第3話 怒らないから言ってみ?

「薄茶色だったよな…」

「だよ。…シュウの下手なマッサージの効果…とか?」

「な訳ねーだろ」

「…他に考えれ…る… …あっ?!」

ハッとした顔をするフーコ


「あっ? …あって何だよ、あって」

「…」

バツが悪いのか目を逸らすフーコ

「ほう。目を見て会話も出来ん事なんか?」

「見れるもんっ」

フーコが俺と目を合わす

「ソワソワすんな!」

「ソワソワなんかしてないもんっ。これは私の…えーと…そう、癖っ!」

長い付き合いだが、そんな癖初めて見たぞ


「分かった。怒らないから言ってみ?」

「…本当にぃ?」

上目遣いで俺を見る。くっ…かわいいが有耶無耶にはさせんぞ

「ああ、約束する」

指切りげんまんでもするか?と、小指をたてる。フーコが自分の小指を俺の小指に絡ませてきた


「「指切りげんまん♪嘘ついたら…

「嘘ついたら結婚ねっ!」

「待てーい!そんな指切りあるかっ」

フーコの額にビシッとチョップする


「いーたーいー」

「なんで結婚なんだよ。今の俺の稼ぎじゃ、暮らしていけないだろ…」

俺1人でも苦しいのに


「知ってる。それに私もあと一年待って」

「卒業か?」

「うん。卒業して薬剤師になったら、シュウ働かなくていーよ。私が養うから」

「バカやろう!ヒモにはならんぞっ」

そりゃ完全にダメ男じゃないか


「違うよ。主夫だよー。パパはお家で子供の世話しなくちゃね?」

「…あのさあ、お前の時間感覚おかしくね?」

「別におかしくないよ?今からつくるもん」

座っていたフーコが飛びついてくる


「おーっと、危ない」

ヒラリと躱す俺

「避けるなっ!」

「なんでだよ」

「こんな可愛い女の子を避けるって…どーなのよ?」

「自分で可愛いって言う女の子は…どーなんだ?」

「ぐっ…」

ほれみ。言い返せんだろ?


「シュウのアホーっ!」

フーコが枕を投げつける

「だからー、当たらねーよ」

クルッとカッコ良くターンを決めて躱す


"ガシっ・ぽよん"


「へっへー。捕まえたぞシュウ」

「くそっ、その手できたかっ」

『離せよ』『やだよ』を2人で言い合う

……

「…私ね、シュウには本当に感謝してるの。

私を助けてくれてありがとうございました」

「……俺の気まぐれだ。感謝もあの時聞いた。そんなに気にせんでもいーさ」


直前まで騒がしかった2人。それが今、雰囲気がガラリと変わった

互いの鼓動が感じられる距離。が、更に縮まっていく…

相手が今何を考えているかも分かりそうな感覚


「ねぇ…」

「ん?」

「…よ」

「…も」

「へへっ、分かる?」

「なんでだろーな。分かっちまうよ」


言葉を交わさなくても互いに話ができる

そんな不思議な感覚…


「じゃ、何したか言ってもらおうか」

「アホーっ!雰囲気ぶち壊しじゃない」

「今なら怒らんさ」

「…んー、耳貸して?」

なんで耳打ちする必要があんの?


「まぁいいか。ほれ」

俺はクルッと向きを変えて、フーコの口元に耳を近づける為しゃがむ

"パクッ"

