第5話 備前家

「まー、いつ見ても広デカ過ぎるな…」

どーんと左右に壁が広がっている

「門も大きな筈だけど?遠目から見ると門が小さく見えるわね…」

と、感想をもらして沙織に電話をかけるフーコ


『あ?もしもしーさおりん? 今、家の前に…

"ゴゴゴゴゴ…"

門が自動で開いた

奥から真っ黒なスーツを着た厳つい男達が出てくる


「「「いらっしゃいませ!相談役っ」」」


男達は一糸乱れぬ動きで頭を下げた


「…相談役ってゆーの、やめてくんない?」

俺はヤクザの相談役になった覚えはない

「ですがっ!正義坊ちゃんに言われてますんで、コレばかりは…」

男達の中で最も偉い奴が答える


「あのさ、正義がどんな風に言ってるか知らんけど、俺一般人なんだよね。タツミさん、理解してよ」

「会長も乗り気ですし…。老公に至っては映像を見られて、えらく興奮されておられましたよ」

『またまたー。あなたのドコが一般人なんすかねー』感を滲み出すタツミ


ん?…映像?


「映像って?」

「正義坊ちゃんと相談役のバトルです」

……

「は?! アレが映像として残ってるんかっ?!」

うわー…若気の至りでやらかしたヤツね。恥ずかしー

「ウチの若えモンは皆、相談役を尊敬しておりやすぜ」

タツミの隣にいた強面の男が言った


「やめてくれよう…ほんとーに」

ぐわーっ!記録を消してやりたい



「タツミ!さっきから聞いていれば、私の話がまったく出てないじゃないっ」

黒髪の凄く綺麗な女の子が出てきた


「?! お嬢っ?!いつからそこにっ?」

タツミが酷く慌てる

「最初からです。よくも私をアピールせずに雑談に華を咲かせたわね? …タツミは死ぬの?」

タツミの額から汗が噴き出る


「滅相もございませんっ。ただ、自分の様な口下手な者がお嬢の気持ちを代弁し、間違った解釈を相談役がされたら、と思うと…。

それにお嬢、自分の気持ちは自分で伝えてこそ、相手の心に響くってもんですよ」

ペラペラと息をするように自然に話す


「自分の気持ちは自分で…か。タツミ、やるじゃない!」

「恐縮ですっ」

…何処が口下手なのだろうか?

どちらかと言うと、詐欺師レベルの話術ではないだろうか…


「や、沙織。久しぶりだ…

「ヤッホー。さおりんっ、大事な話があるから部屋に行こっ」

俺の会話を遮り、沙織の手を握って連れて行こうとする、車の助席に座っていた女。ひでー奴だ

「あっ?! 修様っ、また後で…」

『ちょっと風ちゃん、慌てないでよ』と、沙織がつぶやくが、フーコに連れて行かれた

(お前…ここ他人ん家…。)

……

「タツミさん。俺の車よろしく」

「はい。確かに。…おいっ!」

「はっ!」

俺からタツミさんへ、タツミさんから下っ端に車が渡る


「相談役、どうぞこちらに…」

タツミが道を案内する。俺はその後をついて行く…のだが、俺の後を数人の男達がついて来る

…嫌な行列だ


〜〜〜


「兄貴っ!」

広い屋敷の中の、ひろーい部屋に通されて…凄く耳障りな声を聞く


「うるせーよ」

正義は俺より3つ年上なのだが…昔のバトル以降、俺のことを兄貴と呼ぶ


「修殿、バカ息子が大声を出し失礼をした」

備前会長…沙織とバカの父親であり、備前家現当主である

おっといかん!先に挨拶されてしもーた


「備前さん。この度はオヤジに対しての口添い、ありがとうございました」

ぺこりとお辞儀をする

「修殿、気になさるな。それよりバカ息子と可愛い娘がいつもお世話になっておる。こちらこそ有難う」

うわー…会長の方がお辞儀が深い。俺、またやらかしちゃった


「親父よー。バカ息子は酷いだろ?」

バカ息子が父に抗議する

「お前はバカだ!…違うか?」

バカと決めつける父。…怖い

「なんでだよっ?ちゃんと言付け守ってるし、勉強もしてるだろ!」

なおも反抗する息子


「はー…」

溜め息を吐きながら会長が、自分の右肩をポンと叩く

?!

「ぐっ!…そん時は確かに馬鹿だったよ。まさか兄貴が、あんなに強いとは分かんなかったんだしっ」

正義は自分の右肩に手を置く

右肩にはかなり目立つ古傷があるのだ。俺がつけたんだが…


「俺の部下は瞬殺されたし…この傷跡も"抜手"でつけられたんだし。なにより1発目が腹に当たったのに、2発目を避けんだぜ兄貴はっ!

