第37話

「さて」


 今、私は庭のあのお気に入りのマロニエの大木の根本に座り、精霊たちと向かい合っている。

 いや、向かい合っているのは土の精霊だけで、火の精霊は胡座をかいて座る私のお腹辺りでゴロゴロと甘え、風の精霊は私の頭の上に半身を預け、足をパタパタさせている。


 土の精霊はちょこんと大人しく私の前で座っているが、帽子を目深に被り前髪で隠れた目が羨ましそうにこちらの様子をうかがっているのを感じる。


「はいはい、君たち。ちゃんとここに座って」


 火の精霊と風の精霊を土の精霊の隣に行くように促し、私は腕組みをした。


「うーん、一緒の経験を増やすかぁ」


 と言っても何をしたら良いのやら。まぁ、遊びでも良いみたいなことを言っていたし、とりあえず…………


「名前を付けようかな」


 精霊たちを見ながら言うと、風の精霊は頭の綿毛をふわふわ揺らしながら上下に跳びはね、土の精霊は胸の前で手をモジモジとさせながら小さく何度も頷き火の精霊はキュと小さく頭を傾げた。

 その可愛い様子に自然と顔が緩みながら、私は考える。


「えーっと、じゃあねぇ。風、風だから~フゥちゃんはどう?」


 安直と言うなかれ。分かりやすくて呼びやすくて可愛い名前が一番。という訳で、風の精霊に提案してみると、気に入ったのか大きく何度も頷いてくれた。

 次に土の精霊を見る。とんがり帽子の先が小刻みにプルプル揺れてるのは風のせいでは無い。


「んーっと、土。土だから、ツッチー? ど、ドンちゃん? んーしっくりこないなぁ。土~」


 土といえば、地面。大地。大地…………


「ダイちゃんはどうかな?」


 そう指を立てながら言った私に土の精霊は頬がほんのり赤くなり、小さく一つ頷いた。


「うん。じゃあ、決まりだね! それから」


 と、火の精霊を見る。


「火……炎……だからエンちゃん!」 


 キュイキュイ、と首を2回振り上げ火の精霊は赤い体を揺らした。

 三者三様に喜びを体全体で表現してくれる精霊たちがなんとも可愛く、私は胡座から正座に座り直すと、精霊たちへ深々と頭を下げた。


「これから宜しくお願いします」


 私の真似をして、精霊たちもピョコピョコと頭を下げる姿が本当に可愛くて、癒しだなぁ~と1人和んでいると下草を踏む足音が聞こえてきた。


「フェリックス? 何してんだ?」

「ライアン」


 スコップを担ぎ、不思議そうな顔をしていたライアンだが、私の前に並ぶ精霊たちを見て益々怪訝な表情に変わった。


「なんで風の精霊と火の精霊までいるんだ?」

「あーえっと、これはね…………」


 私は風の精霊と火の精霊と絆を結ぶ事になった経緯を説明しつつ、ウィルスからの宿題の事も話をした。


「へぇ。つか、なんだよソレ。羨ましいぞ! 俺も欲しい!!」

「ええっ?!」

「俺は土の精霊がいいな。そうすりゃ、いちいちスコップなんか使わなくて済むし。あーあと、水の精霊も欲しいなぁ。水かけの苦労が減る!」

「はははっ」


 ものすごく現実的な事を言うライアンに思わず笑いがこぼれる。


「そっかぁー確かに、庭仕事には土の精霊と水の精霊も居た方が便利だろうね」

「そうそう」


 大きく頷いたライアンは、土の精霊のダイちゃんと顔の高さが同じになるように地面に這いつくばり真剣な顔で


「なぁ、無絆の土の精霊がいたら俺に紹介してくれ! 頼む!」


 と言った。

 恥ずかしがりで少し人見知りのあるダイちゃんは、急にライアンに詰め寄られてビックリしたのか土の中に慌てて潜ってしまった。


「ああっ!」

「ははっ。ダイちゃんには後で私からもお願いしとくよ」

「ちぇー頼んだぜ。はぁ~あ。それまではエッチラオッチラ穴掘りか」


 やれやれ、と立ち上がったライアンに釣られて私も立ち上がる。


「ねぇ。それさ、私に手伝わせてくれない? ウィルスが精霊と一緒にやる経験を増やすと良いって言ってたからさ。色々やってみたいんだ」

「そんなのいっつでも大歓迎! むしろ代わって欲しいくらいだ」

 

 私の持ち掛けに両手を広げて満面の笑みで即答してきたライアンに苦笑するが、それはこっちも願ったり叶ったり。


(ライアン、木の精霊との意志疎通も上手いから、色々教えてもらおうっと♪)


 互いの利害が一致した私たちは足取りも軽く歩き出した。 

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