第7話
「父上。フェリックスです」
硬い木の扉をノックしながら中へと声をかけると、すぐに
「入りなさい」
と、地から響くような低いヴィクトーの声が返ってきた。
扉を開け中に入ると、正面奥に置かれた大きい書斎机にヴィクトーが腰掛けている。部屋の左側の扉に近い位置にはヴィクトーの机よりは小さめの書斎机が置かれており、今はその小さめの書斎机の横にアシルが立っている。
机仕事をする為だけに設えたような簡素な部屋で、父上は相変わらずの険しい表情でこちらを見ていた。そこから内心を読み取ることはなかなか難易度が高い。
「何かご用でしょうか?」
睨むように私を見てくる父上に穏やかな口調を意識しつつ尋ねると、うむ、と短く唸りヴィクトーは口を開いた。
「強く、なりたいそうだな」
「え?」
「ケヴィンに、料理のメニューを、渡したと……」
あぁ、と私はアシルを見た。
父上のちょっと要領を得ない話し口はいつもの事なので、すぐに補足の形でアシルが言った。
「先程の厨房での事を旦那様にお話いたしました。そうしましたら、フェリックス様とお話がしたいと申されましたので」
「体を強く、したいと……?」
アシルの言葉に繋げるように、ヴィクトーはまた聞いてくる。
小さく首を傾げながら、私は頷いた。
「はい。あまりに体が弱くて、病気ばかりの上にケヴィンたちの作った料理を残してばかりなのが申し訳なくて。それに、セバスチャンとおもいっきり走り回りたいんです」
「…………そうか」
小さい声で言って黙った父上に、私はますます首を傾げる。
「父上?」
「……………私も何とかしよう」
「え?」
「……………任せなさい」
「え………あ、はい?」
真意が汲み取れず、疑問符だらけな返事をしたのだが、特にそのことは父上には気にするところでは無く、私に自分の意思を伝えられた事に満足したようで、やや険しい表情が和らぎ私を見据える。無言で。
(え………なに? え? どうしたらいいの?)
流れる沈黙に、どうしたら良いのか分からず固まってしまった私の肩にアシルが優しく手を添える。
「色々決まりましたら、お伝え致します。それまであまり無理せずお過ごしくださいね」
「あ、うん……」
扉へ促しながらそう言われたが、いまいち消化不良状態の私がアシルを見上げれば、胸中を理解したのだろう。アシルは小さく頷いた。
「まぁ、ご心配なく」
苦笑混じりに、私だけに聞こえるよう小声で言ったアシルにとりあえず私は頷いた。
そんな私に、今度は謝辞の意味を込めた頷きを彼はすると、扉を開けた。
「それでは父上。失礼致します」
ヴィクトーを振り返りお辞儀をすると、満足そうに頷く父上。
書斎を後にし、私は首を傾げた。
「…………う~ん。なんだったんだろう?」
歩きながら、私は腕を組み唸った。
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