第6話 村長の提案

ラックはメーラレン湖に小舟を浮かべ

魚釣りをしながら物思いにふけっていた


「昨日のあの出来事 

葵ちゃんにいったい何が・・・」


■□■◆◇


ラックは葵とデムの実の運搬を手伝い

葵と父と3人でランチを食べる為に

サラの店にやってきた


サラさんは葵の境遇に

心を打たれ ガデム地方で由緒ある

伝統的なパサラ料理を

葵にご馳走してくれた


葵はパサラ料理を出された時

あきらかに様子が変だった

何かに取り付かれているような

夢遊病になっているような

心がここにない様子に見えた


そして意識を失った10分ほど...


最初疲れて眠ってしまったのか?

と心配したがどこか違う

世界に行ってしまったような・・・


ラックは葵が自分の手の届かない所に行き

このまま戻ってこないのではないか?

とても不安に感じた


「葵ちゃん!

 葵ちゃん!! 大丈夫?

返事してよ!葵ちゃん!!!!」


以前、ダンの作業小屋の前で 

意識を失い倒れていた葵を思い出し

ラックの胸は痛んだ!


「早く、早く 

目を覚ましてよ!」


「ラック?

私・・・今どこに?」


葵のまわりには父ヨーデルとサラさん

心配そうに見つめる大人たちが大勢集まっていた

その中に背が高く恰幅の良い男性が


「きっと疲れたのかもしれないな?

今から家まで送り届けてあげたいが

馬車に揺れて帰るのは

負担かもしれない・・・」


「葵ちゃん

今晩わたしの家で泊まっていかない?

あなたとゆっくりお話がしたいの!!

それにさっきの様子・・・」

(サラさんも何か様子がおかしいような・・)


ラックは大人たちの会話を聞き

葵にとって ダン(父)のもとに

帰らなくてもいい方向になれば!

と心から願うのだった


「わたし家に帰ります!

父さんが待っているので

それに17時までに帰るって

約束してるんです!」


「みなさんの親切に 

心から感謝しています」


葵は自分に言葉をかけてくれる

大人たちに 心底感謝している様子だった


「可哀想に・・・

人の優しさがどれほど大事か!! 

12歳の女の子が 人に気を遣ってどうするんだい!

もっとわがままになっていいだよ!」


「葵ちゃん安心しな!

父さんにはきちんと私から話をしておくから!

今晩はわたしの家に泊まるんだよ!いいね!」

(サラが力強く語った)


その後 ラックは一人で

家に帰ることになったのだが


父ヨーデルとサラさん 

そして店に来ていた恰幅のいい男性

3人が真剣な顔で話し合っているようだった


「何を話しているんだろう?」

ラックはとても気になったが

後ろ髪ひかれながら帰宅したのだった


■□■□◆◇


ラックはメーラレン湖での釣りで

エンゲルを3匹釣ることができた


「あっ!そうだ!

この魚をサラさんに届けにこう!」


葵ちゃんが気になるし

会えるかもしれないから


ラックは舟から飛び出すと

サラの店へと急いだ!


「こんにちは

サラさんいますか?」

ラックは店内に顔を出すと

いきなり目に飛び込んできたのは

可憐なレースのエプロンを身につけた葵だった!


「葵ちゃん!?

何してるの?」


その姿は・・いったい?

ラックは可憐な

葵の姿に見とれてしまう


驚いているラックに

サラが声をかけた


「実はね!葵ちゃん今日からこの店で

働いてもらうことになったの!」


「ええええええええ!!!」

(ラックはかなり驚き

嬉しさが込み上げてきた)


昨晩 父とサラさんと

一緒に話をしていた男性はガデム村の村長だった


以前から父ヨーデルから

葵の境遇と父から受けている仕打ちを聞き

村長として、何か力になれないか?

ずっと考えていたとのこと


昨日 村長が直々に 

葵の父ダンの家まで出向き

男手ひとりで幼い女の子を

育てるのは大変だろうから

しばらくガデムの町全体で

葵の面倒を見る意向を示したのだ!


ダンは葵を労働者扱いにしており

貴重な労働者を失いたくないと

思っていたようで

最初はかなり渋っており

村長の申し出を断っていたそうだ

しかしダンに対して

断れない提案が決め手となった!


それはガデム村で以前より取り組んでいた

村事業があったそれは

エーランド島南部にすむ

ラシュール人との事業提携があり


リムラ村の特産品であるデムの実を

エーランド島でも栽培したいと

申し出があったのだ!


ダンは性格的には問題があるが

デムの実栽培に関してはかなりの知識があり

腕の良い農家のひとりであった


ガデム村長はダンとリムラ村で

デムの実栽培を営む

農家に対して、報奨金を出すので

1年間ラシュール人に対して

デムの実栽培の指導をするように

正式に依頼をかけることになったのだ


ラシュール人は体格がよく

農作業するには適しているといえる

実際、他の作物を育てているので

1年間で栽培方法は十分習得できると

村長は判断している


この申し出にダンは

デムの実栽培の指導は面倒だが

良い労働力が来てくれることは

嬉しい提案であったので受けることにした


その話を聞きラックは飛び上がる程の

歓喜で胸がいっぱいになった

「良かった!

本当に良かった!!」


ラックは思わず葵の手をとり

抱きしめたい衝動にかられたがさすがに・・・

思い留まった


「恥ずかしいよラック!

手を・・・離して!」


その様子をサラも

嬉しそうに眺めていた


「ラック!!

葵ちゃんをお嫁さんに

もらうには10年早いよ!」


「えっ!お嫁って!!」

(ラックの顔は真っ赤に・・・)


「さぁ!帰った!帰った!

私も葵ちゃんも

店の仕事が忙しいんだ!:」


ラックは追い出されるように店を出た


「まぁ!いいか

サラさんの店ならいつでも来れるし

これから毎日だって会えるんだから!」


ラックはこれからの生活に期待

を大きく膨らませるのであった



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