…親父は映像しか観てないから知らねーだろうが、兄貴…腹に埋まってる弾をシャーペンで

「待て待て待て待て!お前、ちょっと喋りすぎじゃね?」

俺は慌てて、興奮しているバカ息子の口を手で塞ぐ。もう片方の腕が、バカの首に喰い込んでいるが…別にコレぐらいじゃ死なんだろ


「正義!…その話しは後でじっくりと聞こう」

会長は『何それ?!ちょっと僕、興味津々だよ?』と鼻息を荒げた

くそぅ。いらん事喋りやがって…

気持ちすこーし腕が締まる

「うぐ?! ぐっ…」

"タンタンっ"

正義が俺の腕をタップする


タップ…。靴を床でカチャカチャ鳴らすのもタップだな。ボーイやウエイトレスにあげるのはチップ…

そういえばチップ○ターというお菓子、子供の頃よく食べてたな。まだあるのかなぁ…


"ガクッ"


「タツミさん、コレよろしくねー」

正義をタツミさんに引き渡した

「やっぱり馬鹿ではないか」

会長、酷いなぁ。息子だろコレ…




「で…。修殿、わざわざ訪ねて来られたのは? …もしや?!遂に沙織を娶る気…

「違う違う、違いますよっ!口添えの御礼に来ただけです。手ぶらですみませんが…」


危ないな…。事あるごとに沙織を娶らせようとしてくる。俺も沙織はいい子だと思うし、素直で気の利く子だから確かに好きだよ

だけど、なぁ…。間違って結婚しちまったら、次期当主になってしまう気が…いや、この家の連中ならやりかねん

俺はそっち側の人間じゃない、普通の一般人だ。貧乏だけど


「わざわざ礼など…。俺と修殿の仲ではないか。それに手ぶらだからとか、気にせんでよい。自分の家の様に…そうだな修殿、我が家で暮らさないか?」

「備前さん、どーしても俺を、そっち側に引っ張りこみたいですか?」

「引っ張りたいとか…修殿、考え過ぎだぞ?それに備前さんなどと…父さんと呼んでも大丈夫だ」

何が大丈夫? なんで大丈夫??

呼んだら最後じゃねーか


「勘弁して下さいよ…」

「ダメだ!今日は落ちるまで勘弁せんっ」

ニヤリと備前さん。落ちるまでって…

と、そこに


「あなた。息子をいじめたらダメじゃありませんか」

沙織の母ちゃん、備前さんの奥さん登場

二児の母とは思えないスタイルと美貌をもつ

…そして、最も手強い相手だ。

今の言葉も俺を助ける様な雰囲気をもたせてはいるが… "息子" 扱いになっている


「虐めてはおらんぞ?」

備前さんが否定する

「虐めるなら正義にしなさいな」

背後から俺を抱きしめて、実の息子を生け贄に出した

「あら? 修、また大きくなった?」

ペタペタと、俺の背中や胸、腕を触る


「伽耶さん、気のせいです。それにあまり触らないで下さい」

「そうだぞ伽耶。俺も参加しよう」

ペタペタと備前さんも俺も触る


「ね?修、大きくなったと思わない?」

「確かにな。胸筋は勿論、肩幅も一回り…。なぁ修殿、気のせいではないぞ」

備前の夫婦が俺を挟んで会話する


「あのですね?2人共、とりあえず座りませんか?」

会話というのは、本来サンドイッチ状態でするもんじゃない筈だ


「仕方ないな」

「仕方ないわね」

え?! 仕方ないの?


だが、なんとか引き剥がしに成功した



「で…。いつなのかしら?」

ほーら、また危ないセリフが出てきたぞ

「結婚とか…まだ早いと思うんですよね」

付き合うとかすっ飛ばして結婚って…


「違うわよ!赤ちゃんのことよっ」

"ぶはっ"

「ゴホッ、ゴホッ…すみません…。 赤ちゃん?!」

赤ちゃん、て何でだよっ?!


「結婚は時期やタイミングとかあって、直ぐにとはいかないわ。大丈夫、母さんも分かってるわよ? だけど赤ちゃんならいつでも良いじゃない。修、すぐに沙織とつくりなさい」

この人の価値観・倫理観ってどうなってるんだ?


「確かに、な。修殿、伽耶の言う通りだ。

早速で悪いが、沙織に一本挿れといてくれ」

こっちもか。何その『一本いっとく?』みたいな感じは? 


「ほんと…勘弁して下さいよ」

俺はソファーにボスっと横に倒れる

部屋の扉の前で立っているタツミが、ニヤニヤしているのが見えて…


ムカついた




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