第17話 テレビを誕生させよう!
「この世界ってモニターありますよね」
「もにたー?」
言葉通じないリンセスちゃんカワイイ。
まぁ翻訳の問題なわけだが。
「城の前の板って、任意の映像にいつでも切り替えることが可能ですよね」
「なんかすごく説明くさい言い方だが、そのとおりだな」
「あれ、なんていうんです?」
「掲示板だな」
そういえば掲示板って呼んでたな。
紙じゃなくて魔法でいつでも掲示内容を変えられるというだけで。
「あの掲示板って文字じゃなくて映像も出せますよね」
「ん……? できないことはないか……」
考えたこともなかったという感じ。
そもそも姫様の顔を見せるなんてとんでもないという価値観だから映像で報道するっていう考えもないのだろう。リンセスちゃんが直接映像でいろいろお願いすればみんな言うこと聞くと思いますけどね。いや、むしろ強力すぎる独裁国家になるからやめたほうがいいか。
「つまり闘技場の試合だって掲示板に映せますよね」
「は?」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったようとはこのことか。
ふたりともまったく理解できないようできょっとーんとしている。
「待て待て、どういうことだ。掲示板で試合を見せるのか」
「そのとおりです」
「いや……え? さっき半額にするのに反対したのに、まさか無料で見せろって言ってる?」
姫様は理解できなさすぎて口調が変わっている。これが素なんでしょうか。
「はっ!?」
プァンピーはぴーんと来たらしい。
「広告になるんですね!?」
「そのとおり」
なるほどなるほどと、腕を組んでふんふんしている。納得がいったというところだろう。
逆にリンセスちゃんは、さっきよりも真剣に考え始めた。
「ふむ……確かに、ラウンドガールによる広告の効果も、試合の協賛も、戦士たちの協賛も見る人間が増えれば増えると効果的になるな」
さすがリンセスちゃんは聡明でいらっしゃる。
「しかし無料で見れるとなったら、お金を払って見に行ってる人に失礼ではないか?」
「そんなことはないかと。生で見るのはやっぱり同じではないですし。むしろ全部のチケットは結局買えないわけですから、見れなかった試合も見れるのはやはり嬉しいでしょう」
って野球やサッカー好きな人達が言ってた。
俺はあんまりスポーツのことは知らないんだよな。
でもアイドルのライブとかと同じでしょ。
テレビで見てたからこそ、実際に見にいきたい、会ってみたい、応援したいと思うんだよな。
「しかしそうなると掲示板の前に人だかりが出来てしまうのではないか?」
確かにそうだ。
いきなり掲示板をテレビとして販売して普及させるのは無理がある。
俺は日本の歴史の教科書を思い出していた。
公園にある街頭テレビで力道山の試合を見ている写真である。それはちょっと昭和すぎて異世界でやるべきことじゃない気がしますね。
「スポーツバーくらいにしますか……」
「すぽーつばー?」
こてりと首をかしげるリンセスちゃんだ。
ちょっとわざとやってるんじゃないのかと思うくらいカワイイが、指摘してもいいことはないので、真面目な話をする。
「飲食店に掲示板を貸しましょう。そこで闘技場の様子を中継するってわけです。飲み物が売れますし集客手段にもなるからレンタル代は支払ってもらえるでしょう」
「なるほど。それで掲示板の代金や闘技場の様子を映し出す魔法使いを雇う金は工面できるわけか」
「そうです。そして……」
「そして? お前は更に儲ける手段を手に入れるわけか?」
「まさに」
俺がにやっと笑うと、姫様はふふっと笑い返した。
「わかった。バスと同じでポスターを貼っておくのだろう。中継をしていない時間に」
「あー。まぁ、それもいいですね」
「ん? 違うのか」
そう言いながら、細長い人差し指を顎にあてる。ちょっとこのクイズを楽しんでいるご様子。
それがわかっているからなのか、恐れ多いからなのか、それともさっきのクイズを当てたから今度は姫様に譲るつもりなのかプァンピーは何も言わずに突っ立っている。ひょっとしたらもうわかっているのかもしれない。
「そうか、静止画にするのはもったいないのか。前もって動画として記録しておくこともできるな。戦争時には訓練方法を動画にして見せたりしていた」
ブートキャンプのDVDって感じですかね。
目的はダイエットではなく殺人術なのだろうけれど。
「広告動画を再生しておく。これだな?」
「そうなんですけど」
「そうなんですけど……なんだ」
惜しいな~。
そう思っているとプァンピーが口に手を添えて少しだけ小声でヒントを出した。
「スポンサー」
「ん……? あ、中継にもスポンサーをつけるのか!」
「そのとおりです。この番組は誰々が提供しています、というような時間を作ります」
これを番組提供という。多く広告費を払っていればキャッチコピーとブランド名が読まれ、少なければ他、ご覧のスポンサーの提供でお送りします、とナレーションされる。
「つまり掲示板で闘技場の試合を見ている人がそれを知るということか……」
「途中、闘技場の清掃の時間とかあるじゃないですか。みんなその間にトイレ行ったりする。そのときはラウンドガールも何もしようがない。そのときにはスポンサーが用意した映像を流します」
「スポンサーが用意した……広告の映像というわけか」
「そうです! これをCMといいます」
この世界に……CMが生まれた……!
新聞広告やラジオCMより先にテレビCMが誕生してしまったが、まぁそれはそれでいいだろう。
なんせ魔法で出来てしまうので、高い電波塔を建てるという技術力がいらないからな。
「そしてそのCMとやらを放送する権利が欲しいというわけだな」
「さすがです! リンセスちゃん!」
なんと呼んでもいい、とお墨付きを貰っているから堂々と呼んだのだが、当人はともかくプァンピーの見る目が冷たすぎるんだよな……今度からやめよう……。
「取り分は折半にしておいてやろう」
「ははは、ありがたき幸せ」
説明してないのにもう媒体費の割合を言われてしまった。
取り分とか折半という言い方は暴力団っぽいが、むしろ安い。というかボロ儲けに近い。ま、CMそのものを発明した代価だと思って稼がせてもらおう。
それにはっきりいってこの領主にならお金を払うのはまったくやぶさかではない。本当にいい領主なんだよなあ……。
闘技場にいろいろ説明をしたり、ラウンドガールを募集したり、掲示板を飲食店にレンタルすることなどをリンセスちゃんにお願いしたが、こちらもやることは山積みだ。
戦士たちは一旦説明が完了するまで待つものの、ラウンドガールのボードに掲載する広告を売らなければならないし、試合の協賛をしてくれる人も募集しなければならないし、CMも制作しないといけない。
とはいえ、フリーペーパーと同じで売ろうにもCMがなんだかみんなわからないから、とりあえず俺たちでCMを作って流してみますか……。
「プァンピーさぁ……」
なにからやろうか、と相談しようと思ったのだが。
「まず、マホッチのところに行って録画の魔法について打ち合わせしないとですね。一度の魔法でどのくらいの時間が録画できるかわからないので」
「そ、そうだね……」
「ラウンドガールはいかにもおじさんが好きそうですよね。紳士服屋さんとかに営業してみましょうか」
「お、おう……そうだな……」
「思ったんですけど、闘技場でもサンプリングできるじゃないですか。休憩時間に吸えるようにタバコ配ったりできるし、試合の協賛にタバコの銘柄の名前をつけたら覚えてもらえるんじゃないかって思うんですけど」
「……」
思っている以上にプァンピーが有能すぎて、ほとんどやることないかもしれない。
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