヒーを溢した客だっ)
彼女は記憶を辿る
新郎新婦、ご両家の方々以外はあまり覚えていないが、この男は記憶に残っていた
(気持ちの悪い客だったわ。そう、だからコーヒーを溢してもスタッフが向わなかったんだった。それで私が対応して……でも…なんで?)
自分がストーカーされるなんて…信じられなかった
おしぼりを渡し、少しばかり気遣っただけ。ただそれだけだ
「ムフーっ! 里美、みいつけたぁ」
「ひっ?!」
茂みから前を注視していたので、それ以外の方向は注意散漫になってしまった
恐る恐る背後を振り返る。デブの男がブリーフ一丁で立っていた
腰にポーチをしているが…服にはカウントされない
「あ、あんた服は?!」
路上で追っかけられている時は服を着ていたはずだ
「あ、暑いから脱いだよ。それに丁度よかったしねえ」
ブリーフ一丁でも暑いのだろう。しきりに額を手のひらで拭う
「…丁度よかった?」
里美は疑問を口にした
「ああ。そうだよぅ。人気もないしココで子供を作ろう」
デブが、ブリーフの一部を膨張させながら里美に近づく
「いやっ! 来ないで!!」
しゃがんでいた里美は立ち上がろうとするが、腰が抜けて立てない。言葉で抵抗するのがやっとだった
「来ないではないだろぅ。ボクは旦那様だよぅ?」
ハァハァと息が荒くなっていく
そして、遂にデブは里美の身体に触れた
「キャァァー! 助けてぇー!!」
〜〜〜
「ヒーローって気持ちがいいっスね」
チャリンコを漕ぎながら、先程のことを思い出す
「俺、不良たちを撃退したっス。おじさんも助けたし…。もしかしたら、もー警察署で接待受けれるっスね」
断じて接待はない。現在、宿泊は可能であるが。
「んー。夜の公園…。 悪の臭いがプンプンするっス」
ミノルの目の前に公園の入り口が見えた
昼間は人の出入りや、遊具で遊ぶ親子がそれなりにいる。しかしこの公園は、夜になると全く人の気配がない
ミノルのヒーロー嗅覚が、そんな夜の公園を臭いとふむ
「ま、入ったら分かるっスね」
ミノルはチャリンコを降りて公園の中に入ろうとした
『キャァァー! 助けてぇー!!』
?!
「女性がSOSを出してるっス! 助けに行くっスよ」
袋が落ちないように左手で押さえながら走り出したミノル
「バ、バランスが悪いっス」
両手で押さえた
「む? コレはもしかして?」
揺れとチョコの絶妙な滑り具合でナニがおっ勃つ
「秘技、両手ばーなし! おっ?やっぱり落ちないっスね」
バランスが良くなったので、ミノルのスピードが速くなる
「今向かってるから大丈夫っスよ」
自分の姿が全然大丈夫じゃないが、ミノルは未だ見ぬ女性のために走る
〜〜〜
「旦那様に口ごたえなんて…妻として失格ぅぅ! 再教育だなぁ里美?」
「うっ…」
反論や抵抗しようにも里美には出来なかった
「こんなに顔腫らして…里美、ダメじゃないか」
べろんと舌で頬を舐め上げる
腫らしたのはデブが三度殴ったからで、里美には非がない
「嫌ゃゃ…」
里美は今にも消えそうな声を出した
「ん? 里美、何か言ったかぁ?」
デブは『別に、言っても言ってなくてもどっちでもいーよ』状態だ
里美の最後の服を足から抜き取った
「里美ぃ!始めようかぁ?」
「イヤっ…いやぁぁ!」
デブは舌舐めずりしながら里美を抱こうとした
「ちょっと待つっス!」
我らがヒーロー、ミノルが現れた
「「?!」」
「そこのデブ! その女性を離すっス!」
ミノルは『もー大丈夫だよ?』と2人に近づいて行く
「なんだ。同業者かぁ」
「へ、変態がもう1人…」
そう、2人からすればミノルの姿は完成された変態。股間にクリームチョコモナカの袋を被せ、頭にはブラジャーが乗っかっている
「同業者ってなんスか? 俺は彼女を助けに来たんスよ」
「なんだと?!」
『一緒にしてもらったら困るっス!』とミノルが否定すると、デブは猛反論した
「この女は渡さんぞ! 貴様の様な若造に」
デブがミノルを指差して言った
?!
「あ。マスクにするの忘れてたっス…」
ミノルはブラマスク着用を忘れていた。顔がバレバレだ
「しまったっス…。ヒーローは顔を見せたらダメなん…おっ?」
ミノルは慌てて顔を背けようとしたが、思わぬアイテムを見つけた
「お嬢さん、少しばかり借りるっス」
「ダメぇー!」
「……」
ミノルがパンティーを頭から被った
「コレじゃあ…いや、こうかな?」
パンティーの位置を変える
「バッチリっス!」
「「……」」
変態がもう1段階進化した
「貴様は一体なんなんだぁ?」
デブは『もー、何この変態』と問う
「俺っスか? 正義のヒーローっス!」
「いや違う。そうじゃなくて…分かるだろぅ?」
「…あっ?! なるほど。俺の名前はけっこう…違うっスね。
…モナ仮面っス!」
股間の袋をチラ見して答えたミノル
「モナ仮面かぁ。里美をヤル前にモナ仮面、貴様から殺ってやるぅ」
「やれるもんならやってみるっス!」
両者はじわり、じわりと互いの距離を縮めていく
"ガシッ"
お互いが、互いの両手を握る
「くつ?! やるな…」
「ヒーローっスからね」
両者はニヤリと笑う
この十行足らずだけを見ると、それなりのバトルが始まるかの様にも思えるが…
デブはブリーフが半脱げで、ミノルに至ってはパンティーを被り、股間にはアイスの袋を装着している
大丈夫。期待しても全然シリアスなバトルや、熱いバトルには発展しないから!
