⑥ ダークネス真緒登場

 裏地球の魔王城避難場所でスクリーンに映し出される、裏地球の者たちが勝利していくたびに歓喜の声が沸き上がる。

「あっ、モリブデンさんが表地球の怪物『アナザー・モリブデン』をカプセル怪人で倒して──あっちでは白玉栗夢さんが、掃除機との合成怪人『バキューム白玉栗夢』を頭突きで倒した! みんなスゴいなぁ」

 

 感心するマオマオ、コウモリ姿でタオルにくるまれた、表地球の果実が真緒の腕の中でうっすらと目を開ける。

「あっ、気がついた? 気分はどう?」

 コウモリ果実は、スクリーンを見て言った。

「表地球のダークネス真緒は?」

「まだ、現れていないけれど」

「ダークネス真緒をどうにかしない限り、この闘いは終わらない……倒された表地球の者たちは、何度でも復活して裏地球の者たちに挑んでくる……最後には疲労した裏地球側が敗れる」

「なんだって?」

 表地球の緋色が言った。

「その通りよ、この闘いを終わらせためには魔王真緒と、地球の子の力が必要なの……直接、表地球の魔王城に乗り込んでダークネス真緒の心を救うしか方法がないの、裏地球の擬人化娘を一刻も早く探さないと」

「そんなコト、急に言っても、どうやって探せばいいの?」

 真緒が困っていると、避難してきている者たちの中から、銀鮫海斗と灼熱雷太が真緒の前に出てきた。

 雷太は局部を、公園で拾った葉っぱで隠しただけの省エネルックだ。


 海斗が言った。

「真緒、雷太のヤツがいい考えがあるそうだから、聞いてやってくれ」

「なーに、いい考えって」

 雷太が言った。

「避難してきた人たちに向かって『この中に、擬人化した裏地球の人はいませんか?』って聞いてみたらどうだ、案外いるもんだぞ」

 裏地球の暗闇果実は。

(そんな安易なドラマみたいな、偶然あるわけが)

 そう思ったが、マオマオは雷太の提案に即ノッた。

「すごいよ雷太! ボクには思いつかなかったアイデアだよ! 聞いてみる。この中に、裏地球の擬人化さんはいませんか? いたら手を挙げてください」

 避難してきた人たちの中から、ショートパンツ姿でアイスクリームを食べている。

『蒼穹テラ美』が挙手して進み出てきて言った。

「ここにいるよ、やっと気づいてくれた、あたしの出番ね」

 感激する魔王真緒。

「すごい、本当にいた……それじゃあ、この中に宇宙人とか未来人とか超能力者とか異世界から来た人は?」

 ガニィ星人姉妹を含め、数十人が手を挙げた。真緒も異世界から来た人の一人として挙手する。

「わぁ、いろいろな人がいるんだね……それじゃあ、この中に……異世界からの転生者とか……」

 調子に乗って、本題から外れそうな真緒を海斗が引きもどす。

「今は地球の擬人化した者を探し出しているんだろう……蒼穹テラ美だったか、たまに学校で見かけてはいたけれど、地球の子だっていう確かな証拠は?」

 アイスクリームを食べながらテラ美は、自分の膨らんだ胸を指で示す。

「この一番高い体の箇所が、地球で一番高い山……お尻と太モモは広い大陸、汗をかいている背中とお腹は海、おヘソは広い湖」


 ここで雷太が、余計な質問をテラ美にする。

「じゃあ、地球の一番深い海溝は、体のどの辺りなんだ? 教えてくれ」

 顔を少し赤らめるテラ美。

「そんなコト……言えるか」

 地面が熱くなった。

 少し疑い深い海斗がテラ美にさらに質問する。

「北極と南極が穴でつながっているってのは本当だったんだな……もう少し、確実に地球っだっていう証拠を見せてくれ」

「証拠……ねぇ、じゃあこんなのはどう。あたし学校では演劇部に所属しているから」

 テラ美は、片方の頬を手で押さえると涙目で言った。

「ぶったね……木星にもぶたれたコトないのに……蹴ったね、地球の顔を蹴ったね……怒るよ」

 魔王城の敷地内にある、内部のマグマの状態が見える模型のような半分火山が噴火した。

 海斗が言った。

「顔を蹴られた地球が怒って火山を……わかった地球の子だって、信じる。

どうして、そんなに身体中、絆創膏だらけなんだ?」

「そりゃあ、魔王の息子に何回もやられれば……心身も鍛えられて強くなる」

 海斗が真緒を睨み気味に言った。

「マオマオ、おまえテラ美に何やったんだ? まさか、変なプレイを?」

 慌てて裏地球の果実が口を挟んで、海斗の会話を遮断する。

「とにかく、地球の子は見つかったんだから……表地球の魔王城に乗り込むメンバーを決めないと、真緒とテラ美はメンバー確実だとして他の選抜メンバーは、あたしは怪人衆の一人として誰が反対しても、真緒と一緒に行くから」

