第11話 仮面のヒーロー

「お前…体を洗いに来たんじゃないの?」

ミノルがいつまで経っても帰って来ないので来てみたら…

灰色のまま正座をさせられていた


「オサム、このバカどうすりゃええか?」

オヤジが腕を組んでミノルを睨む


「オヤジ、ミノルが何かしたのか?」

体を洗いに来ただけじゃ、オヤジも怒らんだろ

「ああ。このバカ、コンクリまみれになっとるじゃねーか。水道で流すのかとしばらく見とったら…皮手を並べて遊びだしやがった」

『たく、ふてー野郎だ』とオヤジが怒る


「お前、何やってんだよっ」

コンクリまみれにさせたのは俺だけど


「先輩、チャンスだったっス」

「チャンス??」

コンクリまみれでチャンスとは?


「動く石像のミノル、呼ばれたっス!」

「誰にだよ!」

「コイツ等っス」

ミノルがビシッと皮手を指差した

「ドラ○エのアレっスよ、アレ!」

…動く石像は興奮している


「先輩、丁度良かったっス。スマホで撮って欲しいっス」

「そりゃいーけどよ。お前、今オヤジに叱られてる最中じゃねーか?」

ミノル、お前反省してねえな。俺はチラッとオヤジの顔色を伺った


オヤジの頭の上に "?" が浮かんでいる


「…オサム、ド○クエってなんだ?」

あー。ゲームしない人には分からんか。

「オヤジ、ゲームだよ。で、ミノルはそのゲームの敵キャラ…モンスターを真似て…んー、コスプレかな」

コスプレで間違ってはないだろう


「コスプレだとぅ? ミノル、貴様…コッチの人間かっ?!」

「「コッチ側って何だよっ?!」」

2人がハモる


「俺も最近な、コスプレにハマって…な。ミノル、貴様の気持ちが分からんでもないぞ?」

オヤジが腕を組んだまま、ウンウンと頷く

「オヤジもするんか?」

俺は気になって聞いてみた


「月夜の晩にな」

オヤジがニィッと笑う

「なんで夜なんかに?」

わざわざ夜にやることはないだろう


「月光仮面は月明かりに映える」

げ、月光仮め…

「ちょっと待った! オヤジ、あのビジュアルで夜は拙いって!」

完全にアウトだよ


「拙くはないぞ? ヒーローじゃないか。

…しかし、ポリ署に連れてかれたんだが…何故だ?」

不審者丸出しじゃねーか!そりゃ連れてかれるさ

「オヤジが不審…

「警察もヒーローを待ってたんス! みんなの憧れっス!」

目をキラキラさせるミノル


「だよなミノル! 分かってるじゃねーか!」

「いや、勘違…

「俺も警察に接待受けたいっス!」

更に目をキラキラさせるミノル

それ接待じゃねーし


「よーし分かった! ミノルにも仮面のヒーローをさせてやろう」

「やったーっス! でもオヤジ、何仮面っスか?」

ミノルは『なになにー?何のキャラなの?』と、期待してソワソワし始める


「……」

「早く教えて欲しいっス!」

ミノルは『もー、待てませんよ?』状態だ


溜めに溜めたオヤジが口を開く


「けっこう仮面だ!」


「強そうっス!」

「……」

…ミノル、それをやったら警察署にお泊り確定だぞ?



〜〜〜



コンクリを流して、服を着替えたミノル


「先輩ー、けっこう仮面って強いんスか?」

…ふむ。強い?…か。

「正義のヒーローだから、強いんじゃないかなぁ…」

一応敵も倒してるし


「強いっスか! けっこう仮面っていうぐらいっスから、結構な仮面を着けてるんスね?」

…仮面…は着けてない。頭巾が代わりだ

…服も着てないしな


「なー? オヤジはあー言ってたが、やめとけよミノル」

「なんでっスか?! ヒーローになれるんっスよ。チャンス到来っス!」

「全然チャンスじゃ…

「おうミノル。ここにいたか」

ヌッとオヤジが現れた


「オヤジどうかしたっスか?」

説教じゃないことを知っているミノルは、あっけらかんとして尋ねた


「今夜だ」


オヤジが一言告げた


?!

!!


「今夜?」

「オヤジっ、考え直さねーか? ミノルお前、はやまるなよ?」

「?! …はっ! ついにヒーローデビューっスね?」

「ああ、お前の物語が今夜から始まるぞ」

興奮して浮かれ気味のミノルに、オヤジが煽るように言った


「やったー! ミノル物語が始まるっス〜」

…いやお前、始めると終わるぞ?

