第4話召喚

 命懸けの魔族召喚による呪殺法、知らない訳ではない。

 だが、実際にやれるかどうかは分からない、だって命懸けの方法だから。

 魔族を召還するには、自分の魂を魔族に渡さなければいけない。

 自分の望みを適える事と引き換えに、魔族に魂を売りわたすのだ。

 だから実際にやった人間から教わる事などできない。

 実行した者は、望みと引き換えに死んでしまっているのだから。


 だが、それでも、実力や地位や身分差から、表の方法で願いをかなえられない者が、最後の手段として用いるのが暗殺と呪殺だ。

 暗殺は、犯罪者ギルトや独自の手先を使って相手を殺す方法だが、呪殺は自分の魔力や魔族の魔力を使って、憎い相手を殺す方法だ。

 私に魔力があれば、それを使って呪殺を行うのだが、哀しいかな私に魔力はない。


 どの貴族家にも、独自の魔族召喚の秘術が伝えられている。

 実際に魔族を召還できるのか、召喚できたとしても、本当に望みを適えてくれるのか、真実は誰にも分からない。

 単に魔族に自分の魂を奪われるだけで、望みが適えられない可能性もある。

 だが、それでも、どの貴族家の当主も、最後は魔族の呪殺に頼るのだ。

 全ての貴族家に伝えられているのだ、嘘偽りのはずがない。


 まあ、全ての家に魔族召喚の秘術が書として伝えられているからこそ、誰も敵対する相手を最後まで追い詰めないように自制心を利かせている。

 余りに追い詰めれば、魔族を召還して差し違える覚悟を決めるかもしれないから。

 だから実家の伯爵家も圧力をかけられる事はあっても、家名と血統を絶やすほどには追い詰められはしないし、実家も誰かを限界以上に追い詰める事はなかった。


 それなのに、恋のために自ら家を出た私が、魔族を召還しようとするなんて、なんと情けない事なのでしょう。

 自分の愚かさに涙が流れそうになりますが、泣く事はできません。

 自分の愚かさが招いたことで泣くようでは、伯爵令嬢の誇りが傷つきます。

 騙されたのは仕方がありませんが、泣く前に報復するのが貴族です。

 だから、毒殺と同時に、魔族召喚の準備もしましょう。


 魔族召喚に必要な生贄と供物は、貴族なら簡単に集められるものですが、今の貧乏な暮らしをしていては、時間をかけて少しずつ集めるしかありません。

 これも陶器の毒薬保存と同じで、一年二年の準備が必要になります。

 貧しさとは、本当に情けないものです。

 恋に眼がくらみ、騙されている事も分からず、実家を飛び出した愚かな行為の報いですから、仕方がない事ではあるのですが、思わずため息が出てしまいます。

 いえ、ため息をついている時間があるなら、働いて復讐の資金を貯めるのです!

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