第15話
肩まで伸びた銀色の髪。涼やかなサファイアのような青い瞳。通った鼻筋に薄い唇。
サーラも金髪小生意気少女もお人形のようだったが、アルゲンタム王子もまた浮世離れした美しい容姿をしていた。ただ、二人と違うのは、まるで氷のような冷たい目をしていること。
少し離れている、まるで浮世離れした容姿のアルゲンタムへ私は恭しく一礼し
「はい。実は、ここでお菓子を
と、私は微笑んでアルゲンタム王子へと答えた。
答えたのだが、心の中で私は少し首を捻った。
セバスチャンとサーラが緊張しているのは当然の事だが、何故かアウルム王子たちの周りにも先程とは違い、張りつめたような空気を感じる。
「
アウルム王子と同じように聞き返してきたアルゲンタム王子だったが、その表情から感情を窺い知ることはできない。
「はい。お菓子のその造形の美しさを
私の説明をアルゲンタム王子はただ黙って聞いていた。
私たちの間を沈黙が流れる。
「…………あの、殿下?」
あまりに無言のままのアルゲンタムに痺れを切らし声をかけると、王子は長い銀糸のような睫毛を上下に揺らし、私とお菓子の皿を見比べた。
「…………それほど、良いものか?」
「え?」
「お菓子は、そのようにしてまで食べる価値があるものなのか?」
何を言っているのだろう、この子供は。
私は、心の奥がキュッと薄ら寒く締め付けられるような感覚に一気に冷静になった。
男の子で甘いお菓子に興味がなかったとしても、己の好き嫌いの感情で物事を判断してもおかしくない年齢の子供が『価値』を判断基準に持ってくるのか? 一体、何をどうしたら、この美しい子は自分の気持ちから湧き出るものではなく、社会の一部が決め付けたものに寄り添おうとするのだろうか。
悲しい言葉だ、と私は思った。だが、アルゲンタム王子はそうは思っていないようだった。
そんな無表情のままの王子に私はニッコリと笑む。
「価値があるかないかは、私には分かりません。ですが、私はお菓子が好きです。大好きです。大好きなお菓子を余すことなく愛し、楽しみ、味わい、言葉にし褒め称えることがお菓子を作ってくださった方への感謝と尊敬を表すと私は思っております」
真っ直ぐアルゲンタム王子の冷たさを感じる瞳を見つめ、私は目元を緩ませる。
「このパーティーの為に心を込めて食べてくれる子たちの事を思い美味しく作ってくれた方々と、美味しく美しいお菓子たちに感謝し、私はこれからも有り難く頂くつもりです」
「…………ふむ」
しばらく間があり、一言唸ったアルゲンタム王子の挙動をその場の全員が固唾を飲んで見守っている。
もちろん私も内心冷や汗ものだ。
まだ年端もいかない子供にこんなに緊張するなんて。王族はやはり子供の頃からオーラが違うのか?
そんな事を考えているとゆっくりアルゲンタム王子が歩を進めて大地のテーブルの側までやって来た。
「アルゲンタム殿下?」
金髪小生意気少女が少し狼狽えたように声をかけるも、まるで少女の存在など目に入っていないかのように無視し、私の隣に立った。
「では、私も1ついただこうか」
「兄上!?」
アウルム王子が驚きの声を上げ、続いて金髪小生意気少女とその兄も目を丸くした。
「おーすごい珍しい事もあるもんだな、アル! いやーいいね!」
と言った金髪小生意気少女の兄はそういえば、とキョロキョロと周囲を見渡した。
「そういえば、レニーはどうしたんだ?」
「…………さあな」
少年を見ることもなく素っ気なく返すアルゲンタム王子に、少年とアウルム王子は苦笑を浮かべる。
「兄上。レニーをまた巻いたのですか? あまりレニーを困らせてはそのうち…………」
「殿下! アルゲンタム殿下! こんなところにいた!!」
ドスドス、と足音が聞こえそうなくらい地面を踏みつけ、顔一杯に不機嫌な表情を張り付けたダークブラウンの髪の少年がパーティーの人混みの中から私たちの方へとやって来るのが見えた。距離が近づき、その顔がはっきり分かると私は固まってしまった。
ねこっ毛の柔らかそうなダークブラウンの髪にぱっちりとした大きなダークブラウンの瞳。甘いマスクの美青年になるであろう彼の右目の下には涙ぼくろが1つ。
レニー・ダンゲル。テール王国の宰相であるダンゲル公爵の第一子。そして、乙女ゲーム『精霊学園~キミとつなぐ絆~』の攻略対象キャラクターの1人であり、私が初めてで最後のプレイをした時の対象キャラクター!
主人公より1歳年上で、アルゲンタム王子より1歳下だが、宰相の息子ということと、良く気が利く性格に加えアルゲンタム王子が唯一拒否しないという理由からお目付け役を命ぜられている。アルゲンタム王子の言動に振り回されながらも、周りの先輩後輩の世話も焼くという苦労人っぷりに当時の自分を重ね、選んだのだ。
レニーの事に気がついた私は、ハッとなる。
(…………ちょっと待って。ここに居る子たちって私以外、ゲームの主要キャラクターじゃ………!?)
サーっと自分の体の中の血がどこかへ引いていく音を聞いたような気がした。
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