第8話

 時は過ぎ去り放課後。

 ササッと帰ってバイトの支度をしようと思ってた矢先である。


「しーちゃん、一緒に帰ろや」


 また嫌な空気になる。

 そんな時だ。リア充グループの1人が声を上げた。


「淳二、ファミレス行こうぜ! 今日みんなで淳二の歓迎会したいから」


 そりゃあ、あれだけのイケメン、自分達のグループに入れたいと思うわな。

 匂いが同じなんだろう。俺も感じていたが、俺とは違う匂いを持っている。

 同じ匂いの者達が一緒に居たいのは至極当然のことだ。


「あー、ほんまごめん。嬉しいねんけど、荷解きとかまだ終わってなくてさ」

「えーいいじゃんそんなの明日でも」


 そう言ったのは柏木。


「ほんまごめん! うちのおかんめっちゃ怖いねん。やから今日中に片付け終わらさんと鬼になるねん」


 冗談交じりに話す淳二だが、淳二のおばさんは本当に怖い。

 俺も何度怒られたことか。


「それは仕方ないね。じゃあまた誘うね」

「おう、おおきにな」


 リア充グループは暇になったねとか、どこ行くとか言ってる。

 てか柏木、お前は部活行かなくていいのか。

 と、思ってたら淳二が来た。


「悪い悪い。ほな一緒に帰ろや」

「いいのかあいつら」

「ええと思うで。また言うてたし」

「お前がそれでいいならいいや」

「そうそう」


 そう言いながら俺達は教室を後にした。


 *


「しーちゃん家、寄ってってええ? 」


 帰り道に聞かれた。

 俺は淳二のお母さんをよく知ってたから大丈夫なのかと聞いた。


「あー、荷解きな。あれ嘘。こっち帰って来たその日のうちに終わらした」


 なんじゃそりゃ。


「じゃあなんであんな嘘をついたんだ? 」

「あーでも言わんと今日中にしーちゃんの家行けへんかったやん。思い出話も色々したかったし」

「そんなこと今日じゃなくてもできただろ?」

「まぁせやけど、それとは別にもう1個理由があってな」

「なんだよそれ」

「ま、ええやん。それよりはよ行こや」


 なんか変なやつだな。

 そうこうしている間に俺の家に着いた。


「ただいま」

「お邪魔しまーす」

「まぁ誰も居ないし、何も出せないが、ゆっくりしてくれ」

「お茶くらいは出してーや」

「はいはい。とりあえずリビングで待っといて」


 そう言いながら家に上がり、お茶を持ってくるため台所へ向かった。

 お茶をリビングに持っていき、淳二に出す。


「昔よーさん通っとったから、しーちゃん家は落ち着くな」

「それでなんだ? 思い出話とか言って。本当は何しにきた? 」

「そんな怒らんといてーや」

「別に怒っては無いけど、あっちゃんの目的がわからん」

「お、あっちゃんってやっと呼んでくれた」

「うるさい! それよりなんだよ」

「照れとる照れとる」


 笑われた。

 久しぶりに呼ぶから照れるのは当たり前だ。

 そんな会話をした後、淳二は真剣な顔をしながら本題に入った。


「ゆーちゃんどこや」


 すぐには答えられなかった。

 どう言えばいいのか分からなかったから。

 そんな表情を読み取ったのか、淳二は言い訳でもするように言ってきた。


「ちゃうちゃう。この家の仏壇はどこ言う話や」

「知ってたのか」

「そりゃあな、俺のおかんとしーちゃんのおかん今でも連絡取ってるみたいやし、結構はよには知ってたから、もっとはよ来たかったけど、俺の家あの頃結構ゴタゴタしてたから、こんなタイミングでしか無理やってん」


 ゴタゴタってなんだ?

 あいつの家は家族仲良かったはずだが。

 まぁ言いたくないなら詮索はしない。

 俺はその事には触れず兄貴の所へ案内した。


「久しぶりやなゆーちゃん。8年振りくらいかな」


 いつも元気で騒がしい淳二が少し悲しそうだった。


「ごめんな。葬式にも顔出せへんかって。行きたかってんけどどうしても行けへんかってん。でもこれからはまぁ色々話せるし、焦らんでもええかな思ってな。まぁゆーちゃんが居るほんまの場所に行くまではまだ時間かかりそうやけどさ、こっちに顔出してくれる日にはあーちゃんとはるちゃん、それにしーちゃんと一緒に挨拶行くから、そん時にまた話そや」


 色々話したいことはたくさんある様に見えたが、あまり話していなかった。

 というか話せなかったのか。

 俺には背中を向けていたが、嗚咽が聞こえてきたから。

 俺は部屋から出ていた。


「しーちゃん、おおきにな」

「ん? 落ち着いたか」

「ああ、落ち着いた。俺に気を使ってくれたんやろ?おおきにな」


 感謝されるのは慣れていない。

 だから照れる。それを隠すために誤魔化した。


「いや、別に喉が渇いたからお茶飲もうと思って部屋から出ただけだ」

「そうか……これは俺の勘違いやったんか」

「そうだよ。勘違い。だから気なんか遣ってない」

「そうかそうか」


 ちょっと淳二が満足気なのがイラついたが、まぁ今日は許しといてやろう。

 俺が居ない間に喋りたいことも喋れたんだろう。

 少しスッキリした顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る