第2話 カレンとの救助(レスキュー)

 救助ギルドの仕事は――勇者の棺桶を回収することだけじゃない。

 この大陸には【災害】と呼ばれる自然界によるモンスターの召喚現象が存在する。

 最も有名なのは【五大災害】とたとえられる怪物たちだ。


・火災竜

・水害竜

・地震竜

・暴風竜

・轟雷竜


 これらの【大災害】は、出現すれば国家を転覆させるほどの脅威とされている。

 抗うことのないほど強大な【災害】から、人命を救助することも救助隊員の仕事だ。

 そんな俺たちは今――


「う~ん、今日はいい天気でポカポカして気持ちいいなぁ」

「そうね。わんちゃんたちも大喜びみたい」


 犬の散歩をしていた。


「わんこは可愛いなぁ。見てるだけで癒される」

「レスク、これも救助活動の一環なのよ。気を引き締めなさい!」


 厳しい口調を俺に向けた銀髪の少女は――カレン・アリスブール。

 彼女は救助ギルドの同期で、俺の相棒バディでもある。


「そういうカレンも、さっきからニヤニヤだぞ?」

「あ、あたしはそんな顔してないわよ!」


 頬をうっすらと染めながら、ツインテールを振り乱す。

 それがぺしぺしと俺の頬に当たった。

 普段はクールなカレンだからこそ、動揺しているのは明らかだ。


「でも仕方ないよな。わんこ、可愛いもんなぁ……」

「それは認めざるを得ないわよね」


 このわんちゃんたちは、ルミナスに居住している商人さんのペットだ。

 しかし山道を越えた村に行商に向かった際、モンスターに襲われ足に怪我を負ってしまった。

 その商人さんの救助任務を担当したのが俺とカレンだった。

 そんなご縁があって、今回は犬の散歩という救援依頼が俺たちの元に届いたのだ。


「こういう仕事もいいわね~」

「ああ、これも立派な救援レスキューだ」


 人命救助に関してはギルドとして最優先され 誰かの助けになること――それも一つの救助救援レスキューの形だ。


「ね、ねぇ……レスク」

「うん?」

「わんちゃんを見ていると、もふもふしたくならない?」

「まあ、もふりたくなるわな」

「じゃ、じゃあ――もふっても、いいと思う……?」


 カレンは瞳を輝かせた。

 わんこたちをもふりたくて仕方ないのだろう。


「俺にじゃなくて、わんこたちに聞いてみたら――」

「わんっ! うぅぅぅ! わんわんっ!」

「わんわんわんっ! うううううっ!」


 突如、大人しかったわんこたちが吠えた。


「えっ!? そ、そんなにあたしに触れられるのがイヤだったのかしら?」

「そうじゃないと思うが……」


 吠えている咆哮に視線を向けた。

 するとバッ――と、勢いよくわんこたちが駆け出して、握っていたリールが手からするりと抜けてしまう。


「あっ!?」

「一体、どうしたの!?」


 俺たちは慌ててわんこたちのあとを追って行く。

 すると森の中に入って行って――。


「うぇ~ん……」


 少し先から子供の泣き声が聞こえた。


「レスク、今の――」

「ああ、近いな」


 少し先でわんこたちが足を止めた。

 すると見えたのは一本の木を囲むモンスターたち。

 そして脅えるように震えながら、木の幹に背を預ける少女の姿だった。


「わんっ! ううううっ! わんわんわんっ!」


 わんこが吠えたことで、モンスターの注意がこちらに向く。


「――お手柄だ! カレン!」

「了解!」


 短く言葉を交わすだけでも、互いがどんな行動を起こすのか。

 俺たちはそれを理解していた。


「お前たち――こっちに来い!」

「わんっ! わんわんわんっ!」

「うううううっ! わんっ!」


 俺とわんこたちが騒ぐことで、木の周囲を囲んでいたモンスターたちが一斉にこちらに駆け寄ってくる。

 同時に俺は二匹のわんこを抱きかかえた。

 すると、


「わんっ!」


 右腕に抱えたわんこが吠える。

 すると、右側からモンスターが攻撃してきた。


「おっと!?」


 飛び掛かってくる狼型モンスターの攻撃をギリギリでかわす。


「わんわんっ!」


 続いて左のわんこが吠えた。

 すると引き付けられるようにスライムが左側から攻撃してきた。


「おっとと!?」


 右のわんこと、左のわんこ。

 吠えた方向から攻撃が来る。


「すごいぞお前たち!」


 俺はちらりと子供がいた方向に視線を向けた。

 すると、少女の姿がもう消えていた。

 モンスターを俺たちが引き付けている間に、カレンが既に救助したのだろう。


(――よし、逃げるか!)


