第7話 そして、すぐに武士が出て来た公家邸の前にくると
そして、すぐに武士が出て来た公家邸の前にくると、障子に向かって生首を投げつける。
生首は障子を突き破り、何事だと中に居た公卿たちは慌てふためき、それが、先ほどまで、和宮降嫁を阻止しようと計画を画索していた武士たちの生首であることに気が付くと、震えあがっていた。
その騒ぎを聞きつけた警備の者が、部屋に踏込むと、すぐさま、公家はその者たちの影に隠れて、指示を出す。
「ろ、狼藉者じゃ。早く探し出して捕えろ」
「まったく、声が震えているぜ。気のちいせえやつは大人しくしていればいいのに」
大和は、自分の探索命令の声を聴いてから、ゆうゆう貴族邸を脱出して、巫矢や平次の待つ場所に返ってくるのだった。
「早くずらかろう。追っ手が来たら、また、切らなくちゃならない」
「そうそう、目立ったらいけないのよね」
とりあえず、死体を担ぎあげると、加茂川まで担いで行き、川に投げ棄てるのであった。
「まあ、死体を見つけられても、頭がないから、素性については何もわからんだろう。薩摩の攘夷派が、京都に大勢潜伏していることだしな」
平次が大和や巫矢に安心させるよう呟(つぶや)く。それを聞いて、大和は疑問を投げかける。
「平次さん、なんで、攘夷派が、将軍の首を狙うんだ。狙うのは外国人の首だろう」
「ははっ、なんでだろうな? うちの姫の話では、尊皇攘夷派が、公家と結びついて、倒幕派になっていくとのことだが」
「じゃあ、公家が一番悪いのか? 」
「わしたち過去の諜報についても書き伝えが残っているが、どさくさに紛れて幕府を潰そうとするのはいつの世も奴らのお家芸だからな。でも、姫さんの言うことでは、この婚姻決して良い方には転ばないらしい」
「何でだ? 」
「婚姻の条件に、孝明天王が攘夷の期限を設定したのさ」
「ということは、いよいよ、外国どもとやり合うのか?」
「どうかな、このあと、大きな事件が京都で起こるらしい」
「大きな事件? 」
「ああ、薩摩の殿さん、島津久光だったかな。朝廷の権威を利用して、自分が幕府の政治改革をしようと上洛する予定だ」
「ふーん。あの公家はどうする?」
「ああ、その事件で力を失うことになるらしい。さっきの事件がトラウマになって、表立って動くようなことはないだろう」
「なら、良かった。俺のやったことは無駄にはならなかったか」
そして、死体を川に流すと三人は闇に消えた。
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そして、一八六二年四月、朝廷に命じられた島津久光率いる治安維持部隊が、伏見で尊皇攘夷挙兵を企てていた、薩摩藩浪士の有馬新七らが、集まって軍議を開いていた薩摩藩船宿、寺田屋に乗り込み「上意討ち」し、有馬新七らが計画していた、公武合体派の公卿たちを討とうとする挙兵は失敗に終わった。
しかも、島津久光の治安取り締まりは、京都に集結していた過激派攘夷志士たちの動きを封じることにもなった。
これが、後の寺田屋事件である。
しかし、この事件の影で、有馬新七たちの味方に付くはずだった公家たちがある事件のため、日和見を決め込む。
結果、朝廷が島津久光に京都の治安維持の命令を出すことを、止めることが出来なかったという事実は、どの歴史書にも書かれていない。
京都から尊皇攘夷派を一掃した島津久光は、朝廷からの信頼を得ることに成功し、朝廷に働きかけた結果、幕政改革の勅使を派遣することに朝廷が決定した。
島津久光は、その勅使随従を朝廷から命じられたのである。
そして、志士たちの意向を取り入れた三事策を幕府に要求し、さらに公武合体政策を推し進めるため江戸に向かうことになったのだった。(文久の改革)
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一方、大和たちは、公家屋敷町で、過激攘夷志士を切り、公家に暗黙の脅しをかけた後、島津久光と同じく、江戸を目指していた。
「大和、巫矢、この先は、わしの担当している地域ではないので、わしは行けない。だが、影の一族がお前たちの行動をちゃんと支援することになっている。
それで、わが姫さんの言うことには、横浜の生麦村というところで、島津久光殿と外国との間で事件が起こるらしい。この事件の後処理を優位に進められるように手を打てとのことだ」
「平次さん、なんか難しいことをいうなあ。どんな事件が起こるんだ? 」
「それが、わしにも詳しいことは分からん。生麦事件とだけ姫は言っていた。現地を担当している影の一族から聞くしかないだろうな」
「生麦事件だから、麦を生で食べてお腹を壊すんじゃない? 」
「巫矢さん、悪いけどそれはないと思う」
巫矢のトンチンカンな回答に、どう突っ込んでいいのか分からず、普通に返す平次。
「巫矢、行ってみればわかるさ。なにせ、千里眼を持つ姫様の言うことだ」
まあ、何かが必ず起こる。姫さんの千里眼は今まで外れたことがない。ところで、大和、わしたち一族の合言葉だが、レアという。このように袖口の破れから黒い裏地が見えているやつにレアと声をかけろ。お前らの風体はすでに一族に伝わっているはずだ」
「レア? なんだそれは? 」
「姫さんの名前だ。玲愛と書いてレアという」
「なに、そのキラキラネーム。信じられない」
思わず、叫ぶ巫矢。
「キラキラネーム? 確か姫さんも言っていた。親がとんでもないオタクでガチャで珍しいものをレア物言う意味から、名前を付けられたと言っていたが。お前なんか知っているのか? 」
「オタク、ガチャ、なにそれ、私にはわからないな?」
「まあ、まあ、平次さん。巫矢は時々訳の分からないことを言うんだよ。こいつ変な奴だから気にするな。それに合言葉は分かった。それじゃあ、生麦村に向かうからここでお別れだ」
「ああ、達者でな」
大和と巫矢そして平次は別れ、大和と巫矢は東海道を進むのだった。
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