 海斗の頭が銀鮫怪人の頭に変わる。

「果実が行くならオレも行く」

 子供姿の桜菓が言った。

「魔力で魔王城に送れるのは、六人まで残り誰と誰が行く?」

 桜菓の言葉に二名の人物が名乗りをあげる。

 一人は青賀エル、もう一人は松葉杖をついた百々目一色だった。

「表地球の青賀エルとは決着をつけないとね」

 百々目一色が、松葉杖を捨てると体のキズがプラナリアの再生力で見る間に完治する。

「あたしも行くわ、あの百々目一色の邪眼厄災は怪物レベルよ……あたしじゃないと対処できない」

魔王真緒

蒼穹テラ美

暗闇果実

銀鮫海斗

青賀エル

百々目一色

の六人が、表地球の桜菓が作り出した、魔法円の前に集まる。

 青賀エルに近づいた、瑠璃子が匂い袋のようなモノをエルに手渡す。

「持って行って、いざという時に役に立つと思うから」

「ありがとう」

 表地球の擬人化娘が真緒たちに深々と頭を下げる。

「すいません、表地球のあたしがしっかりしていないから……みなさんに、ご迷惑をおかけして」

 真緒たちは魔法円を通過して、表地球の魔王城に突入した。



 魔法円の向こう側には、表地球の青賀エルが薄笑いを浮かべて待っていた。

「いらっしゃい……待っていたわよ」 

 裏地球の青賀エルが、大剣を担いでサソリの毒尾を揺らす、表地球のエルに訊ねる。

「どうして、魔法円を越えて裏地球の魔王城を襲撃しなかったの?」

「ダークネス真緒さまから、直接乗り込むコトは禁止されているから……ダークネス真緒さまがいるのは、この先の部屋よ。一人を残して通過していいわ」

 二人の青賀エルを残して、真緒たちは表地球のエルの横を通過して先へと進む。

 青賀エルが大剣を構える。

「それじゃあ、はじめるとしますか……表と裏の天使の闘いを」


 真緒たちが進む通路の先に人影が見えた。先頭を進んでいた百々目一色が、立ち止まって言った。

「マオマオくん、先へ行って……後から追いつくから」

 前方の通路には、黒衣の医療コートを着て腕組みで壁に背もたれている表地球の、百々目一色がいた。

 真緒たちが目の前を通過しても、黒衣の百々目一色は無視して通過させた。

 白衣コートの百々目一色が残ると、壁から離れた表地球の邪眼一色が言った。

「どっちの邪眼が優っているのか……比べてみようじゃないの」



 真緒たちは、ダークネス真緒がいる広間に到達した。

 そこには、黒い長ランでマント姿の目つきが鋭い、ダークネス真緒がいた。

 食肉植物の口に、用途不明なファスナーが付いているロックミュージシャンがしているような革の手袋をした手で。

 食べ残したピーマンやニンジンを、無理矢理押し込んでいるダークネス真緒が言った。

「来たか、思っていたより早かったな……少しだけ待ってくれ、食肉植物にエサを与えているところだから」

 食肉植物が床にペッペッと吐き出した、ピーマンやニンジンを箸で摘まんだ、ダークネス真緒は。

「好き嫌いしないで野菜も食べろ!」

 そう言って涙目の食肉植物の口に、ピーマンやニンジンを押し込んで、吐き出さないようにヒモで口を縛りつけてから、真緒たちの方を向いて言った。

「オレは基本的には暴力は嫌いだ、ここは平和的な会話解決をしようじゃないか……ひとつ、オレから提案したい」

 真緒がいつもの、のほほんとした緊張感が無い口調で言った。

「なに? 表地球のボク」

 ダークネス真緒は、真緒たちを高飛車な目で見下しながら、指差して言った。

「降伏か服従か……好きな方を選べ、この裏地球世界を、オレの魔王色に染めてやる」

 ダークネス真緒の言葉にカチンと切れる海斗。

「ふざけるな!」

 海斗の姿がホオジロサメ系で、両腕がチェンソーとハンマーのサメ怪人に変わる。

「マオマオは、時々天然ボケをしていてイラッとくる時もあるけれど。おまえほどムカつくヤツじゃねぇ……真緒と同じ顔をしているけれど、おま……」

 海斗が最後まで言い終わり前に、ウツボカズラ種の食肉植物にカプッと頭から食べられた。

 ダークネス真緒が、嘲笑いを浮かべながら言った。

「野菜ばかり喰わせていたからな、肉も喰いたかったんだろう……どうだ、フカヒレは美味いか」

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