⑤ 音恩・シャコ・ビネガロン

 別の場所では、表と裏の水浅木音恩が、おっぴろげ竜巻脚で激突していた。

 コマのように回転してぶつかり、弾き離れた裏地球の音恩が言った。

「やるじゃない、あたし」

 日焼けした黒ギャルの、表地球の音恩が言った。

「格闘アイドル界に同じ顔は二人いらない……倒す」

「もう一人のあたし、表情暗いよ、口角あげていこう♪ それじゃあ、この技ならどうかな」

 音恩はゴロゴロと前転で間合いを詰めると、表地球の音恩を得意の技で投げ飛ばす。

「地獄巴空中五段投げ!」

 二度、三度と投げられ上昇していく表地球の音恩が技の返しにでた。

「甘い! 地獄巴空中十段投げ!」

 六度、七度と投げ返されて上昇していく裏地球の音恩は、地面に叩きつけられる。

「げふっ!!」

 顔面から落下した裏地球の音恩は、すぐに立ち上がって言った。

「やるじゃない、でもステージ中央の座は譲れない……新技受けてみなさい!」

 音恩は、山で「ヤッホー」をするようなポーズで、表地球の音恩に向かって声を浴びせる。

「『絶○拳』ウーヤーター!」

 一時的に三半規管が狂わされ、大地が揺れているような感覚になる表地球の格闘アイドル。

 すかさず、裏地球の音恩はつかんだ表地球の音恩を、空中に放り投げると自分もジャンプして、空中で技の体勢に入る。

 表地球音恩の両足首をつかんで、顔面騎乗するような形になる裏地球の音恩。

「恥部奥義『顔面騎乗バスター』!!」

「げぶっ」

 見せてもいいパンツを顔に押さえつけられたまま、表地球の音恩は後頭部を大地に激突させられ……意識を失い敗れた。



 春髷市の海岸では、表地球の青潮シャコと裏地球の青潮シャコが闘っていた。

「おらおらおら! 防戦するだけかよ! あははははっ」

 顔に傷がある凶悪な表地球の青潮シャコのパンチ攻撃が続く、裏地球のシャコは必死にパンチ防御をする。

 殴りながら表地球のシャコが言った。

「あたしは、ダークネス真緒さまの強さにひれ伏して、真緒さまの忠実な下僕になった……真緒さまに牙剥く者は許さない、あたしは真緒さまの奴隷戦士!」

 裏地球のシャコが言葉で反撃する。

「そんなの間違っている……ダーリンは力を誇示なんてしない、ダーリンとの関係が下僕や奴隷の繋がりなんて悲しすぎるよ」

「ほざけ! それが裏地球連中の弱さだ! 見ろ真緒さまからいただいた力を」

 表地球のシャコは、背負っていた循環式の海水ボンベを外し、被っていた海水がつまった球体の上陸カプセルをグローブで叩く。

 上陸カプセルにヒビが走り、割れたカプセルから海水が勢いよく漏れだした。

「真緒さまのお力で、あたしは地上でも生存可能な生物に進化した……その代償で水の中では、息ができなくなって溺れる」

「そんな……海中人が海を捨てるだなんて」

「弱者の戯れ言は、あたしに勝ってから言え!」

 表地球のシャコの横パンチを、しゃがんでかわした裏地球のシャコはアッパーパンチを放つ。

「愛の超マリンスノー・ガラクティカ!!」

「ひいぃぃぃぃ!」

 空中に吹っ飛んだ表地球の青潮シャコは、そのまま海に落下した。



 暁のビネガロンは、地中から出現した。ゾンビ・ビネガロンと遭遇していた。

《うわっ、なんだコイツキモい!? ロボットなのに腐ってやがる、近づくな!》

 腐肉臭と赤サビ臭が混じった不気味な、表地球のゾンビビネガロンが裏地球のビネガロンに迫る。

《あぁぁぁぁぁがぁぁ》

 口から腐汁を垂らし、腐敗息を吐きながら近づいてくるゾンビ・ビネガロンに、暁のビネガロンは顔をしかめる。

 ゾンビ・ビネガロンの破損したボディーの操縦席には、白骨化した表地球の国防、東雲、山吹の遺体がシートベルトで固定された形で座っていた。

《呪われているのか? 呪いをかけられたロボットなのか? こんなヤツを相手にどうすれば?》

