異世界の鳴く頃に

kurosuke

第1話

(君のことが好きだったよ、出来ればもっと君のそばで笑っていたかった

離れていく温もりを離したくなかった。

私はどうなっても、君が救われるならば)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

周りを見る限りここは日本ではない。


そもそも僕は家で寝ていたはずだった。


一体何故こんな所に?周りに人はいるのか、


様々な疑問が一気に僕の脳内に押し寄せた。


僕の脳が波寄せる情報の山を処理するのに必死になっている最中、僕の目に人影が写った。


ー誰かいるのか?


背格好は僕と同じくらいだろう。


しかしその方向に進んでいくにつれて、人影は増えていった。


2人、3人、4人…


「あのぉ…誰かいるんですか?」


そう問いかけながら近づくにつれ人影は次第にその姿を取り戻していった。


その中に1人見覚えのある顔を見つけた。


同じ中学の清水 恭子さんだ。


「氷榁君?」


「清水さん、なんでこんな所に?」


「それはこっちが聞きたいわよ!」


「いや、僕もここがどこだか分からなくて……それよりも清水さん、そこにいる3人はどちら様で?」


僕がそう聞くと、見知らぬ3人のうちの1人がこっちへ来た。


「初めまして、僕は直井 律。千葉県立郷見原中学校の2年で、あっちの世界にいた時は学級委員なんてやってました、ここがどこだかは僕には分からないけど皆で無事に元の世界に戻れるように頑張ろう!よろしくね」


見るからに好青年で、背も高くスポーツをやっていたのか程よく筋肉もついている、部活も何もやってなかった僕とは大違いだと言うのが見ただけで分かった。

しかし、僕も同じ千葉県だがそんな学校名聞いたことないぞ。


「直井くんか、こちらこそよろしくね」


「そしてこっちの大きいのが同じ中学の…」


すると直井くんの隣にいた大柄な男が、


「リツと同じ中学で2年の會田 俊三だ。よろしくな、えっと…」


「あっごめん!、僕は千葉県立山茶花中学校で2年の氷榁 韌、ジンでいいよ。それからこっちは同じ中学の清水 恭子さん」


ーホントに大きいな、これで同じ学年なのか。


「清水 恭子ですっ、ジン君以外は初めましてだけどよろしくね♪」


「山茶花中?聞いたことないが」


「実は僕も郷見原中なんて聞いたことなくて…」


まぁだがこんな事態だ、そんなことは今どうでもいい。


「あとは、えっと…」


「神崎 伊織」


「ああ、よろしくね神崎さん」


背が小さく、しっとりとした黒髪に対称的なエメラルド色の瞳を持つその女の子に思わず僕の目は釘付けになった。


「何…?」


「いやっ!なんでもないよ」


どうやら見すぎてしまっていたようだ…


「それよりも直井くん、ちょっと質問いいかな?」


「なんだい?」


「さっき直井くんは゛あっちの世界゛って言ってたけどもしかしてここは僕達がいた世界とは別の世界ってこと?」


「ん?あぁ、向こうを見ればわかるさ」


言われるがまま直井くんの言った方向を見てみると…


そこには地平線の彼方まで辺り一面に広がっている木々ーー


「……!」


思わず言葉を失った。


何故そこまでに絶句したのか、もちろん木々が広がっているだけなら日本にだって似たような場所はいくつもある。


「あれは…恐…竜…?で、でもあんな恐竜は本でも見たことないよ…」


それはそうだ、僕が見た゛恐竜らしきもの゛はとても真っ白くて神々しい、知能さえあるのではと感じさせるようなものだった。それに何より普通の恐竜の10倍はあるであろう大き過ぎる程のその巨体。


「僕もそう思った。あれが本物の恐竜かどうかはまだ分からない、もしかしたら別の゛何か゛なのかもしれない」


゛何か゛とは、あれがたとえ恐竜以外の生物としたら、それこそ一体何なのか。



「とにかく普通の世界じゃないことはよく分かったよ…」


「うん、それじゃあ質問にも答え終わったことだし当面の目標を決めようと思う。まず、水と食料の確保、それから野営をするならその場所も確保しておきたい、あとは…そうだな、とりあえず人のいる村か集落でも見つけられればその人たちの喋っている言語でここがどこなのかくらいは分かるんじゃないかな」


