第39話
サーカスは毎年同じ時期に王都へやって来て、王都の端に約二ヶ月間滞在するという。
テントを張り準備を整え興行が始まるまでの期間は、王都全体が浮き足だったような雰囲気に包まれていた。
ジャック主導のサーカスへ遊びに行こう計画は、なんとも大それた大人抜きで子供達だけで行くと主張。流石に殿下たちもいるし無理だろう、と思っていたらまさかのオーケーが出たという。その連絡に驚いていたらレニーが裏で動いて、条件付きのオーケーなんだそうだ。
「いやぁ、こんなこと初めてですからねぇ。楽しみですね」
と、爽やかな笑顔で言ったレニー少年。今日はジャケットを着ず、シャツとズボンに小ぶりなカンカン帽というファッション。爽やかな美少年にとても良く似合う。
興行の宣伝ビラが街中を舞う中、何故か集合場所になったグリーウォルフ家に集まった子供達は総勢9名。私、セバスチャン、ジャックにブランシュ、レニーにアルゲンタムとアウルム。それからサーラにも声をかけ、そしてライアン…………いや、だいぶ大人数ですけど。大丈夫か? と少し不安に思いながら皆を見渡した。
大きいツバ付きの茶色のキャスケットに美しい銀色の髪を隠したアルゲンタムと黒縁眼鏡に茶色のかつらのアウルム。服装もシンプルに目立たないようにしているが、オーラがキラキラしてる気がする。二人の周りだけ発光する粉かなんか飛んでるのかと思うほど、二人の周りだけ空気が違うような……
ラフな格好でいつもよりテンションの高いジャックの隣にはブゥたれたブランシュの姿。気合い入れてお洒落して出かけようとした所をジャックに無理やり着替えさせられ、ご機嫌ナナメなんだそうだ。髪は三つ編みで地味な色味のワンピースという姿は好きな人とのお出かけを目一杯のお洒落で楽しもうと思っていた女の子にはテンションだだ下がりなのは確かだ。
サーラは薄水色のワンピース。かわいい。非常にかわいい! セバスチャンのシャツも偶然、薄水色でお揃い感がありまたそれが萌える。かわいい。かわいい。
可愛い二人にだらし無く頬を緩ませていると、後ろから腕を軽く小突かれた。
「おい。本当に俺も行くのかよ?! すげぇ場違いだって!」
「えーそうかな?」
今回、ライアンも行く事になったのは私とセバスチャンの希望もあるけど、母上のお願いでもあった。病弱のフェリックスくんこと私に何かあった時の為に同行して欲しいと言われ、渋々承諾したものの、ここに来て気後れしているライアンに私は笑顔を向けた。
「大丈夫だよ、ライアン。全然場違いじゃないよ」
「いやいや、大体な…………」
言いかけたライアンの言葉は高らかな笑い声に遮られた。
「はーっはっはっはー! 良い天気だなぁ、諸君!!」
響き渡るダンテの力強い声。
「…………あいつが一緒なら俺、必要ねぇだろ」
心底嫌そうにライアンは言いながら眉を寄せ、白い歯を見せ豪快に笑っているダンテを見ていた。
そう。今回の条件とは引率にダンテを付ける事。ダンテの登場に子供達の間に妙な空気が流れるが、それも一瞬の事でダンテがどこからか入手したサーカスの演目や付随している屋台の宣伝のビラにワイワイと彼を取り囲んでいる。
「まぁまぁ。私はライアンと一緒にサーカス見たいしさ。今日は私のワガママを聞いてよ」
「…………はぁ~仕方ねぇなぁ」
盛大なため息を吐きながら頭を掻いたライアンに私は礼を言った。
「さーって、皆揃ったし、行くぞーしゅば~つ!!」
元気良く片手を空へと突き上げ言ったジャックに倣い、私たちも勢い良く手を上げながらおー! と声を響かせた。
青空の下、風にそよぐ色とりどりの旗や張り巡らされたフラッグガーランドの下をたくさんの人たちが賑やかに歩いている。
大人も子どもも皆笑顔で立ち並ぶ出店の間を進む。喧騒の中、人々の進む先にサーカスの大きな白いテントの屋根が見えると子供たちから歓声が上がった。
「サーカスだ!」
いの一番に駆け出そうとしたジャックの襟首をすかさずダンテが掴む。
「はーーい! 勝手に走らなーい」
「ぐぇっ」
「ここで諸君に迷子になられては困るからな。さて、諸君!」
ジャックの襟首を掴んだまま、ダンテは私たちの顔を見渡した。
「これより先は私から離れず、二人一組で行動してもらうぞー! はい! では、二人一組で手を繋いで!」
「ふたり、ひとくみ…………」
ダンテの言葉に真っ先に動いたのはブランシュだった。
「アウルム様! わ、私と一緒に…………」
頬を染めながら思い切って言うが、語尾が小さくなり途切れてしまったブランシュにアウルムは笑みながら手を差し出した。
「お手を預けていただいても構いませんか?」
「は、はい〜」
うっとりとした顔でブランシュはアウルムの手に手を重ねた。流石、アウルム。メインの攻略キャラクター! 子どもの頃からその片鱗を見せるとは!
アウルムの見惚れるスマートな誘いにムムムっと唸っていると、私のすぐそばで別の唸り声がする。
「うぅっ。あう…………どうしよ」
声の主はセバスチャンで、私とサーラの顔を交互に見て泣きそうにオロオロしている。
私と手を繋ぎたいけどサーラとも手を繋ぎたいという、どっちか一人に決められないよ僕困っちゃう!! 状態。
う〜と唸っていたセバスチャンは、がっしと私とサーラの手を握った。
「僕、二人と一緒がいい!」
「そう来たか」
セバスチャンがどうするのか、ニマニマしながら見ていたライアンは呆れたような苦笑を浮かべ言った。
「まぁ、でも9人いるから1人余る訳だし。良いんじゃね? 3人一緒でも」
「ほんと?!」
途端にパッと目を輝かせたセバスチャンはダンテの顔を振り仰いだ。
「はっはっは! まぁ、良いでしょう!」
「やったー!」
「良かったですわ〜セバスチャン様」
ダンテからのオーケーに手を繋ぎあって体全体で喜ぶセバスチャンとサーラ。それを温かい目で見ていると、ふと視線を感じ無意識に振り向けば、アルゲンタムがジッとこっち見ている。
なんか、ちょっと不機嫌そうに見えるのは気のせいか?
そんなアルゲンタムはレニーとコンビを組むようで
「すみませんね、相手が私で」
「…………何のことだ?」
「ん〜」
しれっとした顔で言ったレニーを見ようともせずにブスっとした声音で吐いたアルゲンタム。そんな彼に涼しい顔でレニーは優雅に手を差し出した。
「さ、お手をどうぞ。殿下」
「………………」
無言でバシっとアルゲンタムはレニーの掌に手を叩きつけた。
「…………で、こうなる訳か」
「よろしくなっ!」
そして、最後はテンションが真逆のライアンとジャックの組み合わせ。とても良い笑顔のジャックにはいはい、と適当な相槌を打ちながらライアンはジャックと手を繋いだ。
「よ〜ぅし! みんな仲良くサーカスを楽しむぞー!!」
まるで幼稚園の遠足のようだとクスクス笑いながら、ダンテ教官を先頭にお手々繋いで二人一組で並んで歩く皆の後ろ姿を見たのだった。
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