 ゾンビ・ビネガロンの前方に出した両腕が、肘のところからボトッと地面に落ちてから、浮かび上がってまた腕がくっつく。

《ドテパンチか!? 今のは、ドテっ腹に風穴あけてやるパンチか!? 炎じゃなくて変な汁が出たぞ!》

 逃げ出したかったビネガロンは、自分の体に語りかける。

《今、オレの中で操縦席にいるのは誰だ?》

 ビネガロンの体の中から声が聞こえてきた。

「オレだ、国防だ」

《おまえ一人か?》

「そうだ、東雲と山吹には今回は外れてもらった……壮絶な闘いになるかと思ってな」

《格好つけやがって……最終回に一人で出撃するロボットアニメのヒーローのつもりか》


 ビネガロンは国防が乗っているコックピット部分を、まるで四角い絆創膏を剥がすように指で開くと。

 中にいた国防を虫でも捕まえるように、指先でつまみ出して遠くに放り投げた。

「うわっ! 何をするビネガロン! ひいぃ!」

《うるせぇ、中に人間が入っていると気になって思いっきり闘えねぇんだよ! さあっ、かかってきやがれゾンビ野郎》

 その時、ビネガロンの背後から抱きついてきた者がいた。

《ビネガロンめっけぇ♪》

 紺碧のテイルレスに背後から抱きつかれた、ビネガロンの背骨がベキベキと音をたてる。

《ぐあぁぁ! 離れろテイルレス! 今はそれどころじゃねぇ! おまえにハグされると体調が悪くなるんだよ! 状況をよく見ろ》

 女性型ボディーラインのテイルレスは、前方にいるゾンビ・ビネガロンに気づく。

《うわっ、ゾンビのビネガロン……すっごい》

 テイルレスは取り出したスマホでゾンビ・ビネガロンを撮影する。

《インスタグラムに送信っと、何やっていたのビネガロン?》

《見りゃわかるだろう、闘っているんだよ。テイルレス……おまえの操縦席には誰か乗っているか?》

 テイルレスは、ヒップを押さえる。

《バッカ・コ・コアは避難させたよ》

《よし、二人であのゾンビロボットを倒すぞ。おまえが地獄のハグで、あいつの動きを止めたところにオレがとどめを……》

 モロにイヤそうな顔をするテイルレス。

《えーっ、イヤだぁ。あんなのに触りたくない》

《じゃあ、おまえのデルタブーメランで……》

《ベトベトしたの、つきそうだからイヤ》


 テイルレスの黒いデルタブーメランは、着脱する時には、ビネガロンに背を向けて見せないように着脱して敵に飛ばしている。

 下腹部を見ながらゴソゴソやっているところを見ると、どうやらその部分からテイルレスはブーメランを着脱しているらしい。

 ビネガロンがテイルレスに質問する。

《おまえ、どんな攻撃ならできるんだ?》

《胸の遠距離攻撃ならできるよ》

 テイルレスはDカップの胸をグイッと突き出す。

《あたしが、オッパイミサイルで弱らせたところを、ビネガロンがとどめを》

《わかった、おまえの胸に賭ける》

 テイルレスは、ゾンビ・ビネガロンに向かって突き出た胸を向けて叫んだ。

《Dカップミサイル!》

 テイルレスの胸が飛ぶ。ゾンビ・ビネガロンに命中して爆発するロボットの乳房。

 サイズを変えた胸ミサイルが次々と発射される。

《Eカップから、Fカップミサイル……そして、Gカップ!》

 巨乳化していく、オッパイミサイル。最後にはテイルレスが下から手で支えるほどの爆乳ミサイルになった。

《これが、最後のHカップミサイルだぁぁ!》

 大爆発を起こして粉々になるゾンビ・ビネガロン。


 空中からドス黒い腐汁の雨が、ビシャビシャと降り注ぐ。

 テイルレスがペロッと舌を出して笑う。

《ごめん、ビネガロンがとどめ差す前にやっつけちゃった……てへっ》

《お、おぉ、おまえの胸に賭けて正解だったな》

 気恥ずかしそうにビネガロンは、放り投げて気絶している国防を、そっと自分の操縦席に押し込みもどした。

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