第10話 事務所じゃねーな
〜数日後〜
「なあミノル…この事務所?何かやたらとデカくないか?」
俺は今、オヤジの会社の屋上(二階建て)から、隣に建設中の "俺の事務所" を見上げている
「っスね。…事務所と呼べる域を超えてるっス」
「だよな。ビルって言ったら大袈裟かもしれないが、ビルでいいよなコレ」
2人が見上げるビル?は、10階建てぐらいに思えるほど高かった
「先輩、ビルの中の1フロアだと思うっスから、気にしちゃダメっスよ」
…それはいえてるな
「なら、上の方がいいなぁ。最上階とは言わんけど、上の方が景色が良さそうだし」
この辺りは比較的高い建物がない。まったく無いわけではないが、このビルができれば高い建物TOP5には入るだろう
その為、上からの景色はとても良いモノになるというのは簡単に推測できた
"ガーガー、ガッチャン"
クレーンが立派な看板を吊し上げる
「先輩、ビルの看板が…」
「……言わんでいい」
そこには"オサムビル" と書いてあった
「世の中、オサムって言う名前の人は幾らでもいるさ。偶々だよ、偶々…」
そう自分にいい聞かせる
「シュウのビルだよー」
「やっぱりそうか…」
いつの間にかフーコに背後をとられていた
「お前なー、いつから背後に居たか知らんが、声かけてから近づいて来いよ?」
ビックリして落ちたらどーすんだよ
「ま、ま。それは置いといて。このビルなんと、12階建てでございます!」
「はあ?! ちょっと相談事を聞く為の事務所が、何で12階建てなんだよ! 二階建て程度で十分だろっ?!」
平家でもいいかもしれん
「自宅も兼ねてんの。プール、ジム、ボーリングにカラオケ、スーパー銭湯も完備だよ!」
「事務所兼自宅か。有難いなそれは。しかし、ボーリングにカラオケは要らんぞ?プールとジムはちょっと魅力的だがよ」
スーパー銭湯もあまり巨大でなければ、いいかもしれないな
今住んでいるアパートに愛着心が無いわけではないが、一度は広々とした家に住んでみたい。それにジムが家にいて出来るとは、最高じゃないか
「シュウは要らなくても、私たちがいんのっ」
「ん?どーゆーこと?!」
「私たちも一緒に住むに決まってんじゃん」
「なんで? 俺のアパートとは違って、フーコたちには良い家(実家)あるじゃん」
そう…フーコには家族、沙織には家族+奉公人。俺とは状況も家も違う
「シュウの1人ビル暮らし…何をしでかすか分かんないじゃない」
ジト目で俺を見るんじゃない
「何もしでかさねーよ!」
「うっそー。そう言う奴ほどしでかすのよねぇ」
「お前、疑い深いなっ。…いいだろう。そこまで言うなら監視でも何でもすりゃいいさ」
「先輩、ダメ…
「ミノルくん黙ろうか! シュウ言ったわね?」
「あー、言ったさ。沙織も来るんだろ?いいぜ、2人が両隣の部屋を使っても」
AVなんか観ないし。仮に観るならイヤホン使えば良いだけのこと
「両隣? シュウ、勘違いしてるよ?」
"はぁ?" みたいな顔をするフーコ
「勘違い?何がよ」
「一緒の部屋に決まってるじゃない!」
"ムフー" と鼻息が荒いフーコ
「ちょっと待て!それはおかしい」
おそらく部屋数もかなりあるであろう、このアパート。なぜ一部屋に集まろうとするのか
「おかしくないっ! 男は一度言った事は必ず守るのっ」
右手をブンブン振り回す
「…女の子でいい…
「切るわよ?」
おーっと、正義にあやかって言ってみたら想定内のセリフが返ってきたぞ
「…まあ、そー言っても個室あるんだろ?」
いざとなれば食事と風呂以外は自室に篭れば良いか
「当たり前じゃない」
「ならいっか」
「寝室は一部屋に纏めるけどね」
……
…
「は?!」
「だってキングサイズだよー?」
「キングサイズ?」
「ベッドがね。それも特別な逸品でございます〜」
「普通のにしろや!」
何が "特別な逸品でございます〜" だ
「もう無理! 予定通りなら来週には搬入だもん」
「突貫工事にもほどがある…」
地震とか大丈夫なんかそれは?
「第一、シュウの部屋にはベッドなんて入んないよー」
「入らんてお前、おかしくないか?」
どんなに頑張らなくてもベッドの1つぐらい入んだろ
「シュウの部屋には私たちの服が…もちろん下着なんかも保管されます」
「されますじゃねーよ! お前たちの部屋に置いとけよっ」
「…バカ?」
「なんで?!」
おかしい…俺、当たり前の事を言ったよな?