僕もそれがいいと思った。すると會田君が


「リツ、今周囲を見て回ってきたんだがあっちの方向に川を見つけたんだ」


「なるほど、ありがとうシュン。」


そして直井くんはみんなの方を向いて


「早速目的地への方角が掴めたみたいだ、夜明けまでには水と食料を集めて野営の場所を確保したい。準備はいいか、ジン、シュン、神崎さん、清水さん」


ーーーーーーーーーーーーー


どれくらい歩いただろうか…


「さっきいた場所から見た限りではあともう少しのはずだ!皆、がんばれ!」


直井くんは定期的にそんな励ましの言葉を皆にかけている。


隣を歩いていた清水さんにも流石に疲れの表情が浮かんでいるのが見てとれた。


「清水さん大丈夫?大分疲れてるみたいだし何処かで休もうか」


「ジン君…そういう優しくて気を使ってくれるところ昔から変わらないね、でも大丈夫よ、心配してくれてありがとう」


僕は少し照れくさくなった。


(ザザッ)


辺りの茂みで何やら動いた気がした。


「なんだっ!」


直井くんがすかさず皆に警戒態勢に入るように促した。


「僕があの茂みの裏を見てくる…」


そう言って直井くんは段々と茂みに向かって歩を進めていく…


ザッ!


直井くんが勢いよく茂みをどかした。


しかし茂みの裏には何もいなかった…


「フゥ…」


張り詰めていた空気が一気に和らいだ。


「きっと兎か何かだったんだろう、それよりもう川が見えてきたぞ。ほら、あっちを見て」


「ホントだ!やっと到着したんだ!」


清水さんが喜んでいる、やはり相当疲れていたのだろう。


川に着き次第、各々水を飲んでいる。


「かぁあ美味ぇーーー!」


會田君が叫んでいる。


確かにこんなにも美味い水は生まれて初めてかもしれない。


皆がそれぞれ今までの人生の中で至上の水を堪能していたその時だったーーー


「ギシャーーーーーー!!!」


聞いた事のない鳴き声、しかも聞いているだけで耳がおかしくなってしまうくらい不愉快な騒音であった。


「なんだっ!」


直井くんが咄嗟に叫ぶや否や、その鳴き声の主達が姿を表した。

ここが゛奴ら゛のナワバリだったのかは分からない。

そいつらは全身緑色でとても醜い形相を浮かべながら今すぐにでも襲いかからんと言わんばかりの攻撃的な目でこちらをじっと見つめてくる。

ーーーそう、ゲームやアニメでよく見るゴブリンがそこにはいた。

しかも1体ではない、ざっと数えて20匹はいるだろう。

その20体のゴブリンに囲まれ、後ろには川が流れている。これこそまさに背水の陣。絶体絶命だ。


「皆、相手は集団行動が出来るほどの知能を持っている、尚且つこちらに敵意があり、おまけにこっちは数でも負けているし武器もない丸腰だ」


直井くんの言いたいことは分かる、勝てるわけがない。逃げるべきだ。


「ここは僕が時間を稼ぐ、無警戒に皆をここまで連れてきてしまった僕の責任だからな……皆は僕が奴らを引き付けている間に上手く逃げてくれ」


1人置いて逃げるなんて、そんなことできるわけが無い。


「ダメだ!直井くんも一緒に逃げなきゃ、それにみんな合意の上でここまで君に付いてきたんだ。誰も君のせいなんて思っちゃいない!」


「そうだぜ、リツ1人置いて逃げるなんて死んでも出来っこねぇ、どうしてもって言うなら俺もここに残ってやる!」


「そうよ!こんな事態になったのは誰のせいでもない、お願いだから力を合わせて皆で逃げ切りましょう?」


「みんな…ありがとう……そうだな、皆を残して自分だけ先に死ぬなんてそれこそ無責任だ。みんなで生きてこの状況を切り抜けるぞ!約束だ!」

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