④ 裏地球VS表地球

 士官服姿の緋色が言った。

「あたしたちがいた世界は支配欲が強い『ダークネス真緒』に支配された平行世界の表地球──あっ、表地球っていうのはダークネス真緒が勝手に呼んでいるだけで、本来は世界に表も裏も、正も負も、どちらが本物でどちらが偽物なんて無いからね。

説明する便宜上、そう呼ばせてもらっているだけだから気を悪くしないでね」

「うん、別にボクは気にしないよ……説明を続けて」


「ダークネス真緒の、表地球の完全支配から逃げた者や、ダークネス真緒に抵抗して、闘いを挑んだ者たちもいた……あたしと、桜菓、メッキの三人はレジスタンスのリーダーなの」

 表地球の緋色は、地中人はダークネス真緒に、さらに地中深くに追いやられ、地中人から地底人、さらにはマントル人へと呼び名が変わったコトを告げた。


「そしてこれが、進化というか退化というかマントル層まで追いやられて黒目が無くなった、元地中人」

 そう言って緋色が見せてくれたスマホに残されていた写真には、両目が真っ白になった京紫の君や、キャプテン・ログホーンの不気味な姿が写っていた。

 表地球の緋色の話しは続く。


「海中人は一人を除いて、深海人、さらには海溝人へと追いやられ……現在はどうなっているのか不明……他にも消息不明の者たちや。

ダークネス真緒に破壊された者、殺された者や、追放や幽閉、封印された者が多数で……もう、表地球はメチクチャよ。

表地球の征服を完了したダークネス真緒は、今度は裏地球の支配に乗り出してきたの──あたしや桜菓たちは、この裏地球の住人を宇宙とかに避難させようとしたけれど、多くの人たちから避難するなら魔王城の地下の方がいいって言われて……そりゃそうよね、裏地球では魔王城が一番安全な場所だから」

「だいたいの事情はわかったけれど──表地球の緋色さんは偉い人になっているし、桜菓さんとメッキさんは子供の姿に? 果実は、どうしてコウモリの姿に?」


 表地球の緋色が言った。

「あたしは、狂介から離れたから銀河探偵機構の長官に出世して……桜菓とメッキは」

 子供姿のメッキが、言葉を繋げる。

「コチの世界から、アチの世界に移動する望みの時、インディゴに前の時間の対価を払ったからだ──インディゴは力を使い果たして、小さくなっちまったがな」

 子供姿の桜菓が、真緒の腕に抱かれているコウモリ果実を指差して言った。

「暗闇果実は、ダークネス真緒に表地球の支配をやめるように意見して、ダークネス真緒の魔力でそんな姿に、ダークネス真緒は呪いを使う……一人ばかり、表地球から連れてきた住人で紹介したい人がいる。こっちに来て」

 避難してきた春髷市の市民と会話をしていた、サイドで髪を束ねたポニーテールでショートパンツの女の子が、桜菓に呼ばれてやって来た。

 オドオドした雰囲気の気弱そうな女の子だった、桜菓が言った。

「紹介する、表地球の擬人化娘──『表地球の子』だ」

 桜菓から紹介された表地球の擬人化娘は、ぺコリと真緒に頭を下げて言った。

「すみません、本来ならあたしがちゃんとダークネス真緒を抑えていないといけないのに……あたしが無力なばかりに、裏地球のみなさんにご迷惑をお掛けして……このお詫びは、腹かっさばいてマントル流出させて」

「いや、そこまで詫びなくていいから……裏地球で腹かっさばいてマントル出しても、なんの意味もないから」

 真緒が落ち込んでいる表地球の子を励ます。

「君のせいじゃないよ、悪いのは悪党で許せない最低のダークネス真緒……へ~えっ、擬人化した地球の姿なんて初めて見た」

「そんなにジロジロ見ないでください……スペースシャトルから見られているみたいで、恥ずかしいです」


 表地球の子の顔を凝視していた果実が思い出したように言った。

「どこかで見たことある顔だと思っていたけれど、今思い出した! 真緒を遠くからたまに眺めている。身体中に絆創膏貼ったあの子じゃない──確か隣のクラスにいる、名前は『蒼穹テラ美』〔そうきゅうてらみ〕」