「バカっ!耳を噛むんじゃない!」

えへへと笑うフーコ

「早よ言えよ?しゃがんでるの、楽じゃねーからさ」


「えーと…。ゴニョゴニョ…」

「ふんふん…それで?」

「でねー、ゴニョゴニョ…」

「はー。そいで?」

「ゴニョゴニョ…ゴニョゴニョ…」

「食べられちゃったんだな俺は…って、何してんだよっ?!」

「怒らないってゆったー」

「怒ってないさ。呆れてんの」

「ゴニョゴニョ…」

「はあ?お前AVの見過ぎじゃないか?」

「ココじゃ見てないもんっ」

まったく何やってんだよ…

……

「…検証の必要があります」

突然フーコが切り出した

「なんの?! ピンク色になったんだからもういいじゃんか」

「それは嬉しいです。で・す・が、シュウは私のコンプレックスを知ってるわよね?」

「まあ、な」

フーコの胸は左右で大きさが違うのだ

左がワンサイズほど大きいか。銭湯とかプールとか、裸を晒す所は気が引けると言っていたな


「そう。コレね」

フーコは俺の手を取り、自分の胸を触らせる

「女性的には気になるのか?男の俺はまったく気にならんが…」

「バカチンっ!彼女の胸が美乳だったらシュウも嬉しいでしょーが」

「それはそうかもしれんが…」

「男性的に言ったら…そうねぇ…。…チンコが曲って…

「それは確かにイカンなっ!よし、フーコの思いはよーく、よーく分かった。俺も協力しよう…そうしよう!」

痛いほどフーコの気持ちが分かった。なんて事だ…今までそんなに思い詰めてたなんて


「そ、そう?…過剰な気もするけど…」

少しフーコがひいている気もするが


「フーコ!俺は何をしたらいい?!」

「子種を出して」

「…えーと、羞恥プレイをさせるおつもりでしょうか?」

「違うよ?昨夜と同じにしないと…。ほらっ、早く!手伝ってあげるから」

「やーめーてー!」


〜〜〜


「ご苦労さま」

やり切って、にこやかなフーコ

「よ、汚れてしまった…」

ベッドに倒れ込んで俺はシクシクと泣く

「嘘泣きやめい!まったく…抜いただけだし、減るもんじゃないでしょ?」

「…女の子が言うセリフじゃないよね?」

……

「コレをオイルと混ぜて…はい、よろしく」

…よろしくって、俺がやるのか


「いつの間に…」

容器に入ったモノを見ていると、気が付けばフーコはベッドに仰向けになっていた

「早くっ!」

「はいはい。急かすなよな」


両手の掌に合成オイルをひろげる

…うん。俺のが混ざっているのを知ってるから、いい気分ではない

「同じになーれ。同じになーれ」

ゆっくり合成オイルを胸に塗り、怪しげな呪文を唱えた


「全然愛が篭ってない。棒読みもダメ。はい、やり直しね」

「…くそう」



なあ…神さん

俺に力があるなら頼らない

だけどもし そうじゃないなら

少し力を貸してくれないか

コイツが…フーコが悩んでるんだ

たぶん もう ずっと長いこと

頼むよ 神さん

フーコの劣等感を無くしてやりたいんだ

俺にとってコイツは

妹の様な 恋人の様な 親友の様な

特別な人なんだ

頼むよ 神さん

誰もが羨む そんな乳房にしてやってよ

頼むよ



「………」

「ん?どうした??」

「…照れてんのっ!悪いかっ?!」

「うを?! 照れでキレんじゃねーよ」

最近の若者はキレやすいからいかんな


「そうだ。今日のバイト休まなくちゃ」

急に起き上がると、スマホを取りにバッグに向かう

「送迎の?」

「そうだよー。土日は女の子もお客さんも多いから大変なんだよ」

大変て分かって休むんか。先輩、すんません


「あ、アキラさん。今日のバイト、休ませてください」

『楓ちゃん、今日休みっ?!』

「急にごめんなさい」

『急だね…。いつもなら1週間前には…あっ?!オサム絡みかー』

「良くお分かりで」

『分かるさ。ちょいオサムに代わって』

はいコレ。と、スマホを受け取る


「先輩…ガンバっ!」

『アホか?お前に言われて"ガンバロー"って気持ちになる訳がない』

「でしょうね」

『何かやらかしたんか?』

「検証ですって。リアルタイムに確認したいんでしょーよ」

『また変なこと始めたんだな…。まったくお前らという奴は…はー。まあいい、そうゆー事なら了解だ。オサム今度奢れよ?』

「ういっす。缶コーヒーでどうでしょう」

『カフェオレな』

「甘党ですねー先輩」

『お前と違って頭を使ってんの!糖分がいるんだよっ』

「はいはい。IQ170の天才さん」

『ちょ?!お前、それ褒めすぎ』

「ですよねー」

『じゃ、またなオサム』

「先輩も。」

ほいっとフーコにスマホを返す


「オッケーだって」

「うん分かった。…どうなるか楽しみじゃない?」

フーコは自分の胸を両手で持って揺さぶる


「あまり期待するなよ?変化なかったらショックを受けるぞ」

「絶対変化あるもんっ!」

「だといーが…」

知らんぞ?愚痴や苦情も受け付けんよ俺は。

……

「じゃあ、家に帰るねー」

服を着たフーコは荷物を手に部屋を出て行く


「…俺も帰るか」


少し遅れて俺もラブホをあとにした

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