第3話外面似菩薩内心如夜叉

「いやあ、このスープは美味しいなぁ、久しぶりにこんな美味しい料理を食べたよ」


 浮気を始めてから、歯の浮くような言葉を並べ立てる。

 伯爵令嬢の頃に、初めてこの口舌に騙され、つい最近まで正体を見破ることができなかった、本当に私は愚かだった。

 この男の正体が分かって、ようやく冷静になれて、色々思い出す事で、やっとこの男の不実な性根を見抜けるようになった。


「そう、よかったは、でも、あまり量がないのよ、だから全部貴男が食べて、私の愛するダーリン、ねえ」


「ああ、ありがとう、最近は身体の調子が悪くてね、思うように動けないんだ。

 何時も君には苦労を掛けるね、このスープを飲んで、一日も早く身体を治すよ。

 そしてもう君に苦労を掛けないように、精一杯働くよ」


 以前の私なら、この言葉に騙されて、一生懸命働いていた。

 だけど今なら分かる、この言葉は、私にだけ働かせて自分が楽をするためと、私を抱かなくてすむようにするためだ、他の若い女を抱きたいのだ。

 人を働かせて自分が楽をする事を考える、性根の腐ったどうしようもない怠け者。

 私にように衰えた容姿の女など抱く気にならず、若くて美しい女を抱きたいのだ。


 一カ月だ、一カ月このスープを飲ませ続けられたら、激痛の中で殺す事ができる。

 その間に、この男を情を通じて、私を馬鹿にした女を探し出す。

 探し出して、必ず復讐する、私の男を寝取った報いを受けさせる。

 絶対に許さない、許せるわけがない、私の一生を賭けた恋を無残に打ち砕いたのだから、生まれてきたことを後悔するほどの報復を与える。


 だが、簡単には殺さない、楽に殺してなるものか。

 苦痛と恥辱にまみれた人生を、永く生きなければいけなくしてやる。

 その為の準備として、少しずつ毒液を用意している。

 それは花からとれる、皮膚にかければ焼け爛れる恐ろしい毒液だが、どうしても少量しか集められないし、入れておく容器も限られている。


 恐ろしく強力な毒液だけに、木や金属の容器だと溶かしてしまう。

 ガラスや水晶、もしくは陶磁器でなければ安全に保管できない。

 今の私には、とても高価なガラスや水晶の容器は、絶対に手に入れられない。

 磁器も高価なので、頑張っても陶器くらいしか購入できない。

 それも、一年や二年は節約しなければ無理だろう。


 まずはこの男を毒殺して、一年後か二年後に女も殺す。

 それくらいの年月で、私の恨みが消える訳もないが、他に方法もない。

 それとも、悪魔に魂を売って呪殺する方がいいだろうか?

 あの女の顔を焼く以上の復讐方法があるのなら、悪魔に魂を売っても構わない。

 恨みを晴らすことができるのなら、なんだってやる!

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