第5話毒殺

「うっぐぇうえぇう、痛い、痛い、痛い、助けてくれ」


 私の目の間で、屑男が血反吐を吐いて苦痛にのたうちまわっています。

 一カ月の時間をかけて、徐々に毒を盛り、ようやく致死量に達しました。

 これでもうこの男は助かりません、後は徐々に内臓が腐り、激痛に苛まれながら死んでいくだけです。

 浮気現場を見つけてからひと月、ようやくこの時が来ました。


「いいわ、貴男、私が助けてあげます、ですからすべてを教えてくださる」


「なんだ、ウ、痛い、痛い、痛い、何をしている、直ぐに医者を呼んでこないか!」


 愚かな男、私がまだ自分の事を愛していると思っている。


「ねえ、貴男、今まで何度私を裏切って来たの?

 幾人の女と浮気をしてきたの?

 全て教えてくださって、叩頭して詫びてくださるのなら、今回だけは解毒剤を差し上げてもいいわよ。

 ふっふっふっふっ、アッハッハッハ!」


「な?!

 毒か、毒を盛ったのか?!

 うっううううう、うっげぇええええ!

 この悪女が、夫に毒を盛るなど毒婦の所業だぞ!」


 血反吐を吐きながら、内臓が腐っていく苦痛に苛まれながら、私を罵ります。

 その罵りの言葉が、苦痛に苦しむ悲鳴が、耳に心地がいい。

 もう何を言おうと、どれほどの医薬を駆使しようと、助かりはしない。

 私が使った猛毒を打ち消す薬は、この世に存在しない。


「私の真心、恋心を踏み躙ったのだから、当然の報いです。

 さあ、今まで何度裏切ったのか、どのような女と浮気したのか、言ってもらいましょう、頭を地に叩きつけて詫びてもらいましょう」


「おのれ、この毒婦が、うっ、うううううう、痛い、糞。

 よこせ、その解毒剤を寄こせ、ウっ、糞、痛い、痛い」


 それなりの武術の腕も、毒に冒された身体では発揮できないのです。

 痛みのために、反射的に身体が反応してしまいます。

 どれほど私を恨み報復しようとしても、内臓が腐る痛みで背を丸めてしまいます。

 いえ、恨むのも報復するのも私の権利で、この男にそんな資格はありません。

 激痛に悶え苦しむ方法で、私に殺されるのが当然なのです。


「ダメよ、さあ、全てを白状しなさい。

 私を馬鹿にした女は、全員報復を受けるのよ」


「ふっふっふっふっ、アッハッハッハ。

 馬鹿にした女だと、うっくっ、お前のような愚か者は馬鹿にされて当然だろうが。

 俺に誑かされて、伯爵令嬢の座を捨ててこんな婆になったのだからな。

 どうせそれは解毒剤じゃないんだろう、もう俺は助からないんだろう。

 だったら教えてやる、お前がどれほど馬鹿で愚かなのかをな!」

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