第6話
今日は変な1日だったなと思いながらベットに横になる。
海原に話しかけられて、一緒にご飯食べて、渥美が部屋に入ってきて、それで家まで送るとか、いつもの俺なら考えられない程の行動の数々。
当の本人が1番びっくりしてます。
さて、風呂も入って、歯も磨いて、やることもないのでさっさと寝ようと部屋の電気を消した時であった。
“いるか”さんが新しいcover曲を動画投稿サイトにアップした通知が来たのだ。
いるかさんは俺が1番好きなcover歌手である。
綺麗で優しい歌声で一目惚れならぬ、ひと聴き惚れ(そんな言葉あるのかは知らん)してしまったのだ。
動画再生回数はまだそこまで多く無いが、いつか見つかって凄いことになりそうな人だと思っている。
それより寝る前にいるかさんの新曲が聴けるなんて、今日は変な1日だったがそんなことは既に忘れて動画を再生していたのだ。
綺麗で優しく、透明感があって美しい。
言葉では表せられない程尊い。
良い気分で寝れる。
しかし何かが引っかかった。
聞いたことある声に聞こえて仕方なかったのだ。
ただいるかさんの歌声と寝る前ということもあり、深く考えずに眠りについた。
*
昨日いるかさんの歌を聴きながら寝たせいかよく寝れた。
今は何時かなと携帯で時計を見る。
……9:32……
……
やべぇぇぇぇぇぇぇ! ! ! ! ! ! !
遅刻した。
あと10分で1時間目が終わる。
初めは少し取り乱したが、ここまで来ると吹っ切れて、ゆっくり行こうという考えになってしまった。
ゆっくり登校した所で10分くらいで着くので2時間目からは授業に出れるなーとか考えつつ制服に袖を通し、家を出て自転車を漕ぎ出した。
学校に着き2年生の職員室に向かう。
この学校こと「白波高校」は職員室が学年で分かれている。
そのせいか職員室がある階層が学年の階層となっており、2年生は1階であるため、2年生の職員室もおのずと1階にある。
職員室に挨拶をしながら入る。
「失礼します。2年6組の及川です。遅刻したので証明書ください」
「また及川か」
学年主任が居やがった。
苦手なんだよな、学年主任。
女の先生で歳は既に50目前だろうという俺の予想。
俺の担任の佐藤恵先生とは美しさがかけ離れている。
はぁめんどくせぇと思いながらも会話をする。
「はい。また及川です。とりあえず2時間目までに間に合いたいのでお願いします」
「はぁ。遅刻なんて誰が転校生か分かったものじゃないね」
ん? こんな変な時期に転校生?
「転校生が来てるんですか? 」
「うん。それも及川のクラス」
「へぇー」
「興味無さそうね」
「まぁ。てか早く判子ください。2時間目まで遅れたらシャレにならないので」
「そうね。はい、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
そう言って2年生職員室を出て、教室に入った。
話題は転校生でもちきりらしく、多分転校生を中心に輪ができていた。
俺はそれを華麗にスルーして自分の席に座ろうとした。
「しーちゃん! ! 」
ん?しーちゃん?
それは俺が昔呼ばれてたあだ名であり、このクラスにしーちゃんと呼ばれる人はいない。
しかしその呼びかけが俺宛ではないはずなのだが、クラスは静かになっており、みんな俺の方を見ていた。
そして輪の中心人物であろう人が椅子から立ってこっちに来た。
うわ、なにあのイケメン!
俺が女なら一目惚れして告白して振られるまでの未来が見える。
てか振られちゃうの?
信ちゃん振られちゃうの?
バカバカしいことを一瞬で考えたあと、そのイケメンが爽やか笑顔で俺の前で立ち止まった。
「しーちゃん。ずっと会いたかった」
「だ、だれ? 君、今日転校してきた人? 」
もうなんで俺の事しーちゃんって呼ばれてたこと知ってんだ?
ちょっと関西弁混じってるイントネーションだし。
周りは知り合い? とか言ってるし。
こんなイケメンの知り合いなんて……
「え? 覚えてへん? 結構ショックやねんけど。俺は
川上淳二……
「あっちゃん……」
口からポロッと出ていた。
昔の5人組の1人という記憶が呼び起こされた。
「せやで! 思い出してくれたんやな! 小3の時に大阪に引っ越したあっちゃんやで! 」
「お、おう。久しぶり」
「いやー、思い出してくれて良かったわ。まさかあーちゃんとしーちゃんと同じ学校で同じクラスやとは思わへんかったわ。ほんま嬉しいで! 」
「う、うん。俺も、嬉しい」
ここでチャイムが鳴った。
「あ、チャイムも鳴ったしまた後で話そな、しーちゃん」
と言ってあっちゃんこと川上淳二は自分の席に戻って行った。
俺も自分の席に向かう。
途中で渥美と淳二が一緒に話している声が聞こえた。
なんか嬉しそうだった。
俺も淳二と久しぶりに会えて嬉しかった。
俺のクラスでの立場を考えなければ。
俺は席に着き、今日の2時間目の準備をする。
隣にはさっきまでの話を聞いていたのかどうかわからない海原がいた。
いつも通りの日常が少しづつ変わっているような、そんな気がしていた。
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