 俺は救援技能レリーフ――気配遮断シャットダウンを発動させた。

 この効果は使用者と触れた対象の気配を完全に遮断する。

 結果――モンスターたちには俺が目の前で消えたように映っただろう。


「……すらぁ?」

「ぐぅぅ……!」


 驚いたのかモンスターたちは足を止めた。

 救助隊員は俺だけではなく、それぞれ特別な救助技能を獲得している。

 そして――それが救助ギルドに入隊する条件の一つでもあった。

 魔法にも似た力ではあるが、発動するのに元素や魔力を必要としないのが大きな違いだ。

 ただし救援技能を獲得した者は魔力を失うというデメリットもあるのだが……。


(……さて、わんこたち……静かにしててくれよ~)


 祈りながら俺はゆっくりと森を出る為に足を前に進めた。

 のだが――。


「わくしゅん!」

「くしゅわん!」


 わんこのダブルくしゃみ。


(――おまあああああああっ!?)


 思わずわんこを凝視。

 救援技能で対象の気配を消してはいるが、これほど堂々とした物音はごまかせない。

 本能の鋭いモンスターはたったそれだけで、俺たちの位置を把握して飛び掛かった。


「うおっ!?」


 鋭い爪を突き出すゴブリンの攻撃を避ける。

 が、無理な態勢で避けたこともあって、俺はバランスを崩した。

 茶色の土が視界に映る。

 この状態で攻撃を受けたら、致命傷を負うかもしれない。

 だが、不思議と焦りはなかった。

 何故なら――


「――レスク! 目を瞑って!」


 その声が聞こえた瞬間、カレンが目の前に現れた。

 言われたまま目を瞑る。

 瞬間――ぼ~ん!!


「行くわよ」

「了解!!」


 目を開くと視界を覆うように煙が広がっていた。

 カレンが投げたのは煙球という道具(アイテム)だ。

 このようにモンスターの隙をついて逃げることができる。


「助かった。あの子は?」

「あんたがモンスターの注意を引いてくれてたから、無事に救助完了よ。花を摘みに来たところをモンスターに襲われたみたい……」

「そうか。……とりあず、助けられて良かったな」


 俺が救援技能レリーフを持つように。

 カレンも彼女だけが持つ特別な救援技能を持っている。

 その力はとても便利だが、彼女の力は制限やデメリットも多い。

 たとえば、


 ――ぐぅ~


 カレンのお腹から、可愛らしい音が聞こえた。


「あうっ……」


 俺が視線を向けると彼女は頬を真っ赤に染める。


「み、見ないでよ……」


 救援技能レリーフを使用する度に猛烈な空腹を味わう。

 それがカレンの持つ救援技能の欠点の一つだ。


「こ、これは、あんたが無事で安心したからで……!」


 恥ずかしいのか、カレンは必死に言い訳をしていた。


「カレン……ありがとうな、助けに戻って来てくれて」

「……当然でしょ。あたしたちは――相棒バディなんだから」


 救助ギルドの同期。

 そして十歳の頃からの幼馴染で――共に救助隊員レスキューになろうと誓った。

 俺たちのように悲しむ人を少しでも減らす為に――たとえちっぽけな俺たちでも、誰かを救える力を持てると信じて。


「戻ったら食事に行くか」

「わんっ!」

「わふ~っ!」


 わんこたちが同意する。


「お前らも大活躍だったもんな」


 この二匹がいたから、少女を助けることができた。


「……ふふっ。じゃあ行きましょうか」


 そう言ってカレン微笑して俺の隣を歩く。

 これからも俺たちは共に目標に向かって進んで行くのだろう。

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