「えっ、擬人化した地球、うちの学園の生徒なの?」

 その時、ひょひょひょという老婆笑いが聞こえ、避難してきた者たちの中から等身は百六十センチくらいで、サイズだけ二頭身の大正時代の女子学生美女が進み出てきた──美少女だが、二頭身なので見た目が不気味だ。

「ひょひょひょ、なんだラグナ六区学園に地球の子が、生徒として在籍していたコトを知らなかったのかぇ?」

「学園長!?」

「そうじゃ、若返った学園長のフランボワーズじゃ……思っていたよりも早くババァの皮を脱皮できたのでな。欲しかったらやるぞぇ、面の皮が特に厚いババァの皮を」

 そこにいた者たちは一斉に、手を横に振って脱皮後の老婆の皮を拒否した。

 学園長が言った。

「誰も老婆の皮を欲しくなかったら、額にでも入れて学園長室に飾るとするかのぅ………魔王の息子よ、この難局をみんなで協力して乗り越えるのじゃ」


 その時、魔王城の避難区域に亜区野組織、総司令室からの女性アナウンス声が聞こえてきた。

《春髷市上空に高エネルギー反応を確認しました……各エリアのスクリーンに映し出します》

 二面の壁が投射スクリーンに変わった。

 春髷市の上空に渦巻く雲の中から、丸い穴が開いた虫の脚のような金属アングルの脚が八本現れ、春髷市に突き刺さる。

 まるで、ザトウムシかユウレイグモを連想させる八本脚の真ん中にある、漆黒の魔王城が雲を掻き分け、ゆっくりと下がってきて空中で停止する。

 表地球の緋色が言った。

「表地球の魔王城──ついに、ダークネス真緒がやって来た」

 もう一面のスクリーンが分割画面に替わり、各所で表地球の者たちと闘っている、裏地球の者たちの姿が映し出される。

 その中のひとつに、極神狂介の姿を見つけてエプロン姿の緋色が呟く。

「狂介……なにあの、狂介と離れて向かい合っている黒いザ・ステンは?」



 極神狂介は、困惑していた──いきなり現れた、ブラックボディーのザ・ステンに。

(なんだ、コイツ黒光りしていて、オレより格好いいじゃないか)

 狂介がそんなコトを考えていると、黒いメタリックなバトルスーツを装着したダークネス真緒に屈した、表地球のザ・ステンは青竜刀のゴクドーブレードを構える。

 狂介のハートに火がつき、心のエンジンがキャルキュルと音を出して動き出した。

「この展開は、刃を交えないと収まらない流れだな……爆!〔バオ!〕」


 一部にサビが浮かんでいる宇宙金属のバトルスーツを、半身装着する単品ヒーロー。

「刻んで炒めて、へいお待ち! 銀河探偵ザ・ステン! 今回は半身装着かよ、ゴクドーブレード包丁サイズ!?」

 半身ステンの狂介は、黒いザ・ステンに向かって言った。

「おまえも、何か一言言えよ……ずっと、黙ったままじゃねぇか」

 狂介の言葉を受けて、黒いザ・ステンの呟きが聞こえた。

「あ、暑い」


 ゴクドーブレードと、ゴクドーブレードの激突。

 火花が飛び散る、半身ステンの狂介が言った。

「力は互角か……一か八か、アレを試してみるか一度だけキャンプ場で見た技だが」

 狂介は、以前マオマオたちのつき添いで行ったキャンプ場でカレーを作る時、マオマオやっていた包丁さばきを思い出していた。

 魔王真緒は、肉や野菜やマナ板までも、その切り方で切っていて果実や海斗から怒鳴られていたのを思い出す。

「確か、こんな構えから入ったよな」

 包丁サイズのゴクドーブレードを構える狂介。

 狂介の背後が必殺技の背景に変わる。


「見よう見まね技『かつら剥き』!」

 表地球のザ・ステンの金属スーツがまるで、時代劇で悪代官から帯を引っ張られ「あーれー」と、クルクル回る町娘コントのように切り取られていく。

 数分後──顔のマスクを残して、首から下を縦縞パンツ一丁に剥かれ倒れる、黒いザ・ステンの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る