「下着や服を選んでもらうのに、いちいち部屋を行ったり来たりできますかっ!」
「それ、キレる所なん?」
「キレてないよ? 行ったり来たりするのって、時間の無駄と思わない?」
無駄…無駄なのか?
「そもそも俺に選ばせる意味が分からん!
…なあ、お前もそう思うだろ?ミノ…ル?」
ミノルの姿が消えていた
「ミノルくんなら結構前に降りて行ったよ?」
…あの野郎
「そーゆー訳で、準備しときなさいよー?」
「わーった、わーった。準備ってほどの荷物もないが、やっとくよ」
「ふっふっふ。楽しみねシュウ」
フーコが『じゃ、よろしく〜』と言いながら去って行く
「はー…。平穏な生活が終わりそうだな…」
建設中のビルを見上げる
クレーンで吊るした鉄筋が"ドカッ" と地面に落下した
〜〜〜
「じゃ、この資材を運ぶぞ」
久しぶりの建設現場だ
「了解っス」
「了解」
「あいよー」
「了解」
「相談役、分かりました!」
「はいっ」
んー、元黒服が1人混じってるのか?
しかし現場で相談役はないだろ…
「相談役ってのはやめろ」
誰が言ったか分からなかったから、みんなに向かって言う
「す、すみません、相談役」
テメーか!
「だから相談役って呼ぶのはやめろって!」
少々語尾が強くなる
「ですが…。自分にとって相談役は相談役です! あの正義様とのバトル…痺れました!!」
コイツ、バトルの影響組か?!
「バトルってほどのもんじゃねーよ。ただの喧嘩だ」
そう、ただの喧嘩
「銃が出てもですかっ?!」
「「銃?!」」
外野が驚く
「銃が出ても…だ。大した事じゃないな」
「撃たれてお腹に当たりましたよね?」
「「撃たれた?!」」
外野が騒がしい
「撃たれたといっても致命傷じゃなかったし。痛かったぐらいだな」
「2度目は避けましたよね」
「「避けたっ?!」」
「お前等うるせーぞ!」
外野を叱る。いちいち反応し過ぎなんだよ
「さすが先輩。化け物っスね」
平然とミノルが言う。化け物は余計だが、これぐらいの反応が望ましい
「相談役の見せ場のシーンが、コロ助の声で台無しです」
「?! 分かってくれるかっ! やっぱりアレは無いよなっ」
良かった。汚染されてない普通の人がいたよ
「コロ助? 先輩、コロ助ってなんスか?」
ミノルが話の流れから、『なんでコロ助が出てくんの?』と不思議そうな顔をする
「ミノル、気にすん…
「あのですね。相談役…いや、家礼様が戦っている映像があるんですが、アテレコで家礼様…コロ助の声優さんが担当されてるんです」
言っちまったか…
……
…
「先輩…ぷっ…。コロ助ナリかーっス!」
「……」
"ドンッ"
「「「あっ?!」」」
「ぎゃぁぁぁあ?! しずっ、沈んでいくっス!」
ミノルを流し込んだばかりのコンクリートに突き飛ばした
「大丈夫っス。2メートル沈んだら、足が届くっス」
「先輩!モノマネしてる場合じゃ、イヤァァァ!太腿まできたーっ!」
むう…。いかんな。思ったよりシャバ過ぎるか…
「もっとコンクリートは固めでないといかん。担当したやつは誰だ?」
「先輩、俺っス」
「お前か。ま、自分のミスで死ねるんだ。良かったなー」
自分のケツは自分で拭けっ
「ちょ?! 死ぬの前提?! 酷いっ、助けてぇぇー」
わざとらしく涙を流すミノル
そのうち助けてもらえると思ってやがるな?
「スがないぞー?」
「ス?」
「ス!」
「……?! いや、今そんな事言ってる場合じゃ無いっス!」
胸まで浸かるミノル
「…まったく、人が気にしてる事を、ネタにして笑うからこんな事になるんだぞ?」
「「「……」」」
「すんません…」
「誰か手を貸してやれ…」
ミノルがコンクリートの沼から引き摺り出された
「グレー1色だなミノル」
アゴから下は灰色だ。他の色は無い
「酷いっ。先輩は酷いっス!」
「酷くはないな。突き飛ばしたらソコに、偶々…偶々、沼があっただけだ」
偶然って恐ろしいなぁ
「そんな事より、早く水で流してこい。石像になるぞお前」
「わ、分かったっス。ちょっと洗ってくるっス」
ミノルは大慌てで水道がある所に走って行った
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