「くっ…。モナ仮面、意外にやるなぁ」
力負けしたデブ。比較的スリムなミノルだが、力仕事をしているのでそれなりには強かった
「どうしたっスか? まさか降参とか言わないっスよねー?」
ミノルが煽る。アイスの袋もつられて上下に動く
「いい気になるなよぅ? これならどうだぁ」
ポーチからスタンガンを取り出したデブ。
一旦距離をとっていたが、スタンガンを手にしたことで強気になったデブが、ジワジワと詰め寄って来る
「…ヤバいっスね」
スタンガンを喰らえばどうなるか想像はつく。ミノルはソレを警戒しながら後ずさった
と、女性が自分を見ていることに気が付いたミノル
「ヒーローだろぅ?逃げるなよぅ。 …死ねいっ!」
「しまっ
"どグシャ!"
「ぎゃあああっ!」
デブがスタンガンを突き付けようとした時、横から猛スピードのバイクが現れ…デブを轢いた
「月光仮面、参上!」
ハーレーに跨る白いタイツの男…そう、オヤジが現れた
月光仮面参戦!
オヤジはハーレーを降りると、パンティーを被る変態を見た
「貴様…そこまで落ちたか」
近くには裸の女性がいる。そして、女性の下着と思われるパンティーを被るバカがいる。更には暗くてハッキリとは分からないが、女性の頬が腫れているような…
「ミノル…いや、貴様はもうただの変態だ。俺がココで始末してやる」
怒りまくっているオヤジ
「ふんっ!!」
全身のタイツが膨れ上がった
「ちょ?! 違うっス!誤解っスよ、オヤジ!そこのデブを見るっス」
ミノルはこのままだと『やばっ、僕殺されるー』と焦った
「貴様のような外道に、オヤジと呼ばれる筋合いはないっ」
月光仮面はハーレーのサイドバックから、コートを取り出して女性に渡す
「これを着なさい」
「あ、ありがとうございます」
里美はコートを羽織った
「今からバカを始末しますから」
月光仮面は静かに言った
「あっ?! あの人は違いま…
里美が変態のフォローをする前に、月光仮面は目の前から消える
"ドンっ"
「ぐわっ! オヤジ、痛いっス!」
「貴様、何度言えば分かるんだ? オヤジと呼ばれる筋合いはない…と」
激おこ中の月光仮面。話し合う余地はない
「…仕方ないっス。オヤジはこの、モナ仮面が倒すっス!」
覚悟を決めたミノル
「やれると思うか?」
月光仮面は腕を組んで立っている
「喧嘩かー?」
「変態が2人いんぞっ」
「うわっ、マジだよ」
いつの間にか野次馬が集まって来ていた
そりゃ、あれだけ騒いでいたら集まるわな
「馬鹿っ。片方は月光仮面だぞ」
「おおっ! 本当に月光仮面だ」
塾帰り風の少年たちに、サラリーマンのおっさんが訂正した
「「月光仮面?」」
今時の子供達には分からなかった
「んー。なんで言えばいいか。おじさんたちの子供の頃のヒーローだが…」
「それじゃ分からんて。今風に言ったら仮面ラ○ダーだよ」
「「めっちゃヒーローじゃん!」」
どうやら少年たちに伝わったようだ
「じゃあさ、アッチは?」
1人の少年に言われ、皆が一斉にミノルを見た
「「……」」
「ねー。何かの敵キャラなんでしょ?」
「……」
「敵?というか、ガチの変態…犯罪者だな」
ミノルの姿を見て、おじさんは正しい評価を出した
「「リアル犯罪者っ?!」」
「間違いない。アレは本物だ」
犯罪者と聞かされた少年たちはビビった
「大丈夫だ君たち。ほら、月光仮面がいるじゃないか」
?!
「そうかっ! 犯罪者を倒して月光仮面っ」
「なぁ、月光コールしないか?」
「おっ? 俺たちもしよう」
「だな」
「「「げぇー光っ!げぇー光っ!」」」
野次馬が月光コールを始めた
「変態、ココで死ねっ!」
月光仮面は、月光コールを聞いてノリノリだ
「ちょっと待つっス! オヤジ、落ち着くっス」
「黙れ! どっ、せーいっ!!」
ミノルの目の前をつま先が走る
「?! マジで殺しに来てるっス!」
間一髪で頭を引いたから助かったが、次も避けれるとは思えなかった
勿論、一撃でも喰らえば死ぬ
ミノルは懸命に避け続けた
「おのれ、ちょこまかと…」
「当たったら死ぬっス!」
ミノルの言ってることは間違いない
「…月光パンチ!」
"ガスッ"
「パンチと言って、蹴るなんて卑怯っス…」
ミノルは地面に沈んだ
「貴様、これで終わったと思っとるな?」
「?!」
うつ伏せでピクリとも動かないミノルが、ビクっとする
動かなければ隙を見て…と思っていたに違いない
「そうはいくかっ。 月光スペシャル!!」
「ぎゃあああっス! ギブアップっス、オヤジ!」
月光スペシャル…ロメロ・スペシャルの裸版
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