「なー、ミノル。ヒーローは架空だから良いんだぞ? 頼むからやめとけよ」

「先輩ー。俺が羨ましいっスか?」

全然羨ましくないな


「そうじゃない。そうじゃねーんだミノル」

真相を話そうにも、オヤジからのプレッシャーが凄い

どうあってもミノルにやらすつもりかよ…


「だったら何故やめろってゆーんスかっ」

「そりゃお前の為…

「ミノル、今日はもー上がっていいぞ。今夜に備えて仮眠でもとっとけ」

オヤジが『最高のコンディションでやろーぜ?』みたいな雰囲気を出す


「ひゃっほぃっス! オヤジ、言葉に甘えて今から帰るっス。先輩、俺の活躍を見てくれっス!」

ミノルは『また明日ねー』とスキップしながら、帰り支度をしに走り去る

…活躍か。俺はニュースを観てればいいんだな?


「オヤジ、本気か?」

俺はオヤジを見る


「バカ言え。そんなはずなかろう。説教しても応えんかったアイツに、少しお仕置きしてやろうと…な」

オヤジは『常識知ってるよ!』感を出して言った


「そっか。なら大丈夫だな」

さすがにオヤジも "アレ" が拙いのを知っているか。

「バカのミノルでもやらんだろ。泣いて謝るのを待てばよいだけだ」

ふーん。考えたなオヤジ


「でもよ? もし、…もしやっちゃったら、オヤジどうする?」

「がっはっは! 無いない。アホでもない限りやらんさ」

オヤジは手を左右に振る


「アホなんだが…」

「……」


無言になったオヤジ

『えー?本当にやっちゃったらどないしよう?』みたいな顔して俺を見るなよ


「喜んで帰ったミノルにはわりーが、やらすなよ?オヤジ。」

「……いや、俺も男だ。二言は無い」

「やらすんかっ」


…大丈夫、だよな?



☆☆☆


〜ミノル編〜



「…寝れなかったっス」

ベッドで横になっていたが、結局寝れなかったミノル

待ち遠しく、楽しみにしている時は寝れないものだ。遠足や修学旅行、分かりやすく学生時代で言うとそんなところか

まあ、こんなことは誰にでもある。


そのせいであろう、テンションは高めだが…体が怠い


「もっとテンション上げないと…。そうっス!お酒の力を借りるっス」

ミノルはビール党だが、この時何を考えていたのか…焼酎を飲んだ

それも腹いっぱいに。


「…ヒック。びぃるよりキツいっすぅ」

酒に強いミノルでも、もうヘロヘロだった


「ミノルいる〜?」

そこにミノルの彼女がやって来る


「ミノル、ヒーローになるってなあに?」

どうやら彼女にLINEをしていたらしい

「ひーろー? ひーろーって?」

ミノルは今夜の事を忘れていた


「ちょっとー! 酒臭いよミノル。ミノルが今夜、ヒーローになるって送ってきたんじゃん?」

……

「こんや? ひーろー?

 …ひーろーってね、Hを取ってもEROいんだよー」

ミノルがガバッと覆い被さった

「ちょっとーっ!」

「と〜も子ちゅあ〜ん」

盗っ人ミノルパン参上。ミノルパンはズボンを脱いだ


「この俺の〜、悪さP23が潮吹くぜぇ〜」

「ちょっと、待って。…待てってば、こらぁ!」

「お宝は、ばみゅーだトライアングルにあるっすぅ〜」



〜〜〜



「…そういえば、今夜…なんだっけ?」

ミノルは少しだけ酔いが醒めたらしい

「ヒーローになるんでしょ? エッチなヒーローさん」

ぐったり気味の朋子

どうやらミノルの銃で撃たれたらしい


「?! そうだったっス! オヤジが待ってるんだったっス」

ミノルは『おっと、こうしちゃいられん』と、飛び起きた


「朋子、これ借りるっス」

ミノルは自分のトランクスを履き、朋子のブラジャーを手に取る

「えっ?!」

「服を着てる暇ないっス! これなら簡単に着れるっス」

普通なら、Tシャツを着るのも簡単だと分かるはずなのだが…まだミノルは酔っているようだ


「ちょっと待ちなさいっ!」

朋子は慌ててミノルの腕を掴もうとするが

「あばよー、とっつぁ〜ん」

ミノルはおっとり刀で部屋を飛び出して行った


「…別れようかしら…」

ミノルが出て行った玄関を、ぼんやり眺めながら朋子は呟いた

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