第9話
「てか、しーちゃんの部屋どこ? 」
淳二からそんなひと言が飛び出した。
「え? 場所は変わってないけど、なにか用か? 」
「いや、別に。ちょっと気になってな……」
淳二が口角を上げ、ニヤリとした。
まずい。別に部屋に入られても困ることはないが、直感が言っている。
淳二を部屋に上げるのはまずいと。
次の瞬間に淳二は素早く立ち上がり、階段目掛けダッシュした。
俺は防ごうとしたが、1歩遅く、淳二の手を掴め無かった。
そして淳二は俺の部屋に入りやがった。クソ、不法侵入で現行犯逮捕したい。
「ほー、ここがしーちゃんの部屋か。なんか殺風景やな」
「うるさいな。別に俺の部屋なんだ。なんだっていいだろ」
「ま、ええけどな。とりあえずエロ本はどこや? ベットの下か? 」
こいつ、テンプレイベントをしやがって。
「エロ本なんかこの部屋にはない」
「なんやねん。それだけが楽しみやったのに」
おい、それだけが楽しみとはなんだ。俺の性癖を知って何が楽しいんだ。
「しゃーない。他に面白そうなもんは、と。」
「やめてくれ」
「お? 中学の卒アルあるやん! これ見よ」
「やめろぉぉぉぉぉぉ! ! ! ! ! ! 」
こうは言ってみたものの時既に遅く、卒業アルバムは開かれていた。
黒歴史が晒される……
「お? これしーちゃんか? あんま変わってへんな」
「当たり前だろ? 2年でそんなに変わるわけない。てかやめてくれ恥ずかしい」
「お? 照れるしーちゃん可愛ええやん」
笑われた。てか完全に遊ばれてる。
何が悲しくて8年離れた幼なじみと一緒に卒アルを見なくちゃいけないんだよ。
写真写り悪いし。だから昔から写真は嫌いだ。
「お? これはあーちゃんか? 相変わらずべっぴんさんやな」
「それ本人の前で言ってやれ。殴られるから」
「いや、冗談やろ? 」
「いや、マジだ。冷やかしで言ったら殴られた」
「それは嬉しがってるだけやろ。なんやねんその惚気話は。お前らまさか俺が居ない間に付き合っ……」
「無いから! あっちゃんが思ってるようなことは無いから! 」
「ほうかほうか」
めっちゃニヤニヤされる。
俺と渥美が付き合う?
まさか。
「へぇー、しーちゃんもあーちゃんも陸上部やったんや」
いきなり話を変えられた。
淳二は部活動それぞれの集合写真を見ていた。
「うん。渥美は全中に行った」
「マジで! あーちゃん凄いな! それでしーちゃんはどんなもんやったん? 」
苦い記憶だ。俺は中3の全国がかかった試合の前に部活を辞めた。
全国に挑む権利を自ら放棄した。
兄貴が死んでそんな精神状態じゃなかった。
だから言い訳程度に淳二には答える。
「俺は渥美みたいに凄く無かったから、全国は愚か県大会で敗退」
「え? ほんまに? 小学校の時あんなに足速くて運動神経良かったのにか? 」
「うん。中学行ったら全然敵わなかった。結局井の中の蛙ってことを思い知らされたよ」
「そーなんや。あのしーちゃんでも中学はレベル高い思うねんな」
「うん。高かった……」
嘘だ。
俺は越えられた。
でも俺の心の弱さがそれを邪魔した。
それから俺は弱くなっていったと思う。
その弱さを見せたくないが為に他人と距離を置いた。
家族とでさえも。
「うーん、やっぱりそう考えるとあーちゃんは凄いねんな! 」
「ああ、そうだな」
「またあーちゃんから話聞こ。俺の知らんあーちゃんとかしーちゃんとか知れそうやし。これからはみんなで話せるしな」
俺はこの発言に賛同することができなかった。
淳二は俺より人を惹き付けられる。
それに今日だってクラスの連中と親睦会的なものに参加するはずだった。
それを俺みたいなぼっちの為に時間を使っていたら、それこそ淳二も底辺カーストになる。
それは淳二の為じゃない。
「学校では俺と話さないほうがいい」
口をついてしまった。
淳二は驚いて俺に話しかけてくる。
「どういうことや? 」
「俺なんかと話したり俺のために時間を割いてたら、あつ……あっちゃんは友達……できないから」
「なんでや」
少し怒ってる口調で返してくる。
それでも続けるしかない。淳二の為に。
「あっちゃんは俺とは違う世界の人間だから」
「なんや! 違う世界の人間ってなんや! 」
本気で怒鳴られる。
関西弁だとより迫力が増している気がする。
「お前はトップカーストで俺は最底辺。それでも何もしなかったら平穏は守られる。それに俺と一緒に居るより、あいつらと一緒に居るほうが……」
「なぁしーちゃん。それは俺の為か? 違うやろ。全部しーちゃん自身の為や。俺に適当な理由を押し付けて自分を守ってるだけや」
違う! と言いたかった。でも言葉が何も出てこなかった。
「なんも言い返せへんねんな。それは図星やからや」
図星……か。
全くその通りだ。
「でもなしーちゃん。俺は俺の為にお前と話したいんや。しーちゃんだけやない。あーちゃんともクラスメイトとも」
「自分の為……」
「そうや。それに俺がカーストとかそんなもん気にすると思うか? 」
「いや……てか8年も離れてたから今のあっちゃんのことは分からない」
「それもそやな。でも俺は気にせん。話したいやつと、つるみたいやつとつるむだけや。今はしーちゃんと話したいから話してんねん。それだけや」
幼馴染みは離れてた8年で強くなっていた。
「あ、あとさっきは怒鳴ってすまんかったな」
気も遣えるようになっていた。
なら俺は何ができる?
わからないが、淳二は本心を言った。なら俺も……
「いや、俺もあんなこと言って悪かった。俺も8年振りに会えて嬉しいし、あっちゃんとかあーちゃんとかともっと喋りたい。あの頃みたいに」
「なんや。しーちゃんも俺とおんなじやん」
久しぶりに会えた幼馴染みがあの頃とほとんど変わらない接し方をしてくれたから、俺は少し素直になれた。
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